雷が怖いので40

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 自分の全てを差し出そうとして断られた翌日の昼過ぎ、彼の家を出てから向かったのは、正月にも一度帰宅たばかりの実家だった。自宅から通える距離の大学ではないが、そこまで遠方ではないのが幸いして、実家へは夕飯前に到着した。
 突然の帰宅に驚く両親と弟妹に土下座して更に驚かせた後、今まで育ててくれたお礼を言って、どうしてもどうしてもこれから先の人生を共に過ごしたい男性が居るから、勘当して欲しいと頼んだ。今まで自分を育てるのに掛かった金額も、必要なら返すと言った。息子をその人に売り渡すつもりで、自分に値段をつけてくれてもいいとも言った。
 親がとんでもない金額を提示するとは思えなかったから、正直、彼に買われるというのもありじゃないかという気がしていた。だって本当の子供を買い取りたいと思ってたって言っていた。子供と呼べる年齢ではないけれど、見た目だけならまだなんとか子供の範疇に入れそうな気がするし、ギリ未成年時代から彼の調教を受けていたのだから、もう俺を買えばいいじゃんみたいな気持ちだった。
 最初の反応は父のため息で、次には「馬鹿か」の言葉だった。
 息子が人生の伴侶に男を選んだくらいで親子の縁を切るほど狭量じゃないが、せめてちゃんと二人で挨拶に来いと言われて、慌ててそれは無理と返した。だって勝手に一人で先走っているだけという自覚はある。
 相手の了承は取れていないと言ったら、母と弟妹から哀れみの視線を投げかけられた。父はもう一度ため息を吐いた。
 出会いの詳細やら、愛人契約だなんて話を親兄弟に向かって出せるわけもなく、いろいろと濁しつつも、大学を卒業するまでに相手を頷かせなければ関係が切れてしまうことと、それだけは絶対に嫌だからなりふり構わずやれそうなことは全部やるのだと言いきって、最終的には頑張りなさいの言葉を貰って翌朝にはまた一人暮らしのアパートへと帰宅した。
 週末まで待つかを悩んだのは二日ほどで、卒業までにもうあまり時間がないことと、なりふり構わないと決めたこととで、週末以外に会ったことのない相手に会って欲しいと連絡を入れる。
 木曜の夜になら時間が取れると言われて、ひたすらドキドキしながらその時を待った。
「それで、話ってのは何? と言っても、だいたい想像はついてる。またあの話を蒸し返すんだろ?」
 俺もあれからずっとお前を今後どうするか考えてたよと苦笑した彼は、お前に憎まれる覚悟がイマイチ決まらないと続ける。お前と過ごして随分と甘く弱くなってしまったとも。
「それ、俺相手には、気持ちを殺す必要がないって、もうあなたの心が知ってるからですよね。あなたの心が気持ちを殺すことも、俺を捨てることも、拒否してるんだ」
「そうかもな。でも、俺は最後にはやっぱりお前を捨てるよ?」
「捨てさせません。俺、親から勘当されてきました」
「……は? え、勘当された? えっ?」
 言葉の意味が彼に伝わるのを待ち、戸惑う姿を見ながら思い切りにこやかに笑ってみせた。
「俺にはもうあなただけになったんです。だからどうぞ、安心して俺を全部貰ってください」
「ちょっ、本気で言ってんのかそれ」
「本気というか事実ですね。どうしてもどうしてもどうしても、これから先の人生を共にしたい男性が居るって言いに、実家行って来たんです」
 育ててもらったお礼もしっかり言って来ましたよと伝えてはみたが、呆然とする彼の耳にどこまで届いているかは怪しい。相手の混乱が治まるまで暫く黙って待っていれば、やがてゆっくりと彼の声が吐き出されてくる。
「なんで、そんな真似……」
「そんなの、なにがなんでもあなたのことが欲しかったから、以外の理由はないですけど」
「バカだろ、お前」
「それ、親父にも散々言われました」
 すっごい呆れられてため息も吐かれまくりましたと報告すれば、そりゃそうだろと、やはり戸惑う様子で返された。そんな報告をどこか喜々として告げる自分が、相当衝撃的らしい。
「迂闊でもバカではないと思ってたのに、何、やってんだよ」
「あなたが手強いから、なりふり構ってられないなって思って。あなたを嫌いにさせられる前に、あなたに諦めてもらわないと。諦めて、俺のクソ重い愛を、どうか受け取ってください」
 真っ直ぐに彼の目を見つめながら、想いを噛みしめるように言葉を紡いでいく。
「あなたのことが、どうしようもなく、好きなんです」
 困ったように眉尻を下げながら眉間に皺を寄せる顔は、なんだか泣きそうに見えた。まるで涙を隠すように、一度ギュッと固く目を閉じる。
 結局彼の閉じた瞳から涙が溢れることはなく、次に目を開いた時には、どこかすっきりとした顔になっていた。にやりと笑ったよく知る顔にホッと緊張が解けて、随分と緊張していたことをようやく自覚した。
「あーもう、お前にゃ負けたよ。だからお前を、全部、貰うことにする」
 それでいいんだろう? という問いかけに、凄く嬉しいと笑いながら頷く。
「なぁお前、今、卒論真っ盛りだよな?」
「え? ああ、まぁ、今月末提出なので」
 唐突な話題になんだろうと思いながらも正直に返せば、意外と余裕だったりする? と割とマジなトーンで尋ねられる。
「余裕、というほどではないですけど、まぁ、それなりに目処は立ってます。それが、何か?」
「ならいいか。もちろん配慮はする。もし明日使い物にならなかったら、土曜のバイトなしにするから、土曜にでも頑張って」
「それ、って……」
「今からお前の全部を俺のものにする。お前が俺のものだと、お前に刻む。そうされても、いいんだよな?」
 期待と、ほんの少しの恐怖。
 痕が残るような痛いことはあの風呂場で噛まれた時限りで、その痕ももう、注意して見なければわからない程に薄くなってしまった。彼の体に残る、彼が他の誰かのものだったことをまざまざと示す痕が、どれほどの痛みを持って刻まれたものなのかはやはり想像がつかない。痛いのはどうしたって怖い。それでも。
「うん。嬉しい。俺はあなたのものだって、俺にしっかり刻みこんで」
 おいでと促す言葉に従い、座っていた椅子から立ち上がった。

続きました→

 
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