雷が怖いので38

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 痛くて苦しいのこそが好きって性癖持ちもいないわけじゃないから、そうされることに快感を持てるタイプなら、苦痛を与えてくれる相手へ自然と好意を寄せたのかも知れないという言葉を、否定できる材料はこちらにはない。自分だって、いくら金を積まれたところで、嫌なことばかりを強いてくる相手を好きになんてならないし、そうだったらバイトなんてとっくに辞めていたはずだ。
「好きになって、あげたかったの?」
「面白いな。お前には、今の話がそう聞こえるのか」
「うん。本当は愛されたかったし、本当は愛したかったんだって、聞こえた」
「そうか。お前がそう言うなら、そうなのかも知れない」
「後、俺のことも、好きになりたいと思ってくれてるっぽいなって、思った。というか、すでに結構ちゃんと愛されてるんだって、喜んでいいとこかもって思ってるんだけど……」
 さすがに自分に都合よく解釈しすぎだろうか? でもそう聞こえてしまったものは仕方がない。
 彼が彼の所有者に、もしかしたら愛されていた可能性があったってことは、もしかしたら自分も、彼に愛されている可能性があるんじゃないか。あれはそう期待するには十分な言葉だった。
「ほんとに凄いなお前」
 呆気にとられたような呟きの後、おかしそうに喉の奥で笑いを殺している。
「ねぇ、あなたを嫌いになんて、させないでよ。というか、あなたを嫌わせるの、本気じゃない、よね?」
「本気だけど」
「嘘つき」
 唇を尖らせて非難すれば、目の前の相手はますますおかしそうに笑いを噛み殺した。それを観察するようにじっと見つめてやれば、さすがに気まずそうに笑いを引っ込める。
「本気だったけど、でも、思ってたより難しいかもな」
 困ったようにそんなことを言うから、そうだよと薄く笑ってやった。
「本気でそう決めてたら、わざわざ言う必要なんて無かった。本気だってなら、俺が気づかないうちに、俺の気持ちを変えてしまえば良かったのに」
「確かにそうだ。そうすれば、良かった」
 でも、彼はそうしなかった。出来なかった。それが何を意味するか、多分もう、自分は正しくわかっていると思う。話しているうちに、その確信が強まっていく。
「それに、わざわざ俺の気持ちを変えなくたって、あなたが終わりって言ったら、終わる覚悟はしてたつもりなんだけど」
 はっきりとそう言い切られたら、受け入れるしか無いとは思っていた。今後について話さないのは、卒業とともにそう言われる可能性が高いのだろうとも思っていた。卒業が近づくほど不安で寂しくなっていく理由が、そこにあることだってわかっていた。
 ただまぁ彼の話を聞いた今現在、そんな覚悟はすっかりなくなってしまったけれど。寂しさが募った結果、この家に泊まってみたいと言ってみて、本当に良かった。
 このまま卒業とともに終わりになんて、させない。彼のことを嫌いにだって、なってやらない。
 そう心に強く決めてしまったことを、目の前の彼に、これから突きつけてやるつもりだった。
「でも、それだとお前がずっと苦しいだろう?」
「あなたを嫌いになったら、あなたとの関係が終わるのが辛くなくなると思う?」
「少なくとも、未練のようなものは残さなくて済むはずだ」
「そんなのムリムリ。だって俺、迂闊だけど、バカじゃないみたいだし」
 気づいちゃうよと囁きながらゆっくりと顔を近づけて、ちゅっと唇を軽く吸い上げた。だまって唇を吸わせてはくれたけれど、相手は眉を寄せて嫌そうな顔を見せる。
「何を、気づくって?」
 さすがに彼ももう、彼にとって望ましくない方向へ話が進んでいる事には、しっかり気付いているんだろう。
「あなたが、俺を好きってことに」
「誰かを好きだと思う気持ちはわからないって、言ったはずだよな?」
「でも、わからないのと、好きって気持ちがないのとは、どうも違うみたいだよ?」
 彼にわからなくても、自分がわかっていれば、もうそれでいいと思った。

続きました→

 
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