罰ゲーム後・先輩受9

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 少し思い詰めたような顔で、セックスするのが怖いんですと告げられたのは、七月最後の土曜の夜だった。
 恋人ごっこからごっこが外れた所で男同士の気安さはやはりあったし、絶対に先輩のほうが甘えたがりで構って欲しがりと指摘された通り、相手の好意が重いとかわずらわしいなんて思ったことは一度もなくて、でもちゃんと恋人として大事にされていることも伝わっていたから、彼の隣はあまりに居心地が良すぎた。このまま相手に甘えることに慣れきって、想いを育ててしまったら、性的な意味でもっと彼が欲しくなるのは避けられないような気がする。子供が出来る心配のない男同士なら、突っ込むセックスだってありだと、一度でも思ってしまったのは大きいかも知れない。
 だから、当初の予定ではもっと頻繁に夕飯を作りに来てと甘える気でいた夏休みを、一人寂しく過ごしている。というのは嘘で、さっさと夏期講習で気が合いそうな友人を作り、授業後も塾が閉まるギリギリまで自習室を利用した。そうすることで、昼食はもとより夕食も塾内もしくはその近辺で新しい友人たちと摂ることが出来るし、帰宅だって必然的に遅くなる。それは恋人を家に呼んでイチャイチャする時間なんてものはまるでない生活だ。
 講習に申込んだ直後、授業そのものは普段の彼の部活終了時刻とそう変わらないと言っていたせいで、夜にはバイトを入れずに居てくれた恋人には悪いと思いながらも、夏期講習が始まってすぐに、自習室を最大限利用したいから夏休み中の平日はほとんど会えそうにないと言ってしまった。
 避けている、という自覚はないわけではなかった。でももちろん、突っ込まれるのも突っ込むのもナシで、こちらがしたいと言ったら別れると言い切った相手に、繋がるセックスができないなんて物足りないと思ったわけじゃない。さすがにまだ、そこまではっきり欲求が湧いているわけじゃない。でもそんな欲求が湧いてしまわないように、少し距離を置いたほうがいいだろうとは確かに思っていた。
 なぜ距離を起きたいのかきっちりと説明せずにそんなことをしたら、彼がどう思うかなんてわかりきっていたのに。繋がるような行為は無理だと言われて思いの外ショックを受けてしまったから、少しくらい彼も傷つけばいいと思って説明を省いたのだとしたら、間違いなく恋人に向かないクズな男だと思う。ほとんど無意識ではあったけれど、そんなものはなんの言い訳にもならないことはわかっていた。
 夏休み最初の週末は、相手もまだ様子見だったんだろう。途中中断後初の触れ合いだったけれど、こちらからそのことには一切触れなかったし、相手も触れては来なくて、つまり互いに極力今まで通りに過ごした。でも更に一週間、簡単なメッセージのやりとりだけで過ごした間に、相手も色々と思うことがあったらしい。
 先週同様、今まで通りを半ば演じるような時間を過ごした後、ベッドに誘ったら相手はゆるく首を振って拒否を示した。話し合いをしましょうと続いた声の冷たさに血の気が引いていく。胸が締め付けられて息苦しい。
 それを見ていた相手は、少し困ったように、先輩が好きなんですと言った。
「先輩は? 俺を、好きですか?」
 もちろん即座に好きだと返せば、繋がるセックスがしたいくらいに? と質問が重ねられる。
「しなくていい。お前と、恋人でいたい」
「じゃなくて。したいかしたくないかの話っす」
 抜きあうだけじゃ物足りなくなってませんかと聞かれて、お前じゃ物足りないって態度を長く続けられたら彼が耐えられないのだと、はっきり忠告されていたことを思い出す。
「まさかこれ、別れ話?」
「違います。先輩が好きだって、言ったばかりっすよ。それより、どうなんすか?」
 したいかしたくないかを再度問われて、興味はあると正直に返した。
「でもどうしてもしたいってほどの欲求はまだない。ただ、今後そうならないとは限らないから、これ以上お前にメロメロしてくのはマズいかもとは思ってる。ちょうど夏休みだし、お前に甘えきった生活を少し改善しようと思ってもいる。それをちゃんと説明せずに、勝手にお前と距離おいたのは、本当に、ゴメン」
「男同士なら子供出来ないから、突っ込んで気持ちよくなりたい、てのとは違うんすよね?」
「もちろん違う」
「俺が好きだから、俺と繋がるセックスをしてみたい。繋がれるなら、どっちが抱く側でも構わない。ってことで、いいんすか?」
「いいよ。抱かれるのは絶対無理でも、抱く側なら出来るってなら、俺が抱かれる側になる」
「怖くないんすか?」
「お前に抱かれること? 別に怖くなんてないけど」
 だって抜き合うだけとは言え既にその肌を知っている。欲に任せて襲いかかられるなんて全く思えないし、乱暴な扱いだってされないと思う。むしろ色々気遣いながら優しく抱いてもらえそうな気さえする。
 まぁ童貞ではないと言っても経験は少なそうだし、男同士なんて互いに初めてなのだからそもそも問題なく繋がれるかがわからないし、相手はともかく抱かれるこちらはそう簡単に気持ち良くなれないだろうなとも思うけれど。
 でもやっぱりそこに、怖いなんて要素はない。
「俺は、セックスするの、怖いっす。抱かれるのはもちろんですけど、俺が、抱く側でも」
 どこか思い詰めた表情に、ああ、なるほど、と思う。中学生時代に既に経験したというセックスで、何かしらトラウマを抱えるような失敗をしたらしい。

続きました→

 
 
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