少なくとも、なんでここでそんな言葉が出てくるんだと、いちいち驚いたり悩んだりはしなくなった。と思ったそばから。
「俺ちゃんと言いましたよ。期待したくないし、ぬか喜びしたくないし、リップサービスで好きって言われたら泣いちゃうって」
睨みつけてくる瞳に、ぶわりと涙がたまって流れ出すからギョッとする。しかもその後すぐに、自ら開けた距離を再度縮めて胸元にすりよってくるから、何してんだと思わずにいられなかった。
顔を隠したいだけなのか、もしくは先程泣いた時の姿勢に戻っただけなのか。どちらにしろ、恋人になんてなりたくないという口ぶりで、泣きながらくっついて甘えてくる仕草のチグハグさには、結局驚かされて考え込む羽目になっている。考え込む原因になっているのは、泣く直前の言葉のせいも大きそうだけれど。
本当に恋人は居ないのだと伝えた結果、なぜ期待やぬか喜びをしたくないと泣かれるのかがわからない。
恋人がいると強く信じていて、嘘をついているように思っている。という線が一番強そうではあるが、じゃあなぜそんな誤解をしているのか。そんなのどう考えたって、親経由情報だろう。彼女が居る素振りで、親の結婚やら孫やらの催促をのらりくらりと躱していた自覚がなくはないので、まぁ間違いなくそれが原因だ。
「うちの親から何か聞いてんのかもだけど、恋人居ないってのはホントだぞ」
「今はっ、そ、でも、俺がっ……邪魔に」
「邪魔? 二股とか、俺がお前と恋人になった後、他の女に目ぇ向ける心配してる? 一応、そういうことするタイプのクズでもないつもりなんだけど」
やりたい盛りの頃ならそこに、やらせてくれる限りは、という一文が追加されていたかも知れない。ただここ何年もオナホで充分な生活をしていたことを思うと、セックスの頻度や良し悪し如何で、他の女を探そうとはならないはずだ。
というかそもそも、恋人なんていらない気持ちのが大きい。それでもこの従兄弟との恋人関係を有りと考えるのは、相手の抱える複雑な感情の何割かが現在の自分への恋情として存在するなら、いっそ恋人関係になってしまった方が、抱くにしろ飲みに行くにしろ扱いやすそうだと思ったからだ。
ついでに言うなら、恋人なんていらないと思ってるからこそ、恋人になってもいいと思ったと言える。だから他の誰かなど気にする必要はなかった。
「だからっ、年齢が……あなた、優しい、からっ、……俺が、邪魔、しちゃ、って」
また年齢が出てきて、どうやら彼は何かを一貫して訴え続けているらしい。イマイチ会話が成り立っていないというか、彼が何を訴え続けているのかはわからないままだけれど。
「よし、一回口閉じて落ち着こうか。泣いてるのに喋らせて悪かったよ。何言われてるか理解できてないけど、お前にはお前の言い分がちゃんとあるのはわかったから、一回落ち着いて、俺がわかるように順番に話して欲しい」
宥めるように頭や背中を撫でてやれば、相手も落ち着こうとしているのか、胸元で深い呼吸を繰り返している。最初少し震えていた呼吸は、すぐに安定したようだった。
「あの、恋人になっても、俺、あなたに幻滅とか出来ると思えないというか、むしろもっと好きになっちゃう気がするし、あなたに恋人として扱われる経験なんてしちゃったら、終わるとき凄く辛くなると思うので、無理、です」
やがてそっと顔を上げておずおずと告げられた言葉は、先程尋ねた恋愛できない理由だった。
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