雷が怖いので26

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 ポツリポツリと落ち始めた雨粒は、すぐに勢いを増して激しい土砂降りに変わる。それに伴い雷も、当然のようにかなりのスピードで近づいていた。
 怖い怖い逃げ出したい。せめて屋根のある場所へいきたい。家の中に入りたい。安全な場所へ逃げ込みたい。耳をふさいで目を閉じて小さく蹲って、雷をなるべく感知しないように務めるためには、ここなら多分安全だと思える環境があってこそだ。
 安全な場所ですら極力排除したい存在なのに、こんな路上でどうしろというのか。雷が通り過ぎるまでをやり過ごす方法がわからない。むしろ空から目を離せなかった。耳を澄まして、音の到達時間から雷との距離を必死で計ってしまう。
 空を凝視したまま動けずに居ても、頭の中は様々なことが駆け巡って混乱状態だった。理由を話して、家に入れてとお願いすればいいというのもわかっている。けれど正直に、あなたを好きになったと言うのも怖い。だって上手に言いくるめられて、バイトを継続してしまう未来しか見えない。知られたくない。この気持ちに値段をつけられたくはない。
 その反面、理由を話して、助けを求めて、雷から守るように抱きしめて欲しいとも思う。随分と怒らせてしまったから、きっと逃げ出したおしおきもされるだろう。それを想像すると、怖いと同時に甘い期待も湧いてしまう。好きだという気持ちごと全てを差し出して服従してしまえば、好きだとか恋だとか余計なことを考えずに、今まで通り恥ずかしくて気持ちがよい事をされて高額時給が発生するバイトを続けられるだろうか。
 色々な恐怖に、気持ちが消耗していく。下着までじっとりと濡らす雨に、体力も消耗しているのがわかる。雷もどんどんと迫っていて、追い詰められても居た。
 もう、言ってしまえばいい。そう思ったのに、いざ言おうとしても、言葉を発することは出来なかった。喉が詰まって声が出ない。
 体は緊張しきってガチガチだった。このままだとここで雷が通り過ぎるのを耐えなければならないと気づいて、膨らむ恐怖に体が小さく震えだす。ガチガチに緊張していても、震えてしまう体がいっそ不思議だった。
「ずいぶん強情だな。それとも、そんなになってまで、俺から逃げたいのか」
 違う。違う。違う。けれど口から漏れるのは不規則で耳障りな汚い呼気ばかりで、首を振って否定をすることも出来ない。
 とうとう溢れ出した涙は、激しい雨と混ざって流れ落ちていく。ますます呼吸が乱れてしゃくりあげれば、掴まれていた肩をぐいと引き寄せられて抱きしめられる。
「なぁ、何がそんなに嫌だった? 俺は何を失敗した? 頼むから、教えてくれ」
 身長差があるので声は頭上から降ってきた。力なく、困り果てた、懇願混じりの声に、心臓がキュッと締め付けられる。
「ち、がう」
 声が出た。小さな呟きは、顔を押し付けている相手の胸に消えてしまったけれど、それでも言葉が出たことでガチガチだった体が少しだけ緩んだようだった。
 相手の背中に腕を回して抱きつけば、ますます安心が胸の中に広がっていく。ほぅ……と息を吐いてから、体を密着させた状態のまま、ゆっくりと顔だけ上向けた。
「違う。俺が、勝手に、あなたを好きになっただけ。恋人にはなれないってわかってるから、仕事として抱かれるのは嫌だって思ったから、苦しくなって、逃げただけ」
 辺りはとっくに夜の暗さで、近くの街灯の明かりも、俯く相手の顔を照らしてはくれないのだけれど、それでも、驚きに目を瞠ったのははっきりとわかった。
「逃げて、ごめんなひゃぁっっ」
 最後まで言い切る前に、鋭く光った雷に慌てて相手にしがみつく。緊張がほぐれたのと、空を見ていなかったせいで、盛大に反応する羽目になってしまった。
 しかもそう間を開けず、ゴロゴロなんて生易しいものではなく、ピシャンガラガラと獰猛に追い立ててくる音が響いたから、先ほどの比ではなく体が震える。怖さを少しでも紛らわそうと、ぎゅうぎゅう抱きついてしまえば、強い力で抱き返されると共に体がヒョイと宙に浮いた。

続きました→

 
 
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「雷が怖いので26」への2件のフィードバック

  1. もう萌える!とにかく萌える!!
    このシーンもっと読みたかったです。あと一話分あってもいい位よかったです。
    いつも名も無い男の子のことを、心の中でガンバレーって応援しながら読んでます。
    つづき楽しみにしています!

  2. あかねさん、萌えて下さってありがとうございます!(^^♪
    もっとさっくり進まないものかと思いつつ書いていたので、もっと読みたいくらいのシーンだったと言って貰えて凄く嬉しいです。
    本当、さすがにもうそろそろハッピーエンド辿り着かせてあげたいですよね〜
    ハッピーエンドへ向けて、続きも頑張りたいと思いますので、最後までお付き合いよろしくお願いします。m(_ _)m

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