「初恋? って俺らがまともに顔合わせたの、ばーちゃんの葬式だろ。そっから何回会ってる? しかも法事でちょっと世間話したくらいの付き合いしかないのに?」
かといって、一目惚れで、などと言われるような容姿じゃないのも明白だ。ブサイクの部類には入ってないと思うが、だからといってカッコイイに分類されもしない、ごくごく平凡な容姿だと思う。過去に彼女に困らなかったのだって、口の上手さでと言ったとおり、主にコミュ力で付き合いに発展させていただけで、容姿は特にプラスにもマイナスにも働いていなかったはずだ。
「いや、もっと昔の話です。幼稚園の頃の俺と、遊んでくれましたよね?」
多分おじいさんのお葬式だと思うんですけど、と続いた言葉に、言われてみれば確かにそんな記憶もあるなと思った。あの時は未就学児なんてこの子くらいで、周りの大人たちはさすがに忙しそうであまり構ってもらえず、異様な雰囲気にのまれて困惑しているようだったから、当時まだ学生だった自分が子守を買って出たのだ。自分自身、かなり暇を持て余していた、というのも大きい。
まさか覚えていると思わなかったけれど。
「あと、お正月とかで会った時も、俺と遊んでくれてたでしょう?」
そりゃあ、親たちが酒を飲みつつ盛り上がってる横で、一緒に飲めるわけでもない上にどうでもいい昔話や世間話に相槌を打つよりは、小さな従兄弟に構っている方がまだ楽しかった。
もちろんこれも、覚えているなんて思っていなかったけれど。
「そんな昔のこと、覚えてるのか?」
「実を言うと、おばあさんのお葬式で再会するまでは、想像で作り上げたお友達的な存在なんだろうって、思ってました。小さな子はそういうことするって、聞いたことあって。遊んでる場所も記憶になかったというか、普段の生活範囲にない場所だったから、夢の中で遊んでくれた人を、いつまもでしつこく覚えてるだけなのかな、とか」
どうやら祖母の葬式で再会した後、親に確かめて確信したらしい。
「小さな頃にも何度か会ってて、よく遊んで貰ってたって、聞きました」
「それを否定はしないけど、だからって初恋? 想像上の人物って思ってたような相手に?」
「だからこそ、ですよ。ずっと、実際に居もしない人をこんなにも忘れられないのはなんでだろって思ってて、でも恋愛とか意識しだした頃に、きっと自分は男が好きで、理想の相手を想像で作り上げたんだろうな、って」
「実際、男が好きなの?」
「好きだと思うような相手が出来る前に再会しちゃったんで、そこはよくわかんない、です。でももし再会してなかったら、昔のあなたに似た相手に、惚れてた可能性はあると思います」
「てことは、ばーちゃんの葬式から先、結構長いこと俺を好きだったってこと?」
「好きというか、かなり意識はしてました。もっと近づきたい、あなたを知りたい、みたいな気持ちは間違いなくあります。でも恋愛したいわけじゃないって言うか、」
「待って。初恋って話だったのに、恋愛感情ではない好きなの? 再会してなかったら、昔の俺に似た男に惚れた可能性があるのに?」
抱かれたいとまで思っているのに、恋愛したいわけじゃないってどういうことだと、思わず相手の言葉を遮って聞いてしまった。
「だって、実在の人物と思ってなかったから。ただの理想イメージだったと言うか、えと、つまり、相手も同じだけ年取ってる想定じゃなかったんです、よね」
そりゃそうだ。相手が好きだと言っているのは、要するに高校生くらいの頃の自分、ということだろう。
「なのに俺に抱かれたいって思うの?」
「抱いて貰えるなら、抱かれたい、です」
「それは俺を知りたい好奇心ってこと?」
「それもなくはないですけど、もし悪くなかったって思って貰えたら、やりたくなった時に呼んで貰えるようになるかも、って……」
「待て待て待て。なんだそりゃ。俺がやりたい時に穴を差し出す、俺にとってやたら都合のいい相手になりたい、って意味に聞こえたんだけど」
「そういう意味で言いましたけど」
あっさりと肯定されて、わけのわからなさに頭を抱えたくなった。
言葉は通じているはずなのに、意味が汲み取れなさすぎて違和感が凄い。これでもコミュ力にはそこそこ自信があったのに。職場の若い子たちとだって、ここまで意味がわからない会話になったことはないのに。
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