理解できない53

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 彼に掴まれていた手は開放されて、彼が動くのに合わせて腰に回していた腕は外れてしまった。けれど代わりとばかりに、今度は相手の腕が腰に回ってきて抱き寄せられる。
「好きは偉大だって、俺も思ったよ」
「え、理由は?」
 思わず聞き返しながら、言わないとか教えないとか返ってくるのを覚悟したのに、相手はそんな事は言わなかった。それどころか、ニヤリと笑ってみせるから、むしろ相手はその理由を教えたいのかも知れない。
「好きな子が、好きって思ってくれてるのがわかるセックスが、めちゃくちゃ最高だったから」
 待ったかいがあったよと、嬉しげに笑まれてなんだか少し恥ずかしい。酷いセックスをしたと思ってもいるし、またしても昨夜の痴態があれこれと蘇ってしまって、羞恥はじわじわと募っていった。
「あんな酷いセックスすんの、初めてだったんだけど……」
 フイッと視線を逸らして、悔し紛れに言ってしまった言葉も、相手を苦笑させただけだった。
「それ、その酷いセックスが、嫌だったとか、もうしないとか、そういう話じゃないんだろ?」
「うん。あのさ、」
「ん、なに?」
「その、あんな幸せなセックスも、初めてだった」
 素直に良かったって言うだけが、なぜか難しい。でも、デレッと緩んだ嬉しげな顔を見れば、ちゃんと言えてよかったとも思う。
「そっかそっか。じゃ、またしような」
「また、って今夜も?」
 明日は当然休みだし、本来なら今日こそが抱かれるだろう日だったのだ。次回が来週末までお預け、なんてことはさすがにないと思いたい。しかし相手の返答は、こちらの想像のさらに上を行っていた。
「いや、朝飯食った後」
「えっ、早い」
「嫌? そういや体調は? どっか痛いとか気持ち悪いとかあるか?」
 無理させるつもりはないから素直に言っていいと続いた言葉に、体調的な問題は何もないと返す。
「ちょっとビックリしただけ。むしろ夜よりありがたいかも」
「なんで?」
「一日食べられないより、いいかなって。あ、でも、更に今夜もするかもか……」
「待て待て待て。朝も昼も夜も、お前も一緒に食うんだよ」
 試させてって言ったろと言われて、昨夜の会話を思い出す。そういや、恋人同士のセックスに食事制限が必要なのか試したいと言われて、今日抱かれるつもりでいたのを早めて、昨夜抱かれたんだった。
「試した結果、食事制限必要なしなの?」
「確定ではないけど、特に汚れることもなかったし、お前があれだけ感じられて、今も体調的な問題がないってなら、必要ないんじゃないかって気持ちは強いな。ただ、夕飯抜いた状態でしたから、朝飯食った状態でも試したい、ってのはある」
「ああ、試させてっての、まだ続いてるのか」
「そう。もしちゃんと食べた状態だとお腹苦しいとか、セックス集中できないとか、感じられないとか、そういうのあるなら考えないとだろ」
「考えるって何を?」
「平日の夜にムラっときた時、そのままお前を抱いていいか、抜きあうだけに留めるかどうか?」
「あー……ああー……そういう話か」
 恋人とイチャイチャしてたら、そのまま抱きたいとか抱かれたいとか、思ってしまうことはきっとある。日付と時間を指定されて、それに合わせてしっかり準備しておくセックスが当たり前だったから、恋人同士って部分が大事だと言われてもわからなかった。
 そうか。恋人同士なら、そうやってセックスまでする場合も、本当に起こるのか。突然このまま抱きたいと言われても断らざるを得ない場合はあると思っていたし、それに応じるなら常に抱かれても平気な体を用意しておかなきゃならないし、相手もそれがわかっているから、言いたくても言えずに居る可能性を考えたりもしていたけれど、今後はいきなり今日は抱きたいって言われる事があるのかも知れない。
 そして自分だって、特に問題がないってわかってれば、安心して気持ちのままにそれを受け入れられる。いつ抱きたいって言われてもいいように体を準備しておかなくていいのだから、相手が心配するこちらの負担は確実に減る。
「そう。そういう話」
「てか問題なければ平日の夜にも抱いてくれるかもなの? って、俺、いつまでここで暮らすの?」
 二度目のセックスが無事に済んだら、自宅へ戻されるんだと思っていた。そしてまた、週末にここへ通うことになるんだろうと思っていた。

続きました→

 
 
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