カーテンを閉めに来た際に運ばれてきた液体をさっさと飲み干し、口直しのキスを足りないと言って何度もねだる。律儀に応じてくれるのは、やはり憐れみからだろうと思う。
生きるために必要なエネルギーは朝夕飲まされる液体でかなり補えているはずなのに、先日目の前の彼の舌を吸いまくってから先、体の奥が疼いてたまらない。なのに食事担当の彼が来てくれる気配はないし、目の前の彼が代わりに抱いてくれるわけでもなく、日々少しずつ追い詰められていくような気がする。
そんなこちらの状態を、世話係として付き添っている彼が気付かないはずがない。ただこちらを心配する彼の提案は、口直しのキスをしばらく止めることだったので、それは断固拒否した。
彼の言いたいことはわかる。口直しのキスに触発されているのは事実だろう。でも抱いて貰えないのにキスまで取り上げるなんてあんまりだ。
結果、口直しで貰う唾液に体が疼いてもお前が抱いてって誘わないからと頼み込んで、キス停止は免れたし、口直しで貰うキスの量も増えた。でもいくら直接的な誘いをかけなくたって、抱かれたくて疼いてしまう体を隠し切ることは出来ないし、それを振り切って部屋を出なければならない彼へ精神的負担を強いているのも事実だ。
時折泣きそうな顔をするようになってきたから、憐れまれているのはこちらのはずなのに、可哀想なことをしていると思ってしまう。困らせたいわけじゃないのに、困らせてばかりだった。
「ありがと。も、いい」
そう言いながら顔を離したくせに名残惜しくて、そのまま俯き相手の胸元へ額を押し付ける。羽織られた薄布が邪魔だった。直接彼の肌に触れたい衝動で、むき出しの腕をそっと掴んで撫で擦る。ところどころゴツゴツしているけれど、ひやりとして滑らかな肌触りは気持ちが良かった。
緊張しているのか腕にはかなり力がこもっているし、呼吸もほぼとまってしまっているが、慌てる様子はなく触れる手を振り払われることもない。こちらからの接触に慣れてきたというよりも、慎重に様子を見られているがきっと正しい。事実、顔を上げて見つめる先では、泣きそうな困惑顔ではなく、真剣な目が心配そうにこちらを見つめていた。
「お前の肌、触ってると、キモチイイ。もし抱いてって言わなかったら、一緒に寝るくらいは、してくれる?」
「構わないが今の体じゃ一緒に寝るどころじゃなく、一晩中悶々と過ごすことになるだけなんじゃないか?」
返事は思わぬところから飛んできた。いくら世話係の彼が小柄でも、ベッドに腰掛け目の前に立たれたら、その背後は見えない。そんな彼の背中の先、いつの間に入ってきたのか、出入り口のドア付近に食事担当の彼が人の姿で立っていた。
声がかかった瞬間にビクリと体を跳ねて背後を確認した彼も、多分相当驚いたんだろう。
しばらく部屋の中を沈黙が満たし、それからようやく発せられたのは、世話係の彼の咆哮だった。それは彼らの言葉であって、自分には吼えているように聞える、というだけだけれど。
「気配消して侵入したのは本当に悪かった。でも思った以上に仲良しなお前たちが見れて良かったよ」
人の声帯ではやはり吼え返すことは出来ないのか、返事は人の言葉だった。
そうか、気配を消して侵入したのか。ということは、もしかして結構長々と見られていたんだろうか?
「足りない、もっと。を三回ほど聞いたかな」
いったいいつから見てたんだという疑問は、どうやら世話係の彼も持ったらしい。とはいっても、返答からそう推測出来るってだけだけど。
「だからゴメンって。お前のことは信用してる。だから彼を任せてる」
興奮しているのか怒っているのか、もしくはこちらに会話を詳しく聞かせたくないのか、相変わらず世話係の彼は人の言葉を使ってくれない。でも多分前者で、ずっと穏やかで優しい声音が返る内に、咆哮のようだった発語が落ち着いていく。なのに。
「そう。お前のことは信用してるし、お前の判断で一緒に寝てあげればいい。いつか彼を抱く気があるなら、今夜、このまま見学してったって構わないよ。あ、彼が嫌がらなければだけど」
ぶわっと目の前の彼が持つ気のようなものが膨らんだ気配のあと、もう一声吼えて、彼は珍しくドスドスと荒々しい足取りで部屋を出ていってしまった。
「だいぶ怒らせてしまったようだ」
「最後の、わざとだろ」
「まぁ、そうだね」
おかしそうに肩を震わせて近づいてくる食事担当に彼に、思わず呆れた目を向けてしまったのはきっと仕方がない。
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