ヒクッと喉が引き攣るような息が漏れる。目の奥が痛くなって、そっと俯き、キュッと唇を噛み締めた。
上手にイケたら、褒めてくれると、思っていた。また蕩けるみたいな顔で笑って、頑張ったねって、よくイケましたって、そう言ってくれるんじゃないかと思っていた。
それは期待だったのだと、想像と全く違った反応にショックを受けながら、ようやく理解した気がする。
顔を上げてという声とともに、有無を言わさず顎をとられて上向かせられた。
「またそんな顔をして」
半泣きの目元を苦笑とともに指先で拭われたけれど、優しくされると余計に泣いてしまいそうだ。というか実際泣いた。
本格的に泣き出してしまったこちらに、一瞬呆れた顔をされたことさえ、余計に涙を誘う。更にしゃくりあげるこちらを緩く抱きしめ、宥めるように背をトントンと軽く叩いてくれたから、泣き止んだら今日はもう終わりかなと思って、ますます悲しくなってくる。
初回も、前回も、びっくりするような給料を入れてくれていたから、今日は自分なりに頑張れたらと思っていただけなのに。
どれほどの時間泣いていたかは分からないが、少なくとも、初日とは比べ物にならないほど長く、彼の腕の中で無言のままあやされ続けていた。しゃくりあげなくなっても、呼吸の乱れがはっきりと落ち着いても、黙って背を叩かれ続けて、さすがにいたたまれない気持ちのほうが大きくなる。
「ごめん、なさい。も、大丈夫」
告げて自分からそっと相手の体を引き離すように力を込めれば、相手はあっさりと身を離す。本当は自分が身を引ければよかったのだけれど、背後が壁では相手を押しのけるより他なかった。
「いや、俺も悪かった。お前、あんなに迂闊で危なっかしいのに、妙なところが鋭いな」
そう言って苦笑する。よく意味がわからずじっと相手を見つめてしまったら、ますます苦笑しながら、目が真っ赤と指摘された。そしていたわるみたいなキスを目元に落とされる。
「さっき、もしお前が勝手な判断で脱いでたら、おしおきからスタートだったって言ったの、覚えてるよな?」
「はい」
「つまりそういうことなんだけど。っつったらお前、さっき俺におしおきされたんだって、理解できるか? お前の反応を楽しむための意地悪じゃなくて、明確におしおきだったのを感じ取ったから、お前、泣いたんじゃないのか? 俺に怒られてるって、思ったんだろう?」
「え、と……えっ? いや、そんなの、わかんない」
「やっぱ自覚はないのか。じゃあなんで泣いたの?」
「な、泣いたのは、頑張ったら褒めてもらえると、思ってたのに意地悪されたからで……というか、おしおきって、あれ、おしおきなの。俺、そんなに変なこと、してた?」
「変なことっていうか、お前の勝手な判断で、勝手に腰振って、勝手に気持ち良くイこうとしたろ、って言ってんの。まぁ俺も読みが甘かったよ。自分からズボン脱ぐとか言い出した時に気付いてたら、もうちょいちゃんと、イヤラシク腰振る練習してきたから見てくださいって、先に言えるように誘導してやったんだけどな」
「え、ちょ、ま、待って。待って」
なんで練習してきたの前提なんだ。というか、さっきは疑問形だったはずで、それに肯定を返した記憶はないのに。
「わざわざ練習してきたお前の努力はちゃんと評価してる。そこは泣く必要ないからな。給料にも上乗せするし、今日まだ続ける気があるなら、ご褒美だって渡すつもりだよ」
「だから待ってって! なんで、練習したって、思うの」
「むしろしてない方がオカシイ動きだったから?」
何を聞いているんだと言いたげに返されたが、何を言っているんだと言いたい。というかそんなにあからさまに違うものなの?
このバイトのために、普段しないようなオナニーを必死に頑張って練習してきたのだと、知られていたのがとてつもなく恥ずかしい。
「後で聞けばいいかと思ってたけど、そういや練習って何したの?」
机? 椅子? ポール? 座布団とか布団丸めた? などと次々上がる候補に、ますます恥ずかしくなるのは、わざわざ抱き枕を買っていたからだ。それは彼の腿を想定できそうな、少し固めの商品だ。
「教えてくれないなら、今言ったの、次回全部揃えておくから、一つずつ目の前で試してもらおうか。あ、それで俺がお前の練習道具当てたら、お前からなんかご褒美出してくれるとかどうよ?」
言わずに済ませられないかとも思ったが、どうやら逃してくれる気はないらしい。というか放って置いたら次週本気でそれらを実行されそうで、慌てて口を開いた。
「抱き枕、です」
仕方なく告げれば、今度はそれを次回持ってきて、練習してる所を見せろなどという。もちろん、絶対イヤだとはっきり拒否した。
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