ただのクラスメイトと恋人扱いになってしまった

 どこにでもいる中身も外見もごくごく普通の男として生きてきて、だから誰かから執着に近い好意を寄せられるなんて経験は初めてだった。といっても、正直言えばそんな好意は怖い以外の何物でもない。
 だって相手は気の弱そうなというか間違いなく気が弱いおっさんで、同級生数人に絡まれていたところをちょっと助けただけだった。しかも助けたって言うほど明確にそのおっさんを助けた記憶もない。
 だって顔見知り程度のクラスメイトが一人混ざっていたから、あんまりアホなことしてると進学に響くぞって、ちょっと声を掛けただけだ。それだって、教師に呼び出されてなにか言われたらしく、しばらく大人しくするとかなんとか言っていたのを、少し前にたまたま聞いていたからでしかない。
 言われて思い出したんだろう。そのおっさんはあっさりと開放されたわけだけど、まさかそれだけのことで、好きになったと言われたり、君のことをもっと知りたいと付きまとわれたり、なんて事態に発展するとは全く思ってなかった。こんな経験初めてで、どう対応していいかもわからない。
 間違いなく気が弱いはずなのに、多分、そのおっさんよりも背が低くて体格も細めなので、舐められているんだと思う。先日とうとう迷惑だってはっきり言ったのに、ちょろちょろと周りをうろつくのを止めてくれない。
 ほんと、あの時、声なんか掛けなきゃよかった。
「はぁあああ」
 校舎から出たところで、大きなため息が溢れてしまう。
 これから帰宅しなきゃいけないのに、どうせどこかでまた待ち伏せされている。というかあのおっさんは仕事とかしてないんだろうか。
「疲れた顔してんなぁ」
 後ろからぽんと肩を叩いてきたのは、あの時おっさんに絡んでいた同級生の一人だ。というか声を掛けたクラスメイトだ。
「誰のせいだと」
「つかもっと早く相談しろよ」
「は?」
「あの時のおっさんに付きまとわれてるって聞いたぞ」
 助けてくれたのが嬉しくて惚れられたんだって? と告げる相手は、あからさまに楽しそうだ。
「なにがそんな楽しいんだよ。いい迷惑だよ」
「まぁ、初のモテがおっさんじゃなぁ」
「わかってんならどうにかしてくれ。ただし穏便な方法で」
 しばらく大人しくしなきゃなんだろと言えば、わかってるよと返ってくる。
「まぁどこまで穏便かはともかく、一応、助けるつもりで声かけた」
「えっ!?」
 元はと言えばおれらがあんなの相手に絡んだのが原因だしなと言われて、多少は責任を感じてくれているらしい。
「で、今日もどっかで待ち伏せされてんだろ? とりあえずそれ見つけんぞ」
「力で解決とかは絶対ヤメロよ」
「ないない。ダイジョブ」
 力じゃなくどう助けてくれるつもりなのか全然わからないが、とりあえずあのおっさんと一人で対峙しなくて済むってだけでめちゃくちゃ気持ちが楽になった。もしかしたら本当に、言葉で説得とかしてくれて、というかそれは多分脅しなんだけど、だとしてもおっさんの付きまといがそれで終わってくれるかも知れない。という期待ももちろんある。
「お、見つけた。つか逃げんな!」
 おっさんも、あの時絡んでいた一人だと認識したんだろう。慌てて逃げようとするおっさんの腕をガシッと掴んで引き止めた相手に、やっぱ力技でわからせるんじゃとハラハラする。
 いやもうこの際、多少は痛い目見てもらっても仕方ないんじゃないだろうか。でもこのおっさんは学校にチクってきそうだし。とすると、やっぱり手が出る前には止めないと。でも止めたらまた助けてくれてありがとうってなって……
 嫌な想像が頭の中をぐるぐると回ってしまって、どうしていいかわからないまま二人をただ見つめてしまえば、それに気づいた相手が「お前もこっちこいよ」と声を掛けてくる。
「え……」
「ダイジョブだから。こいつには何もさせないから。なっ!」
 すでに顔色がだいぶ悪くなってるおっさんが、同意を求められて必死に頷いている。相当強く腕を掴まれているのか、多少もがいたところで全然抜け出せないようだ。
 何をするつもりなのかという不安は有るが、まさか自分だけこの場から逃げ出すわけにもいかないし、しかたなく呼ばれるまま相手までの距離を詰めた。
 とりあえずで隣に立てば、相手の空いた側の腕がひょいと肩に乗って軽く引き寄せられる。
「え、何?」
「おいおっさん。こいつ、俺のだから。気安く好きとか言わないでくれる? もちろん追いかけ回すのももう無しな」
 こちらの疑問や動揺を一切無視して、相手がそう言いきった。
 おっさんは青い顔のまま、また何度も首を縦に振っている。
「もしまた次あんたのこと見かけたら、さすがにもう容赦しねぇから。それだけは忘れんなよ」
 じゃあバイバイと軽い口調で告げながら、やっとおっさんを開放したらしい。
 慌てた様子で逃げ出す後ろ姿を見つめながら、こんなあっけないのかと呆然としてしまった。
 いやもうホント、どう考えてもただただ舐められていた。
「え、終わり?」
「まぁ、多分。つかまだ続くなら、今度は俺にすぐ言えよ」
 ストーカーとかで訴えようぜと続いた言葉に、一応、力で解決は除外されているらしいと思う。
「そうする。てかありがとう助かった」
「そんだけ?」
「え? まさかお金取ったりすんの?」
「取るかバカ。つか気にならなかったならまぁいいわ」
 全く気にならなかったわけじゃないけど、男相手にだけモテ期来てるわと茶化していいのかもよくわからないから、軽く首を傾げてなんのことかわかりませんというフリをしておく。
 でもどうやらこの判断は良くなかった。だっておっさんに付きまとわれてるのが彼の耳に入るくらい、あのおっさんと自分のことは同じ学校の生徒らに見られていたってことだ。
 つまり、おっさん撃退のやりとりも、バッチリ見られていたらしい。
 翌日から、友人ともいい難いクラスメイトでしかなかった相手と、完全に恋人扱いになってしまった。
 しかも相手が否定しない。というか絶対面白がっている。
 でも実際おっさんより全然マシだし。擬似的だろうと相手が男だろうと、初めて恋人がいるって状態にちょっと浮かれる気持ちもあるし。
 というわけで、自分自身、周りと相手が飽きるまでこのままでもいいかと思ってしまっているんだけど、この選択で大丈夫だろうか?

今回の更新はただただ書き終わらなかっただけですが、次回(1/29)の更新は日中予定が入っていてまた夜になる可能性が高いです。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です