彼は少しばかり考えるような素振りを見せた後、彼好みの下着を贈っていいかと聞いてきた。今後はそれらを着てこいってことらしい。
「脱がすために?」
「そう。脱がすために」
「すごくエッチな、変な下着じゃないなら」
「凄くエッチな、変な下着も贈りたい」
お尻丸出しのとか、股間にチャック付いてるのとか、もはや紐とかと続いた言葉に、一瞬本気で、そういうのが彼好みなのかと思いかけたけれど、ニヤつく顔はどう考えてもからかわれている。というかこちらの反応を楽しみに待たれている。
「それを選んで履いてくるかどうかは、俺次第でいいなら」
「わかった。次回はこれを履いてきなさい、って言いながら渡そう。履いてこなかったらおしおきな」
「ズルい」
そんな事を言われて渡されたら、履いてこないという選択肢はないに等しい。
「なら、ちゃんと履いてきたら、ご褒美くれるんですか?」
「もちろん。ちゃんと履いてきたら、いい子だねって言いながら、下着ごといっぱい可愛がってあげるよ」
可愛がりすぎて泣かすかもしれないけどと言いながらぶら下げていた下着を脇へ放った後、その手が股間に伸びてむき出しになったペニスを覆った。確かめるように数度撫でてからそっと握り込んでくるのを、息を詰めながら受け入れる。
自分の手とは圧倒的に大きさが違う。もちろん手指の感触だって違う。
自分の手とせいぜい低価格帯のオナホしか知らないペニスが、この後初めて、他者の手に握られ扱かれイかされるのだ。ついこの間まで、女性の華奢で細長い指先が触れてくれることを期待し、想像して興奮していたはずなのに。現実は大きく厚みがある掌と、スラリと長いけれど当然華奢さなんて欠片もなく、むしろ力強さを示すようながっしりした指に握られている。
自分の手よりもずっとずっと男らしい手に握られ、好き勝手弄られるとわかっていてさえ、嫌悪感の欠片もない。提示された金額に目がくらんで我慢しているわけじゃない。それどころか、紛れもなく興奮していた。
ついさっきまで、ご褒美とは名ばかりの、どんな酷いことをされるんだろうと震えていたくせに。可愛がりすぎて泣かすという言葉を与えられただけで、呆れるくらい簡単に期待へと変わってしまった。
からかわれるみたいに体を弄られ意地悪をされるのは辛いけれど、可愛くて仕方がないから苛めて泣かすと言うなら、不思議とそこまで辛くない気がするのだ。
相手は自宅にこんなしっかりとしたプレイルームを所持するサディストだという認識のせいかもしれない。そして彼に指摘されたように、今まで自覚なんてまるでなかったけれど、確かに自分の中には一部マゾヒズムな性的嗜好があるんだろう。泣かすよと言われて興奮しているようじゃ、認めるほかなかった。
「お前が泣いて、お願いだからもうイかせてって言うまで、射精できないギリギリのキモチイイを繰り返されるのと、お前が泣いて、お願いだからもうこれ以上イかせないでって言うまで、射精させられちゃうキモチイイを繰り返されるの、どっちがいい?」
どっちを選んでも、やはり泣かされるのは決定らしい。そういえば、Mの要望に最大限応じてやりたいタイプのSと言っていたけれど、もしかして泣かされて性的興奮を引き出されるタイプに見えているってことなんだろうか。
泣かすと言われて興奮している自分を自覚したせいか、ついそんなことを考えてしまった。
ならこれは、無自覚に自分がねだっていること、という可能性もあるのかもしれない。だって彼は、ご褒美をくれるって言ったのだから。
「それ、本当にご褒美、なんですよ、ね? おしおきの意地悪で泣かすんじゃなくて、泣いちゃうくらい可愛がってくれる、なら、どっちでも、いい」
声が震えてしまうのは、羞恥なのか期待なのか恐怖なのか、自分ではわからなかった。
「そう。ご褒美。お前が泣いちゃうくらい、キモチヨクさせてやりたいの」
甘い声に肯定されて、体が反応したのがわかる。彼の手の中でゆるく握られているだけのペニスが、ヒクリと脈打ち揺れてしまった。もちろん、その反応は彼にだって筒抜けだ。
柔らかな笑いがふふっと零される。簡単に反応した体を揶揄されているわけじゃないのは、その気配からわかる。
「素直で可愛い体だな」
多分本心から、そう思って言ってくれているのだろう。だからきっと、耐えられる。彼が望む通りの泣き顔を晒して、喜ばすことが出来たらいいなという感情が、ちらりと胸の中に芽生えた気がした。
愛人なんてバイトを持ち出して、思いの外高値で自分を買ってくれるこの人に対して、出来るだけ給料に見合う仕事がしたいと思う。
彼の提示する数々の行為を、難易度が上がっても極力受け入れてしまう理由が、少しずつ増えていくようだった。
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