雷が怖いので16

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 プレイなしでいいならビュッフェがいいと言ったら、やはりおかしそうに笑われながらも了承されて、取り敢えずシャワーを浴びておいでとバスルームに突っ込まれた。
 ふと目に入った洗面台の鏡に映る自分の姿にギクリとして、確かめるようにグッと鏡に身を寄せる。
「これ……もしかしなくても、キスマーク……?」
 胸元のあちこちに散らばる赤色に、カッと頭に血が昇った。なぜなら、多分、これを望んだのは自分の方だからだ。
 もっと、とねだった記憶とともに、明日後悔するぞと言われながらも肌に寄せられる唇と、吸い上げられてチリと感じる僅かな痛みと、大げさにアンアン零す自身の痴態が、断片的に脳内に浮かび上がる。
「俺を、あなたのものに、して」
 そんなセリフまで浮かんできて、口元を隠すように片手で覆った。多分これも、昨夜、口に出している。なのに、相手がそれになんて答えたのか思い出せない。
 シャワーを浴びながら、昨夜食後に何があったのか、曖昧な記憶を正そうと必死に試みる。けれどやはり相当記憶は飛んでいて、思い出すのは自分が晒した痴態の断片ばかりだった。
 食後に立ちあがろうとしたらぐらりと世界がゆがんで立てなくて、抱き上げられてベッドの上に運ばれた。着ていたスーツを脱がされて、お尻に入っていたプラグも抜かれて、確か、抱くのかと聞いた気がする。そして、抱かないよと返された、はずだ。多分。
 もともと、いつかは抱かれる日が来るのだろうと思っていたし、それを期待する気持ちを自覚しても居たから、抱かないと返されて、なぜかそこでムキになってしまったようだ。なんでそんな方向へ行ってしまったのかさっぱりわからないが、酔っていたからだとするなら、アルコールによる思考力と判断力の低下が心底恐ろしい。
 結局その後、あの手この手で抱かせようとして、あなたのものにしてってセリフも、きっとそれの一環だった。
 そんな酔っぱらいの戯言に、相手はどんな様子だっただろう?
 思い出そうと考えれば考えるほど、シクシクと胸に痛みが広がっていくから、あまりいい反応は貰えなかったんだろうなと思う。もしかして忘れているのは僥倖で、思い出さないほうがいいのかもしれない。
 きっと昨夜は最後まで、ちゃんと抱いてはくれなかった。抱かれたような記憶は断片ですら欠片もないし、むしろ、ちんちん入れてよなどと信じられない言葉を吐きながら、相手の手でイかされ泣いた記憶の欠片が存在していて遣る瀬無い。
 胸元に散ったたくさんのキスマークだって、彼のものになりたいと言った自分を、所有印を刻むという形でごまかしたのだろう気持ちが強かった。それでも、この痕をつけられたあの瞬間、相当嬉しかったらしい自分が、おぼろげな記憶の中でふわふわと笑っている。
 もっと付けてとねだって、寄せられる唇に喜んで、アンアン言って腰をよじって相手を誘う仕草を見せて。
 ああ、確かに今日、彼の言葉通り後悔しかない。
 寝起きから随分と甲斐甲斐しく甘やかされて幸せが続いていたはずなのに、どうしようもなく気持ちが沈んでいく。
 そしてそんなこちらの変化を、見逃すような相手ではなかった。
「どうした? まさか、泣いたのか?」
 バスルームから戻って真っ先に掛けられた言葉がそれで苦笑を零す。
「全部、お見通しなんだ」
「全部わかるわけじゃないが、お前は顔に出やすいから、ある程度はわかるよ。で、何が原因?」
「昨夜、どうして抱いてもらえなかったんだろう、って、思って……」
「なんで、……って、お前の記憶にはっきり残るか微妙なときに、初めて終わらせるとか、んな勿体ない真似するわけねーだろ」
 実際どんくらい覚えてんのと聞かれて、けっこう曖昧で断片的にしか思い出せないと答えたら、ほらみろと言わんばかりの顔で呆れられてしまった。
「ああでも、お前、俺に抱かれたくて必死だったもんな?」
 入れてよって泣かれた時はこっちの理性もさすがに飛ぶかと思ったわと笑うので、恥ずかしさも相まって、飛べばよかったのにと思わずこぼしてしまう。
「じゃあ、朝飯食った後に誘ってみろよ」
「えっ?」
「さすがに記憶飛ぶほど酔いが残ってはないだろうし、今もう一度、お前が本気で俺を誘うなら、その誘いに乗ってやってもいい。昨夜くらい可愛く、赤裸々に、俺を求められたら、な」
「えっ……?」
「でもまぁ、その前に飯食おう。お前、どこまで記憶にあるかわかんないけど昨夜吐いてるし、腹減ってるって言ってたし」
「え、吐いた?」
「記憶に無いか?」
 言われて記憶を探れば、なんとなくそんな記憶があるような気がしないこともない。トイレでえずきながら、背中を擦られている記憶だ。
 記憶の中ではまだ服を着ているみたいだから、抱き上げられて最初に運ばれたのはもしかしてトイレだったのかもしれない。

続きました→

 
 
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