罰ゲーム後・先輩受19(終)

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 この関係は最長でも自分が卒業するまでと口に出して言ったことはないけれど、当然そのつもりだったし、相手だってそれをわかっていただろう。だってこれは、わかっているからこその発言だ。
 本気かなんて聞くのはバカらしくて、けれどあまりにも想定外な発言に、結果、口を閉ざすしかなかった。
「俺に甘やかされるの、嫌になりました?」
 そっと伸ばされた手が、頭を撫でるようにして髪を優しく梳いていくのを、これ以上甘やかすなと振り払うことなんて出来ない。でもこいつじゃなきゃダメってくらいに甘やかされて、別れられなくなるのは困るとも思う。
 既に手放したくないなと思ってしまっているけれど、だからって卒業後も付き合い続けようなんて発想は一切していなかったのに。それは考えてはいけないことだったのに。
 それをあっさり、本気とわかる熱心さで突きつけられて、酷く動揺していた。
「嫌っていうか、だって、俺がどこの大学行くかなんて、まだ全然決まってもないのに」
「でもどの辺狙いかは聞いたっすよ」
「最悪飛行機の距離だし、最短でも、学校帰りに毎日寄ってなんて絶対言えない距離だよ」
 たとえここから通える距離の大学へ入学したとしても、引っ越しは間違いなくするだろう。交通費も通学時間もただの無駄でしかないからだ。
「だからこそ、身近で新しい相手探すより、俺と付き合い続けたいって思ってもらえるくらい、先輩を俺に夢中にさせたいんすよね」
「それは、怖い、よ」
「俺に今以上に夢中になることがっすか? それとも、恋人と頻繁に触れ合えないこと?」
「そんなのどっちもだよ。遠恋向きじゃないのなんてわかりきってるのに、お前じゃなきゃダメってほどお前に骨抜きにされちゃったら、お前がそばに居てくれない俺の大学生活、毎日泣き暮らす羽目になるよ?」
 そんな泣き言を連ねても、相手はふにゃんと緩んだ顔をして、大丈夫すよなんて言いながら愛しそうに見つめてくるから、ドキリと心臓が跳ねてしまった。
 だけどすぐに気付いてしまう。動いてないと寝落ちしそうと言っていたことを思い出してしまう。
 これもう絶対、半分くらい眠りに落ちてる。
 だからこれは、二人は末長く幸せに暮らしましたという、ハッピーエンドな寝物語みたいなもので、多分もう寝ぼけてて、夢の話で寝言なんだろう。きっとその方がいいから、夢の話にしてしまおうと思った。
「そうだな」
 柔らかに吐き出して、そっと相手の頭に手の平を乗せる。先程されたみたいに数度優しく髪を梳いて、最後に額を撫で下ろすみたいに滑らせて目元を覆ってやった。
「信じてないっすね」
 そのまま寝てしまえと思ったのに、相手は不満げに口先を尖らせると、目元を覆われたままグッと顔を寄せてくる。正確には体ごと寄ってきて、あっという間にこちらを抱き込み引き寄せる。
 軽く覆っていただけの目元の手はあっさり外れて、トロリと優しいままの瞳に、また見つめられてしまった。相手は眠いだけなはずなのに、やっぱり少しばかり鼓動が速くなるようだった。
「大丈夫」
 甘やかな声が間近で繰り返す。
「二股かけない先輩は、恋人居ない時期もあったっすよね?」
 やはり相当眠いのか、吐き出す声もトロリと甘く緩やかだ。
 なんだか相手が溶けてしまいそうな錯覚に襲われる。でももしかすると、溶けているのは自分の方なのかも知れない。ぜんぜん大丈夫じゃないだろって気持ちが、溶かされて曖昧になっていくような気がした。トロトロな甘い気配に包まれて、大丈夫を信じたくなってしまう。
「寂しいなら毎朝毎晩電話します。おはようも、おやすみも、大好きも、毎日先輩の耳に届けます。そして出来る限り会いに行きます。俺調べでは恋人不在期間最長三ヶ月だったんで、たとえ飛行機の距離でも、三ヶ月以上開けませんから。会えない時間埋まるくらい、先輩ドロドロに甘やかしますから」
 途中でとうとう瞼を下ろしてしまった相手は、それでもうっとりとそんな言葉を吐き出し続ける。
「ばーか」
 吐き出す自分の声も甘かった。
「んなの聞いて、飛行機距離の大学なんか行くわけ無いだろ。そこ滑り止めだし、気合で他の、というより本命の合格もぎ取るっての」
「それ、こっから一番近いトコ、すか?」
「そーだよ」
 目は閉じたままだけれど、それでも嬉しそうにくふふと笑う。嬉しそうに、幸せそうに、大好きですと囁くようにこぼす。
「俺も、好きだよ」
 顔を寄せて、ちぅ、と軽く唇を吸って放せば、閉じていた目が薄っすら開いた。
「先輩の、恋人でいたい、す。これからも、ずっと」
「うん」
「先輩に、惚れ続けて貰えるように頑張るんで、だから、」
 いっぱい俺を欲しがって、と続いた声はほとんど音になっていなかったし、目はまた閉じてしまっていたけれど。お前の全部が欲しいよと囁いた声に返る声はもうなかったけれど。
 頭の中で、あげます全部、という彼の声が響いた気がした。更にそれは、貰いますよ、俺だって、全部、と続けてくれたから、顔が熱くなっていく。
 さっき抱かれてる最中に実際聞いた言葉だと、気づいてしまったからだ。
「恥ずかしっ」
 照れてこぼした声に応えるのは、規則正しく繰り返される寝息だったので、ベッドヘッドに置いたリモコンを弄って明かりを落とした後、甘えるみたいにすり寄ってくっついて、おやすみと呟き目を閉じた。

<終>

 
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