雷が怖いので39

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 嫌そうに寄せられたままの眉の間を、伸ばした指先でそっと触れる。眉間の皺を解すように指先に力を込めたらさすがに腕を取られて外されてしまったが、そんなこちらの行為を怒っているというよりは、やはり戸惑っているようにしか見えなかった。
「もう、わかったから。いいよ。俺の全部、あなたにあげる」
 甘えるように、そして甘やかすように。
「俺の気持ちも、俺のこの先の人生も。全部、あなたのものにしていいよ」
 うっとりと告げる言葉に、相手は言葉もなく目を瞠っている。
「だから、あなたの中の小さなあなたを、俺の愛で育てて。あなたの気が済むまで育て直して。ちゃんと待つから。待てるから。嫌いになんてさせないで。ずっとあなたの側に、居させて?」
「なに、言って……」
 吐き出されてくる声は、彼らしくなく随分と掠れていた。
「本気だから。大学卒業後もあなたの愛人を続けるし、あなたが俺にお金を渡したいなら、喜んで貰うよ。ずっと、お金で買われてる関係だと思ってたけど、これきっと違うよね。あなたが俺に向かって積み重ねてくれるお金が、そういう風にしか愛されて来なかったあなたからの愛情なんだって気づいたら、俺は間違いなくあなたに愛されてるし、好かれてる」
 大学卒業前に、バイト終了前に、彼の愛人でいられるうちに、それに気づけて良かった。そう言って笑ったら、そっと頭の後ろに回った手にぐいと引き寄せられて、相手の胸に顔を埋める形で押さえつけられる。
「んなこと言われたら、俺に積まれた金も、あの人の愛だったって、思いたくなるだろーが」
「うん」
 苦しげに響いた声に、そういうつもりで言ったと示すように、一つ頷いておいた。この世を去ってしまった相手に、今更真実を尋ねることは出来ないのだから、自分に都合がいいように解釈すればいい。
 そもそも愛されていた可能性を提示してきたのは彼の方だ。それを聞いて、本当は愛されたかったのだと思ってしまったから、自分はただそれを肯定しただけ。
 本当はもっとちゃんと言葉を重ねたかったけれど、頭を押さえる手の力が緩まないので、依然相手の胸に顔を埋めた状態に諦めた。
 自分を押さえ込む力へ逆らう気はない。だってきっと、今は顔を見られたくないんだろう。相手の胸に顔を寄せているせいで、彼の混乱や動揺が伝わってくるから、多少息苦しいのは仕方がないと我慢した。
 どれくらいそうしていたのか、随分と長かったような気もするし、意外と短時間だったようにも思う。
 開放された瞬間に大きく深い呼吸を繰り返したら、思いの外強い力を掛けていたことにようやく気づいたらしく謝られてしまった。
「悪い。というか、苦しかったなら、少しは抵抗しろって」
「だって泣いてるとこ見ちゃったら、さすがに気まずいと思って」
「泣いてねぇよ。というか、今のはお前が苦しいって訴えてたら、ちゃんと力を加減してやったって話だからな?」
「力加減に気が回らないってだけで、いつものあなたじゃないのは明白だし。俺の言葉で動揺してるんだって思ったら、苦しいのもちょっとだけ嬉しかった」
 嬉しいはさすがに言いすぎかと思いつつもへへっと笑ってしまったら、相手もふっと苦笑いするように息を吐く。
「そりゃあいきなりあんなこと言われりゃ、さすがに動揺もするだろ」
「あなたが思ってたより、本当はいっぱい愛されてた?」
「そうだな。思ってた以上に、俺は、お前に愛されてた」
「えっ、俺の方?」
 てっきり、過去に想いを馳せているんだと思っていた。
「そ、お前の方。あの人も、あの人と関わった時間も、どうあがいたって過去でしかないが、お前との関係は今現在の話だろ。今現在、俺は、お前に、俺の想像を遥かに超えて愛されてる」
「えー……っと、俺の愛が、重い? みたいな話?」
「ああ、そうか。それだな。愛が重い」
 やっぱり苦笑顔のままだけれど、でも吐き出されてくる言葉の響きは軽かった。重すぎて受け取れないという拒絶感はないと思う。でもだからこそ、その言葉をどう受け止めればいいのかわからない。
「重いの、ダメだった? でも俺、あなたを諦めるつもり、一切ないけど」
 だって彼の愛に気づいてしまった。愛されたいその心にも気づいている。ここで引き下がるなんて出来っこない。
「ダメっていうか、あー……お前の言葉を嬉しいと思う気持ちは、どうやらちゃんとあった。けどお前、確か長男だよな? 下に二人居るって言ってたか? 私大進学と一人暮らしが厳しいって言ったって、奨学金なしで通わせて貰ってるんだから、親だってお前に期待してるだろうし大切育てて貰ってるんだろう? そんな子を、こんな俺が貰っていいわけない。という結論にしかならなかった」
 スマンと短く続いた言葉に、これは手強いなと思う。多分きっと、相手も似たようなことを思っているだろうけれど。

続きました→

 
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