話題になってる映画を見て食事をするという、随分とオーソドックスなデートだったけれど、兄はずっと機嫌が良かった。嫌な顔せず付き合って、なんて言うから、どこに連れて行かれるんだと思っていた分、若干拍子抜けではあったけれど、ベタなデートをしたがる事そのものをどうやら引け目に感じていたらしい。なんて、バカバカしい。
でも、兄を初めて抱いてから先、セックス以外の誘いを一切かけてこなかったこちらが悪いのもわかっていた。可愛がって大事にするのはベッドの中だけだと言われたり、デートがしたいと言われるまで、何の疑問も持たずに、相手の体を気遣い想いを込めて抱いていれば、いつかは絆されて好きになってくれるだろうと思い込んでいたなんて。
本気で相手を好きで、既に体の関係があって、後は心を手に入れたいと思っていたなら、相手の顔色を窺いながら週末にセックスする以外に、やれることなんてもっともっと色々あったはずだった。金銭的な余裕がなくても、抱ける機会をみすみす逃すなんて考えられなくても、ホテルとセックスを諦めて、食事なり行けばよかった。思い返せば、セックスだけが目的じゃないってわかってもらう努力なんて何もしてなかった。
それだけじゃない。お互い仕事や学業があるとはいえ、同じ家に住んでいるのだから、その気になれば兄との時間なんていくらだって作れただろう。でもどちらかと言うと避けていた。家の中で手を出そうとして、兄を困らせる気がなかったからだ。兄の方から雄っぱいをねだりに来てくれる日もあったが、兄が唯一とろける顔を見せて甘えてくれるその時間さえ、衝動で襲ってしまわないように、ただ耐えるだけだった。
心がほしいと思いながらも、結局のところ下半身に直結した思考と態度しか取れていなかったのだから、ベッドの中だけ可愛がるお気に入りのオモチャと認識されていたのも、今となっては納得しかない。
しんみりと悲愴な気配などなく、空元気でもなく、デートの余韻を残して少し興奮気味な兄を連れて、ホテルに入れる幸せを噛みしめる。
「なんか、変な感じ、する」
お前とホテル入るのは慣れてるはずなのにと、ふへへと照れたように笑う顔さえ、愛しくて仕方がない。
「恋人な俺とは初めてなんだから、慣れてなんかないだろ」
「それはそうなんだけど。てかお前はどうなの」
「期待と興奮でヤバイ、って感じならする」
「なんだそれ」
やっぱり照れくさそうに笑うから、肩を抱いて引き寄せながら、ちゅ、とその唇を塞いでやった。
「だって今日の兄貴、めちゃくちゃかわいい。すげぇ嬉しい」
「あーうん、それは、ね。半分くらいは多分演技」
「えっ!?」
本気で驚いたら可笑しそうにケラケラと笑われて心配になる。
「え、ほんとに演技? なんで?」
「ごめん嘘。めちゃくちゃ可愛いなんて言われて恥ずかしくなっただけ」
そんなに幸せだだ漏れてる? と聞かれたから、なるほど幸せがだだ漏れている結果の可愛さらしいと思って、ますます可愛さと愛しさが増した。
「ほんっと可愛いな、今日」
「えー、もー、それはいいって。それより準備してくるから、手、離して」
「それだけど、手伝ったらダメ?」
「えっ?」
「準備、手伝いたい」
「いやいやいやいや、え、お前、さすがにそれは無理だって」
軽く肩を抱いていただけなので、慌てたように身を捻った兄はあっさり腕の中から逃げていく。ちぇーと思いながら唇を尖らせたら、そんな顔してもダメなものはダメだぞと、何も言う前に追い打ちが掛けられた。
「じゃあせめて、慣らすのは全部俺にやらせてよ」
どうせ慣らして拡げてローションを仕込んでから出てきたって、すぐに突っ込んだりはしないのだ。それは兄も思い知っているだろうから、それくらいならと了承されるのは早かった。
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