雷が怖いので37

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 起こしていた体をまたベッドの上に横たえて、甘えるように相手の胸にすりよって顔を埋める。
「その程度じゃ、あなたを嫌いになんてなれない」
「そうか。じゃあ今のは失敗だな」
 不貞腐れて吐き出した言葉には、平然とそんな言葉が返ったから、やっぱりわざとあんな言い方をしただけだと思いながら、ホッと息を吐き出した。
「ねぇ、今の話、どこまで本当なの」
 そっと顔を離して、相手の顔を覗き見る。すぐさま簡素に短く、全部とだけ答えた相手は、平素を装おうとしているように見えた。
「嘘つき」
 言い切れば困ったように苦笑する。ほらやっぱり当たりだと、今度は少しばかり嬉しくなった。
「もし嘘じゃないなら、あなたは俺に好きになって欲しかったって、そう思うけどいいの?」
「前向きだな。というかそういう解釈をされると思ってなかった」
「知らない間に心まで弄ってたなんて酷い。ってなるはずだった?」
「いいや。だってお前はそれを酷いとは思わないだろ?」
「うん。思わない。それが本当だとしても、あなたを好きにならせてくれてありがとうって言う」
 だってこのバイトを始めたことに後悔がないように、彼を好きになったことを後悔する気持ちだってない。
「お前のそういうところは素直に凄いと思うし、間違いなくその思考に救われてる。ただ、俺を好きになったのも、これから嫌いになるのも、全部、俺がそうしたんだって事を、お前には理解していて欲しいと思って」
「え、本当に、俺に好きなって欲しかった? というか、そうなるように仕向けてたの?」
「お前が俺を好きになったのは、正直言えば想定外。でも、意図的にではなくとも無意識に、お前の好意を欲していた可能性は否定しないよ」
 好かれたって想いを返してやれないのに、これも酷い話だなと、自嘲的な笑みを浮かべながら彼は続ける。
「酷いついでにはっきり言えば、俺はお前で実験してた。初めて出会ったあの日、お前の年齢を聞いた時、随分と都合のいいモルモットが飛び込んできたと思った」
 簡易的に、お前を使って、俺は俺を育て直していたんだと思う。と続いた言葉の意味は、さすがにすぐには理解できなかった。
 大金を積んで好き勝手するのは同じでも、相手が嫌がり苦痛と思うプレイを重ねるのではなく、相手の望むプレイを大量に取り入れつつその体を甘やかしてやったらどうなるのか、それを試していたと彼は言う。
 彼を所有していたのは、苦痛を与えたいタイプのサディストで、彼自身そういう扱いを受けていたし、所有者の代わりを務めるプレイ時は当然そう振る舞うように躾けられていた。彼自身の性癖と合致しないプレイの数々に、当然心を殺して応じてきた彼は、彼を所有する者が居なくなった後、金さえ積めばなんでも許される世界を嫌悪しつつも、同じように子供を買い取りたい欲求を持て余していたらしい。今度は自分の番だと思ってしまう気持ちを押しとどめていたのは、彼が受け取った遺産がほんの一部でしかなく、彼の所有者ほど潤沢ではない資産状況だったという。
「後は俺の年齢とかもあるかな。俺が買われた時、相手は今の俺の倍近い年齢だったし。そんな若造に、子供一人の人生を丸ごと請け負う覚悟は持てなかったってのもでかい」
「本当の子供相手に、俺にしたみたいなキモチイイ調教、したかったの?」
「まぁそうなるよな。軽蔑していいぞ」
「しない。だって実際にやったわけじゃないし」
 愛人契約を持ちかけられた最初に、ショタ趣味はなかったと言っていたのを覚えている。実際、子供相手に調教をしたかったのかと言う問いに、したかったと返しては来なかった。
 潤沢な資金があっても、子供を買ったりはしないかも知れないし、買ってもそれは子供を売るような親から救い出すだけの行為で、エッチな色々を仕込む真似はしないかも知れない。子供が子供でなくなってから調教開始という手だってある。
 つまり、こんなたられば話で、相手を軽蔑するのはバカらしい。気にするべきはそこじゃない。
「というか、自分がそうされたかったってことでいい? あなたも、キモチイイ調教を受けたかった?」
「お前と違って不本意のまま強制的に開始した関係だから、優しい調教だったからって、それで相手を好意的に思えたかはわからないな。性癖という面で言ったら、そもそもされたい側じゃないわけだし。でも、もう少し気持ち的に楽だった可能性は高いよな。って思ってた時期もあった」
「過去形なんだ。じゃあ、今は、違う?」
「俺を好きになったって言うお前が、随分と辛そうなのを見てると、正直どっちもどっちって気がしてる。好きなんて感情が湧く余裕もなく、むしろ恨むくらいの関係で、丁度良かったのかもとも思う。あと、お前のお陰で、俺が思っていたよりずっと、もしかしたら愛されていた可能性も見えちまったし」
 今は、性癖がまったく合ってなかったのが一番の不幸だったと思う。と続けながら、彼は苦しそうに笑ってみせた。

続きました→

 
 
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