せんせい。4話 中間考査後

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 今まで部活で消化されていた分の時間が勉強に利用できるので、中間考査の結果は随分と芳しかった。
 部活動に精をだしていた生徒の多くが、きっと同じような状態だったはずだと美里は思う。
 だから、98点という学年内最高得点をマークした化学にしろ、それは頑張った結果に過ぎず、雅善が事前にテスト内容を洩らしたなどという事実は欠片もないのだ。
 学内新聞に取り上げられたこともあり、美里と雅善が幼馴染であるという話は既に校内の広範囲に広まっていたから、そういった憶測があったこと事態は、仕方がないのかも知れない。そうは思うが、そんな憶測に振り回されるのはたまったもんじゃない。
 放課後、ここ一月程で随分と馴染んでしまった化学準備室へと赴いた美里は、迎える雅善の暗い表情に気付いて首を傾げた。
「何かあったのか?」
「ああ、うん。美里に、言わなならんこと、あんのや」
「いい話、じゃなさそうだな」
「そうやな。ハッキリ言うて、胸糞悪い話やねん」
 一瞬、雅善の瞳に怒りの炎が浮かぶ。
「ガイが俺にテスト内容を教えたとか言う噂絡みだろう」
 尋ねると言うよりは言い切って、美里は雅善へと近づいていく。
「そんな噂、無視してりゃいいじゃないか」
 実際こちらに非はないのだ。どうどうとしていればいい。
「相手が生徒やったらな。ワイかて簡単に否定して終わりにするわ」
「相手?」
「教頭先生に呼び出されてな~」
 雅善は大きなため息をひとつ吐き出した。
「問題なんは、一人の生徒と親しくしすぎることやって言われたわ。美里の点が良かったのは美里自身が頑張った結果やってのは、向こうも認めとる」
「なんでだよ。どんな先生だって、親しい生徒とそうじゃない生徒がいるもんだろ?」
「せやから! 昔同じマンションに住んどって親しくしてたとか、こうやって毎日クラブ活動でもないのに放課後話しに来たりとか。一応気をつけとったけど、お前、二人きりん時はワイを名前で呼ぶやろ? 壁に耳ありなんを忘れて、他の生徒が『河東のテストの点が良かったのは臨採教師が裏でテスト問題を横流ししたからだ』て言い出すようなことしとった、ワイの落ち度なんや」
「バカ言うなよ。何がガイの落ち度だって言うんだよ。当然そんなのは否定したんだろ?」
「相手は聞く耳持ってへん。それに、どう考えてもワイの方が立場弱いねん」
 就任一ヶ月で辞めさせられるわけにはいかないだろうと告げる、雅善の表情は悲しげだ。
「で? 俺に、もうここには来るな、って言いたいわけだ?」
 沈黙は肯定。
 どれくらいの時間が過ぎただろう。そっと視線を外したまま口を開かない雅善に焦れて、美里はわざとらしく舌を鳴らして見せる。
「教師と生徒、だもんな。昔お世話になった大好きなお兄さんに会えて、浮かれすぎてたみたいだ」
「それは、ワイかて……」
「それでもガイは、明日から俺をただの一生徒として接してくるんだろう?」
 その口から、ヨシノリだとかビリーだとか、名前だったり昔のあだ名だったりが響くことはもうないのだろう。今までは、教室や廊下や職員室でカトウと呼ばれても、放課後この部屋で、笑顔と共に名前を呼んで貰えればそれで構わなかった。
 ガイという呼びかけに振り向いて貰えれば、それだけで満たされるのに。また、奪われてしまう。
 いや、昔と違って引越しで会えなくなるわけじゃない。雅善は美里の目の届く先に居て、美里のことを『河東』と呼び、『西方先生』という呼びかけに振り向くのだ。ムカムカと胸の奥を圧迫するものの正体を知っている。
 美里は目の前にある自分より頭一つ分小さな身体に腕を伸ばして引き寄せた。
 驚きに目を見張る雅善に構わず、その胸元に掛かるネクタイに指先を掛けて引き解く。
「よ、ヨシノリ!?」
「黙れよ。騒いで人が来たら、困るのはガイの方だろう? こんなの誰かに見られたら、間違いなく辞めさせられるぜ?」
 冷たく言い放った言葉に、雅善が息を飲むのがわかった。
 動きが鈍ったのをいいことに、美里は解いたネクタイで雅善の両手首を括り合わせる。
「何を、する気やの……?」
 細く吐き出される声に美里はフッと鼻で笑った。
「いい大人がこんなことされて、この後何が起こるのかわからないわけないだろ」
 ズボンの布地越し、美里は躊躇いもなく握りこむ。小さな悲鳴を飲み込む気配がした。
「あかん、て。こんなん、やめや」
 諭すような囁きが腹立たしい。
「止めて欲しきゃ、助けを呼べばいいだろう?」
 手首をネクタイで縛り上げてある上でのこの体勢を見れば、非がこちらにあるのは明らかだ。それでも、助けなんて呼べないのはわかっている。
 美里は構わず、雅善のYシャツのボタンを荒い手付で外した後、ベルトへと手を伸ばす。上体を捻って逃げようとする身体を引き戻して、下着ごといっきにズボンを引き摺り下ろした。
 剥き出しになった股間に、快楽の兆しなどはいっさいない。美里は手の中にすっぽりと納まるほどに縮こまっているソレに、強引に刺激を与えてやる。今度は確実に、その口から小さな悲鳴が漏れた。
「呼ばないのかよ、助け。止めないとこのままヤっちまうぜ?」
「ワイが困るて言うたん、自分やろ。助けなんか呼べるかい」
「じゃあ、合意の上ってことで」
「アホかっ!」
「そうかもしれない」
 馬鹿なことをしようとしている自覚はある。こんなことをしても、雅善の心は手に入らない。
 わかっている。この一月ほどの間で、尊敬や憧れに近かった幼い頃の想いは穢れ、恋だの愛だのという言葉で飾ってみた所で、どうしようもない欲望を抱えてしまった。
 否。むしろ心に体が追いついただけなのかもしれない。
 長らく離れていた時間を埋めるように、心も、体も、相手を求めてやまなかった。
 それでも、雅善が笑いかけてくれる喜びと秤にかければ、そちらの方が重かったから。だから、溢れかける想いや欲望は押さえつけてきたのだ。
 本当ならもっと個人的な繋がりが欲しくてたまらないのに、今更、ただの教師と生徒になんて戻れるわけがない。
「ビリー。少し落ち着こや、ビリー」
 美里の手で与えらる刺激に声を震わせながら、雅善が必死に言葉を紡ぐ。
 ヨシノリと呼ぶよりも、ビリーと呼ぶ方が柔らかく声が響くのを、きっと雅善も意識している。

>> 制止の声に従う

>> 従わず暴走

 
 
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