隣で人の動く気配に、浅い眠りを彷徨っていた意識はわりとすぐに覚醒した。遠ざかる気配と襖を開け閉めする音の後、酷く静かになったから、トイレにでも行ったのかも知れない。
起き上がって近くで充電中の携帯を取り上げ時間を確認する。時刻は午前1時を少し過ぎた所だった。
部屋の露天風呂を満喫した後、テレビを見ながら時間を潰して見たものの、全く起きてくる様子のない相手に、あれだけ飲んでいたのだからそれも仕方がないかと諦めて横になったのは、日付が変わる少し前だ。寝具が変わったせいか、やはり隣で眠る相手が気にかかるのか、布団の中、ずっと上手く寝付けずウトウトと微睡むような時間を過ごしていた。
トイレに起きたのだとしたら多分すぐに戻ってくるだろうけれど、このまま起きて待っていた方がいいのかを迷う。ヤる気があるならこちらが寝ていたってお構いなしに手を出してくるだろうし、酔いが残ってそんな気になれないなら黙って再度眠るだろう。
起きて待ってたら、相手にヤる気があろうとなかろうと、取り敢えずで、そんなに抱かれたいのと意地悪く聞いてくるくらいはされそうな気がする。
正直言うと、このままヤらずに帰るかもしれない可能性が高いことに、なんとも気持ちが落ち着かない。だってこんな豪勢な旅行を奢られる理由が、相手の好きにさせるセックス以外にない。
酔って出来なかったのは自業自得だろうと知らん振りして、対価ゼロで旅行を奢って貰えてラッキーだと喜んでしまえば良いんだろうか。それが出来ないのは、心の何処かに、ただただ相手に抱かれたい気持ちがあるからじゃないのか。
上手い食事と温泉で釣ってまでしてやりたい事があったはずなのに、でもあの飲み方を考えたら、途中でなにがしかの理由から、ヤる気が失せたと考えることも出来そうな気がする。それを放置して、気付かなかった振りをして、起こる結果に後悔しないと言い切れる自信がない。
もちろん何事もなかったみたいに、曖昧で殺伐としながらも気持ち良くセックスするだけの関係が、今後も続いていく可能性はある。でもやっぱり夕飯時の相手の様子はおかしかったし、しれっと何もなかったみたいに関係が続いていくなんて、のん気に信じられはしなかった。
そうやってぐるぐると思考を巡らせる中、ふと気づけば、トイレに起きたにしては随分と時間が経過していた。
慌てて立ち上がりトイレへ向かう。体調が悪くて戻ってこれないのかもしれない。
しかし向かった先に目当ての人物は居なかった。というよりも、トイレを覗くより先に、洗面台の横に設置された脱衣カゴに相手の浴衣が置かれているのを見つけてしまった。
ホッとするのと同時に脱力し、少し迷った後で自分も着ていた浴衣の帯を解く。裸になって露天風呂へと続くドアを開け、ずかずかと中へ進んでいった。
目があった相手は驚いた顔をしていたけれど、何も言っては来なかったので、こちらも無言で掛け湯しそのまま浴槽内へ身を滑らせる。部屋付きの風呂とは言えそこそこの広さがあるので、向かい合う位置に腰を据え、それからもう一度相手の顔へはっきりと視線を向けた。
相手はやはりどこかバツが悪そうな顔をしながら、こちらの様子を窺っている。
「酔いは覚めたんですか?」
「まぁ、ある程度は」
「また1人で勝手に起き出して。風呂に入るなら声かけてってください」
「昼寝ん時とは違うだろ。てかお前、」
ニヤけるのを失敗したような顔をして言葉を止めたので、なんとなく、続けたかった言葉はわかってしまった。
「一緒に入りたがるの、オカシイですか。というか場所変えてヤろうと思ってって言って、部屋に露天風呂ついてるような宿連れてこられたんで、そういうプレイがしたいのかと思ってたんですけど」
「つまり、今ここにお前が居るってのは、そういうプレイもオッケーって話?」
「美味いタダ飯に温泉まで付けてくれたんで、やりたいなら勝手にどうぞ。ってさっきも言いましたよ」
「勝手にどうぞ、ね」
ふーんとイマイチ興味なさげな音を立てながらも、対面に座っていた相手の体が湯の中をするりと滑って寄ってくる。あっさり顎を取られて、更にグッと近づく顔に目を閉じた。
フッとおかしそうな吐息が唇に掛かる。
「お前から一緒に入りたがってんだから、そんなプレイがやりたいのはお前の方だろ?」
意地の悪い問いかけに、唇が小さく震えて眉を寄せた。
否定したい気持ちはもちろんあって、けれど、相手がそう言いたくなる態度や言葉を投げた事は自覚している。それに、これを否定したらこれ幸いと、顎にかかった手が外されるだろう予感がする。
「そ、です」
呟くように肯定を返したが、さすがに相手の反応を見るのは怖くて目は閉じたままだった。
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