兄は疲れ切っている20

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 好きな相手に女代わりのオモチャ扱いで抱かれているなんて思い込んで、惨めに泣く必要なんてまるでなかったのに。
 そう思わせて泣かせていたのはこちらだってことはわかっていながら、ついそう口に出してしまえば、兄の目にまたぶわっと涙が盛り上がる。慌ててゴメンと口走る中、キュッと唇を噛んで俯きながら、兄がふるふると頭を横に振った。
 抱きしめたい衝動のまま腕を伸ばす。掴んだ手を引くようにして腕の中に抱え込んでも、抵抗はされなかった。
「ねぇ、本当に、都合良くヤれるオモチャなんて思ってないし、女の代わりにしてるつもりなんてない」
 少しでも慰めになるように、想いが正しく伝わるように、なるべく優しい声音になるよう心掛けながら話し掛ける。腕の中の兄は、ん、と小さく頷いてくれたから、宥めるみたいに背を撫でながら、更に言葉を続けていく。
「好きだから抱きたいし、好きだから俺だけのものにしたかったんだよ。本当に、ただそれだけで、彼女作る気だった兄貴が俺を好きだなんて思いもよらなくて、とりあえず体だけでもって思って酷いこと言って、脅して、諦めさせて、結果、惨めな思いさせて泣かせてたのは、本当に悪かったって思ってる」
「うん」
 途中何度か小さな頷きを返してくれていたけれど、とうとう頷いた後でおずおずと抱き締め返された。甘えるみたいに擦り寄られ、胸の中に暖かな何かが広がる気がする。
 嬉しくて、愛しくて、抱き締める腕につい力を込め過ぎた。
「くる、し」
「あ、ごめん、つい」
 嬉しくてと素直にこぼせば、クスッと笑われる気配がしてホッとする。ますます嬉しくて、愛しくなる。
「できる事なら、最初からやり直したい。でもそんな都合のいい事が起こらないのもわかってるから、せめて、泣かした分の償いさせて」
 俺たちがちゃんと両想いだってわかるようなセックスをしようよって言えば、かなり迷われた後、今からするのかと確認されてしまった。声に戸惑いと不安とが滲んでいるから、さすがに肯定するのが躊躇われる。もちろん、今からしたい気持ちは強かったけれど、既に一度抱かれている兄の体はもう疲れているんだろう。
「じゃ、次、する時は、恋人同士のセックスってことで」
「こいびと、どうし……」
「え、恋人同士、でいいんだよな?」
 声だけでも酷く動揺されているのがわかって戸惑う。恋人の居ない二人の間で両想いが発覚したんだから、今後は恋人ってことでいいんだろうと思ったけれど、もしかしてダメなんだろうか。
「あの、本気で?」
 腕の中、おずおずと顔を上げた兄の顔は不安げだ。何度も泣いて赤くなった目元が痛々しいし、どことなくまだ潤んだ瞳がゆらゆらと揺れている。
「本気っていうか、何かダメ?」
「俺、お前の兄貴だけど」
「え、今更何言ってんの」
「いやそりゃ、今更は今更だけど、え、お前、本当に恋人が実の兄でも抵抗ないの?」
「え、だって、兄貴が俺を好きで、俺も兄貴が好きなんだから、恋人になれば良くない?」
 男同士で子供出来るわけじゃないんだから、血が濃いとかはあまり関係がない気がする。いやまぁ、おおっぴらに兄貴と付き合ってます、とは言わないほうがいいという認識くらいはちゃんとあるけれど。
 言えば、安堵と呆れとが混ざったみたいな顔をして、感じ入った様子で、そうか、と呟いている。
「弟が恋人です、とか、もしかして嫌? 恋人隠さなきゃいけないのが面倒、とか?」
「やじゃない。お前が隠しきれなくて、面倒なこと起こる可能性は、ちょっと、心配してる」
「それは、その、気をつける、つもり」
「うん」
「じゃあ、恋人になって?」
「うん」
 良かったぁと思いっきり安堵の息を吐けば、兄も安心した様子で笑っている。本当に、良かった。
「次回、めちゃくちゃ楽しみにしてる」
「あ、のさ、それなんだけど」
「ん、なに」
「ホテル入る前に、できれば、もうちょっとこう、あの、デート……ぽいことも、したい」
「デート!!??」
 思わず叫ぶみたいにデートという単語だけ切り取って繰り返してしまったので、慌てた様子で無理ならいいと言われたけれどそうじゃない。
「したい。する。デートする。っつっても、ホテル代すらほとんど出してもらってるのに、デート代どんだけ捻出できるかわかんね、んだけど」
「それはいいよ。でも金だすの俺だから、じゃあ、俺がしたいことに、嫌な顔せず付き合ってくれる?」
 もちろんと返せば、嬉しそうに楽しみだと言われてまたしても、本当に良かったとしみじみ思った。

続きました→

 
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