兄の親友で親友の兄8

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 個室の入り口から近い席に座っていたのは兄だったけれど、兄は不機嫌丸出しだったし、自分を呼んだのは彼だしと思って、彼の隣へ座ろうと奥へ向かって進めば、横から伸びてきた手に腕を捕まれ阻止される。
「お前が座るのはこっち」
「え、でも」
「いいから座れ」
 キツめの命令調に加えて、彼からもそっち座ってあげてと言われてしまえば、黙って従う以外にない。仕方なく兄の隣に腰を下ろしたが、隣から漂ってくる不機嫌さにハラハラするばかりだった。
「そんな不安そうな顔すんなって。大丈夫だから」
「何が大丈夫だ。お前がこいつにこんな顔させてる原因だろうが」
 目の前に座る彼の優しい声音に、ホッと安堵の息を吐く間もなく、兄のトゲトゲしい言葉が耳に刺さる。
「いやいやいや。俺だけが原因なわけ無いだろ。俺とお前の両方。いやむしろお前が原因だって」
「なんで俺なんだ」
「んなの、お前に何言われるか、さっぱり想像つかないからだよ」
 そうなのかと振り向いた兄に問われて、それもあるよとどうにか返す。
「というか、なんで俺を呼んだの。別に、二人で決めてくれて良かったのに」
「決めるって何をだよ」
「こんな場所で、兄さんもいる場で、直接別れ話とかやだなって話」
「あー、クソ。本当に、付き合ってんだな」
 別れろってなら、兄に知られたから別れるって事後報告が良かった。なんて言う間もなく、兄に隣で嘆かれ驚く。
「えっ、その確認から?」
 聞けば、いくら言っても信じないんだと、前方の彼が苦笑した。
「は? じゃあ適当にごまかしといてくれれば良かったのに」
「信じられないからって、聞いた事、忘れられるわけじゃないだろ。で、お前、本当にこいつが好きなの?」
 恋愛的な意味でと注釈付きで聞かれて、諦めのため息を一つ。
「好きって言ったら、兄さん的には、親友が男の恋人作ったことと、弟が実はゲイだったこと、どっちのが衝撃的?」
「お前の方だよ。全然、知らなかった……」
 項垂れてしまった兄にゴメンとこぼせば、ゆるく首を振られて、謝るようなことじゃないと返された。でも頭は下がったままなので、何と声を掛けていいかわからない。
「俺がバイだってのは、一応、ソイツも知ってるからな」
 そんなこちらの惑いを見抜いたのか、彼の声が飛んでくる。
「といっても、男の恋人紹介するのはお前が初めてだけど」
「ねぇ待って。これ、恋人紹介の場、ではないよね?」
「俺的には、そうなりゃいいなと思ってるけど。というか、別れ話には絶対ならないから、そこは心配すんな」
「それ本気?」
「もちろん」
「兄さんが反対したら? 別れろって言ったら?」
「言ってもだよ」
 兄との親友関係を崩しても、自分を選んでくれるなんて、思えるはずがないのに。彼はあっさりとそう断言してしまう。信じられるわけがなかった。というよりも、自分がここに呼ばれた理由に、もう一つ、思い当たってしまった。
「つまり、俺にもう別れてって、言わせるために呼んだの?」
「ばっ、ちょ、なんでそうなんだ」
「あなた達の親友関係に、俺が、割り込めるわけない」
 だって想いを告げるよりも、今後も変わらず親友で居続ける方を重視しているくらい、彼は兄を想っている。彼の本命が誰なのか、自分は知ってしまっている。
「その程度の好きなら、別れろよ」
 兄の声だった。振り向けば、顔をあげた兄が怒ったみたいに睨んでいた。
「うん。別れるよ」
 精一杯の強がりでなんとか笑って見せれば、兄は驚いたように息を呑む。
「だから、兄さんは彼を許してあげてね。彼がバイだって知って最初に誘ったのも、好きになっちゃったのも、俺の方だからさ。兄さんの親友ってわかってたのに、誘惑して、本当にゴメン」
 帰ると言って席を立てば、待てよと言いながら目の前の彼も勢いよく席を立ちあがった。

続きました→

 
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