ナンパされても揺らがなかったからですよと告げる声は柔らかで、こちらを見つめる視線もいつの間にか随分と、穏やかで優しいものへと変化していてドキリとする。
「前に、二股かけない程度の誠実さはあるって言ってたっすけど、それ以上に大事にされてると言うか、好かれてると言うか。先輩の好きを信じてなかったわけじゃないんすけど、学校の外でも、学内の生徒の前以外でも、同じかそれ以上にちゃんと恋人として扱われて、なんて言うか、こう、恋人なんだってことを実感したっす」
これさっきも言ったっすねと照れ笑う顔さえ、やはり穏やかで優しかった。
確かにデートと思って出掛けていたし、相手が好きって気持ちも日々育ってしまっているけれど、ちゃんと恋人として扱えていたかと言われるとそこまで自信がない。学校内の方がまだ、自分たちが恋人であると知られている気安さから、恋人っぽい触れ合いが出来ていた気がするんだけど。
いやでも結局、校内でのキスは控えるようになってしまったので、やっぱりそんなに変わらないかも知れない。
「ごめん。俺の方はそこまで、お前を恋人として扱えてた実感ない。むしろ、はたから見たら男友達にしか見えないんだろうなって思って、なんか悔しいくらいだったんだけど」
「そういうの、なんとなく、伝わってたっすよ」
相手はふふっと柔らかな笑いをこぼして、そういうのを恋人として扱われてると言ったつもりだったと続けた。
「ただでさえデカイ男が二人並んで歩ってると人目につきやすいし、変に注目浴びたくはないんで、先輩が考えてるような恋人らしい扱いを外でされたいとは思わないし、先輩もそれわかってるからしないんすよね? でも実際には出来なくても、手を繋いで歩きたいとか、腕組んで歩きたいとか、引き寄せたい、抱き寄せたい、キスしたいって思ってくれてるの、やっぱり嬉しいっす」
「待って。お前と手繋いで歩きたいなとか思ってるの、まさか顔に出てたりする?」
「家の中でなら結構はっきり。ただ、ちゃんと同時に口で言ってくれる事も多いすけど」
そりゃあ家の中では隠す気もないし、顔にも態度にもわかりやすく出てるだろう。察しがいいから、こちらが口で言う前に叶えてくれる事も増えている。でも家の外での話をしてるのに、というこちらの不満には気づいているようで、ほんのりとした苦笑とともに、宥めるような声音が言葉を続けていく。
「家の中で鍛えられたんで、外でもなんとなくの雰囲気でわかる、という話っすよ。だから実は半分くらいは、だったら良いなって俺の希望も混ざったはったりすかね」
あながち外してないみたいで良かったなんて言われて、若干騙されたような気分にムッとしながら相手を見つめた。ただ、あながち外してないというのも、多分、事実だ。
罰ゲーム期間中から察しは良い方だと思っていたし、気遣いも上手いと思っていた。あまりに自然にそれをこなしていたから、甘やかされていると感じることは多くても、またかとどこか当たり前のように受け止めていた。
なぜそれを当然だなんて思っていられたんだろう。エスパーでもあるまいし、口に出さないことを雰囲気で感じ取れるようになるには、それ相応の努力なり経験なりが必要なはずだ。
普段、いったいどれだけ注意深く、彼に見つめられているんだろう?
元々素養があったにしろ、そうでなければこの短期間で、日々こんなにも心地良く甘やかされてなんかいないはずだ。彼がそこまでしてくれるのは自分が彼の恋人だからだと、考えればすぐにわかることだけれど、頭でわかることと実感することは確かに違うらしい。
その実感は、騙されたと思ってムッとする気持ちを、照れ恥ずかしい喜びへ塗り替えてしまった。
「俺も今、俺がお前の恋人なんだってこと、ちょっと実感してるかも」
嬉しいと言ったら、俺もですの言葉とともに、再度顔が寄せられ唇が触れた。そっとまぶたを下ろして、優しく触れ合うだけのキスを堪能する。
心が満たされて、でも、足りないと思う。気持ち良いことがしたいという直接的な欲求とはまた少し違う感じで、もっと、相手が欲しいと思う。知りたいと思う。
「お前が欲しいよ。お前と、もっと深いところで、繋がってみたい」
抱いてみたいって思ったってのは、つまり、そういう事だろう?
そんな確信はありつつも、彼の言葉がどの程度本気の話かはわからず不安で、気持ちも吐き出す言葉も揺れている。
だから俺もですと甘やかに返されて、安堵と喜びとがあふれるみたいに、少しだけ泣いてしまった。
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