理解できない8

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 童貞にいきなりフェラはハードルが高いと言われたはずだ。けれど一緒に暮らすようになってからの断り文句は全部、子供のうちはダメだというもので統一されていたから、すっかり意識の外だった。
「あー、そんなこと言ったかも。ただそれ、お前のフェラ断るための嘘」
 童貞だからという理由でフェラを断られた話を持ち出せば、相手もすぐに思い出したらしい。そしてあれは嘘だったと続いた言葉には納得しか無い。それなりの誘いを何度も仕掛けたけれど、童貞っぽいと思ったことなんてなかった。
「だと思った。けど、だったらそっちはなんの卒業旅行なの?」
「え、それ理由いるか?」
「え、一緒に卒業旅行しようって誘いじゃなかった?」
 顔を見ればどうやら違うのはわかったけれど、相手は違うとは言わず、何かを考えるような素振りをする。
「そうだな、じゃあ、お前の保護者卒業旅行、とかどうだ。もしくは家族卒業」
「え、家族?」
 さんざん子供扱いされてきたし、家の中にしろ学校生活にしろあれこれ気遣って調整してくれたり、目に余るような常識の違いは訂正してくれたり叱ってくれることもあったから、保護者卒業は納得だけれど、家族卒業には違和感しかなかった。
「俺たち家族だろ?」
「なにそれ初耳」
「まぁ確かにはっきり言ったことはないかもな。ただ、戸籍は弄ってないけど、お前がこの家の中でどういう存在かって言ったら、上二人とはちょっと年の離れた末っ子みたいな扱いなんだよ。少なくとも今は。てかそういう扱いに全然自覚ない?」
 あるわけないだろと言いかけて、いやでもどうだったろうとこの数年を振り返る。父さんとも母さんとも兄さんとも呼んだことがないし、自分の中で彼らを家族と思ったこともないけれど、この家の末っ子として扱っていたと言われれば、なんとなく思い当たるふしがないこともない。
 特におじさんやおばさんに対しては、この家の末っ子として扱われたと思える事柄があれこれ浮かぶ。同時に、本当の両親との間に何があったか知っている彼らが、何も言わずにただただこの家の一員として受け入れ、家族として接してくれていたことにも気づいた。
 それを素直に嬉しいと思うにはまだ少し時間がかかりそうだけれど、欠片だって不快ではないし、胸の奥がむずむずとするこの感じには覚えがある。いつか素直に嬉しいと言える日がくるだろう予感がある。
 ただ、目の前のこの男に対してはどうだろう。保護者は納得でも、兄のように振る舞われた記憶はない。高校卒業したらという言葉を引き出すためとは言え、何度も性的な誘いをかけていた相手なわけだから、さすがに弟としては扱えなかった、と言われればそりゃそうだろうとしか言えないけれど。
「おじさんとおばさんに関してはわかった気がする。けど、年の離れた弟って扱われてた気はしない」
「これでも一応努力はしてた。けど、わかりやすく兄貴面なんかしたら、お前が嫌がるだろうと思ったし、傷つけそうだとも思ったし、高校卒業したらって話がどう転ぶのかわからなすぎて無理だった」
「でも気持ちの中では、弟、って思ってた?」
「そういう部分は間違いなくある。だから、保護者だったり家族だったりを卒業してからお前を抱きたい、って意味で一緒に卒業旅行するのはいい気がする」
 嫌かと聞かれて嫌じゃないと返せば、嬉しそうにどこへ行くかを考え出す。一緒に携帯を覗き込んであれこれ言いながらも、頭の隅では、保護者や家族を卒業されてしまったら、彼との関係はどうなるんだろうと考えていた。

続きました→

 
 
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