息を切らせてたどり着いた先、玄関扉を開いた相手に苦笑された。
「どんだけ急いだんだよ。汗だくだぞ」
まぁいいから入れという言葉に促されて中に入り、ドアが閉まるとそれだけでもうソワソワする。汗だくなのは本当で、でもなんか無性に目の前の親友に飛びつきたい。
「あー、うん、その、ゴメンっ」
「ちょっ、おいっ」
まぁいいかと衝動のままに飛びついてしまえば、受け止めきれなかった相手と共に崩れ落ちた。
「あっぶね」
「そりゃこっちのセリフだ。お前ちょっと衝動的すぎだろ。なんか懐かしいけどさ」
「懐かしいか? 昔のお前ならちゃんと抱きとめてくれたと思うんだけど」
「デスクワークメインのサラリーマンの筋力舐めんなよ。しっかり構えてたって、お前が飛び込んできたら耐えられるか自信ねぇわ」
「わー情けねぇな。筋トレとかしないの、お前」
「しませんけど。そんな余裕ありませんけど。でも今後はちょっと頑張るわ」
「なんで?」
「お前が飛びついてくるたび、一緒にぶっ倒れるわけに行かないだろ」
「飛びついていいんだ?」
「いいよ。なんか、嬉しい」
ほんとうに懐かしいんだと、崩れた勢いのまま、中途半端に下敷きになっている相手がこちらを見上げて笑う。
「お前は俺のものだろって言いたげに、お前がまっすぐに俺を見てくれるのがさ。本当に久しぶりだし、凄く、嬉しい」
「え? 俺、そんな顔してた?」
「してたよ。お前は俺を好きってことに凄い自信満々だったもん」
「あー、まぁ、あの頃は無駄に全能感あった気はする。でもそれ、お前が、俺の好きを受け入れてくれたからだぞ?」
「だって俺も、お前は親友だと思ってたから。若かったから、親友のただ好きって言わせてくれってお願いを鵜呑みにして、そう振る舞う以外出来なかったけど」
「今は?」
「親友だと思ってるけどさ、でも昔ほどべったり一緒にいられるわけでもないからね。それなりに恋愛やらも経験したせいで、ちょっと欲深くなったかもね」
恋人になってくれると思っていいんでしょ? と続いた言葉に、黙って頷いた。
「あいつとは別れたの?」
「振られた」
「あー……らしいと言えばらしいんだけど。どうする? 今度、菓子折りでも持って挨拶行く?」
「お前のおかげで無事に俺たちお付き合いすることになりました。みたいな?」
「そう。また殴られそうだけど」
でもそれはきっと、おめでとうと言いながらの軽い拳でしかないだろう。相手だってそう思っているようで、顔は幸せそうに笑っている。
「菓子折りより飲みにでも誘おう。いつものメンバー集めて、報告でもいい」
「きっと驚くよねぇ……」
「でもあいつらなら、わかってくれるとは思う」
俺たち友達に恵まれたよねぇと笑う顔がやっぱり幸せそうで、親友のこんなふわふわした顔を見るのは久しぶりだなと思った。なんだかとても懐かしい。
そのまま顔を寄せて、唇を触れ合わせてみたい衝動。昔はなかった。なんてことはないんだけど、気付かないふりで我慢して、我慢しまくった結果、そんな感情はいつしか湧かなくなっていた。
こうしてまた、そんな衝動が湧いたことが嬉しい。しかも、気付かないふりも我慢も、もうしなくていいのだ。
「あのさ、キスしてみていい?」
「もちろん」
どうぞと言われたので、顔を寄せながらお前が好きだと囁いて、そっと自分の唇を相手の唇に押し当てた。
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