罰ゲーム後・先輩受5

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 玄関を施錠した直後、さっさと奥のリビングへ向かっている数歩先の後輩へ手を伸ばした。
 チョンと指先が触れただけで振り向いた相手に、キスさせてと告げながら短な距離を詰めていく。掴んだ手首を軽く引いたが素直に引き寄せられることはなく、驚いたらしい相手が身を固めてしまったので、それならばと逆に廊下の壁へ追い込んだ。
「えっ、……」
 驚き戸惑う相手を壁に押し付けるようにして、顎を捉えて唇を塞ぐ。呆けて緩んだ唇の隙間へ舌を差し込めば、応じる気になった様子で口が開かれ相手の舌が伸びてくる。それを絡め取って吸い上げて甘噛んでやれば、んっ、と甘やかな音が漏れ聞こえた。
 スキンシップの補給なんてつもりは毛頭なく、めいっぱい感じさせるつもりで繰り返すキスに、相手は応じつつもかなり困惑しているらしい。こんな性急さを見せるのは初めてだから、当然の反応だろう。むしろ嫌がって逃げられるかもと思っていたので、困惑しつつもキスを受け続けている事に、胸の中の愛しさが膨らんだ。
「っは、カワイすぎ」
 思ったままを口からこぼしながら、Tシャツの裾から手を忍ばせる。直接触れた手の平の下、腹筋がビクッとわななくのを楽しんでから、ゆるりと肌を撫で上げた。
 もちろんキスは続けたままだが、指先に意識を向ける分、あまり深くは探らずチュッチュと軽く吸い上げ啄むものが多くなる。顔を離す時間も多くなって、相手と視線が絡むことも増えた。やはり戸惑いと困惑を滲ませた表情をしているけれど、嫌がり耐える様子はないので安心しながら、相手の戸惑いも困惑も丸呑みして封殺するような気持ちでニコリと笑ってやった。
 あまり胸は感じないとわかっているけれど、弄ればきちんと反応して、小さいながらもふっくら尖って存在を主張してくるし、繰り返せばいずれ胸でも感じるようになるかもしれない。物理的な快感を得られるようになるか、胸を弄られるというその行為に興奮できるようになるか、どちらだっていいけれど、そうなったら嬉しいだろうなと思うだけで自分自身も興奮していく。
 乳首が固くなってきた所で、ベロリとシャツを捲り上げた。舌を出して、舐められることを意識させるようにゆっくりと頭を寄せていけば、胸の先へ舌先が触れるより随分と早く、胸と頭との間に差し込まれた相手の左手がそのまま額に押し当てられる。
 押しのけてくるほど強い力は掛からないものの、結構しっかり阻まれてそれ以上頭を寄せることは出来なかった。
「それ以上はダメっす」
 熱に浮かされたような掠れた声が興奮を煽るのに、その内容はきっぱりはっきり拒絶だったし、譲らない意思も見えている。
「なんでダメ?」
 無理強いする気はないので素直に頭を上げながら、未練混じりに問いかけた。相手だってそれなりに興奮できているようなのだから、このままここで抜きあったってさして問題はなさそうなのに。
「制汗剤掛けまくってるんで、多分マズいっすよ。あと、やっぱイロイロ汚い。暑い。食材痛みそう。が理由、すね」
「んんんんっ」
 思わず唸った。確かに日中暑い日も多くなって、閉め切っていた家の中は北向きの玄関さえもムンムンと蒸し暑い。
 よほどあれこれ買い込まない限りは買い物袋は全て相手が持ち帰るのが定着しているが、キスで翻弄されている間も落とすことなく持ち続けたその袋の中に、要冷蔵品がいくつも入っていることは自分だってわかってはいるけれど。何もこんな暑い中で盛らなくたって、冷房効かせてシャワーを浴びて、それからゆっくり触れ合うだけの時間があることもわかっているけれど。
 思いの外冷静ですねと思ったら、残念な気持ちとともにこちらの興奮も流れ落ちていくようだった。
「あー……そういうのは興奮と気持ちよさで頭沸騰させて、忘れてても良い事項じゃない?」
 そう言いながらも、続ける気はないから安心してというように、相手を追い越してリビングへ向かって歩きだす。ついでに相手が持ったままのスーパーの袋を、奪うように取り上げてやった。
「逆に、なんでそんなエロスイッチ入ってんのかわかんねーんすけど」
 慌てて追ってきた相手が、再度手の中のスーパーの袋を奪っていく。別にたいした意味があってやったわけではないから、大人しく手を離して食材たちは彼の手に委ねた。
 代わりに、拗ねたふりで口を尖らせて見せる。
「だってお前が可愛くおねだりしてくれるって言ったから」
「は?」
「お前が可愛く俺に甘えてくれるの、夜までなんて到底待てない。ずっと、夜どころか家までだって待ちたくないなー今すぐ引き寄せて抱きしめてチューしたいなーって思ってたの。それを理性で押さえ込んでたのが、家の中入ったらはじけ飛んだよね」
「ちょ、変にハードル上げてくるの止めてくださいよ。その期待に応えられるほど可愛く甘えるのとか多分無理なんで」
「大丈夫。お前が思ってるより、お前ずっと可愛いからね?」
 言えば、可愛い顔して何言ってんすかと、尖らせていた口先をムニッと摘まれてしまった。
「だーってお前が甘やかされてくれないと、俺が甘えるしかないかって気になるし?」
「じゃあさっさと冷房入れて、先にシャワー行って下さい」
 つまりはエロいことは夜までお預けではなく、夕飯の支度を始める前に一度抜き合うのはオッケーらしい。先週の土曜はさすがに即ベッドなんてことはなく、くっついてテレビを見ながら近づいた距離感を噛みしめるように堪能して過ごしたから、そう思うと、やはり今日はしょっぱなから随分と急ぎ気味だ。
 きっと毎日軽く触れるだけのキスで焦らされていた分も大きいんだろう。いやでも、無ければ無いでスキンシップ欲しさにムラムラするんだろうから、結果は同じかもしれない。だったら無いよりあったほうが断然良いな。
 なんて事を考えながらシャワーを浴びていたら、食材を片付け終わった相手がしれっと入ってきたので驚いた。
 もちろんそのまま風呂場で抜きあったし、めちゃくちゃ嬉しかったけれど、この方が手っ取り早いと思ったとか言い放った相手は、相変わらずちょっと情緒が足りない。いやまぁ確かにそうかもしれないけど。この後の彼の作業を思えば当然かもしれないけど。というかそれってもしかしなくても、手伝いもせず出来上がるのをダラダラ待ってる自分のせいか?
「なぁ、俺が手伝えるようなことってある?」
「夕飯の支度ですか?」
「そう。キッチン狭いし、俺が隣に並んだら逆に邪魔?」
「俺の側から離れたくない。って意味で受け取っていいんすか、それ」
 指摘されて、それもないとは言えないと思う。
「えー……えー……あー、じゃあ、まぁ、それでもいい」
「先輩ってどれくらい料理できるんすか? 包丁握ったこと有ります?」
「林檎の皮は包丁で剥ける。程度には出来るよ?」
「凄いっすね。なんだ。やらないだけでやれば出来る系なんすね」
「そういや手伝ってって言われたこと無いな。つまり出来ないからやって貰ってると思われてた、のか?」
「いや多分、あのキッチンで隣立たれたら邪魔だからっす」
「おいこら。結局邪魔なのかよ」
 まぁそうだろうと思ってたけど。結局手伝えることはないらしいと思って小さくため息を吐きだしたら、提案なんですけどと言って相手が口を開く。
「俺が部活上がるの待たずに、先輩が先に買い物して帰って、簡単な下処理とかしといてくれたら、俺がキッチンに立つ時間めちゃくちゃ減りますよ?」
 狭いキッチンに無理矢理二人で立つよりよっぽど効率よくないですかと言われてしまえば、これはもう頷くしかなさそうだ。どうせ一緒に帰ったって、手を繋げるわけでも腰や肩を抱けるわけでもないのだから、二人きりになれる部屋の中でこそ一緒に過ごせる時間を増やしたい。
 決まりですねと笑った相手は、結局可愛く甘えられなくてすみませんと笑顔のまま続けたけれど、笑った顔はやっぱりちゃんと可愛かった。

続きました→

 
 
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