筋金入りの恋心

 筋金入り、という自覚は有る。なんせ小学校低学年の初恋から先ずっと、成人を迎えても飲酒可能年齢を越えても、未だ一人の人を想い続けているので。
 相手は小学1年の時に集団登校の登校班の班長をしていた近所のお兄さんで、面倒見が良くて優しい人だ。
 年は離れているけどご近所さんで親同士も顔見知りで、おばさんは優しいと言うより色々と豪快な人で、彼を慕って出入りするの近所のガキンチョを追い返すことなく、むしろ遊びに行くと歓迎してくれて、彼と遊べるように取り計らってくれたり彼のいろんな情報を率先して話してくれたから、子供の頃はもうほんと、踏みとどまることなくがっつり想いを育ててしまった。
 おばさんのおかげでこの恋心がここまで大きく育ったといっても過言ではないので、一時期、おばさんと彼との間でちょっと揉めたらしいけれど、豪快なおばさんと優しい彼との揉め事がどうなるかなんて明白だ。
 つまりは、好きになっちゃったならしょうがないじゃない。その気がないなら応じなけりゃいいのよ。というおばさんの意見が通ったわけだ。
 ついでに言うと、この恋心についてはおじさんや自分の両親も知っているが、あまりにしつこく好きで居続けている上にあまり相手にされても居ないので、みんな基本ノータッチを貫いている。生ぬるい目で見守られているとも言う。
 そして肝心の本人はと言うと、優しいから執着がキモいとか重いとか言いながらも結局強くは拒否できなくて、優しいから変な女に同情して付け込まれたりもする。
 好きだとか付き合ってだとか口で言うことはしても実力行使にでたことはなかったし、相手に特定の恋人が居た期間は好きだとかも言わずに大人しくしてたから、多分、結婚したら穏便にこちらを避けられて、しかも可哀想な女の子のことも助けてあげられるって、本気で思っていたんだろう。
 もしその結婚が本当に上手く行っていたら、さすがにこの恋は終わっていただろうか?
 多分そんなことではこの長い事抱え続けている想いは消えてくれそうにないけど、それを確かめる事はどうやら出来そうにない。だって全然上手く行ってなかったから。
 優しい人でちょっとお人好し過ぎるきらいもなくはないけど、思考停止で何もかも受け入れるタイプの優しさではないし、ちゃんと相手のことも自分自身のことも考えられる人だから、きっちり証拠を突きつければ諦めたように大きなため息をついて、離婚に向けて動いてくれた。
 やっぱり大きなため息と一緒に「薄々わかってはいたんだけど」と告げられたのは全部が終わってからで、結局全然うまく行かなかったと随分落ち込みながら「お前が居てくれて良かった」とも言ってくれた。
 自分で証拠を集めて離婚に向けて動く労力を考えたら、もっと切羽詰まるまで動かなかったと思うし、無駄に時間を費やして無駄に疲弊する未来が待っていたはずだから、外側から動いてくれる人が居てくれて本当に助かった、という事らしい。
 そんなことを言われたら、さすがに調子に乗りそうだ。いい加減、俺のものになればいいのにとか言ってしまいそうだ。というか言った。
 ついでに、ここぞとばかりにどれだけ心配したか、いかに大切に思っているかを伝えて、結婚するならせめて幸せ振りまくような生活を送って欲しいと訴える。
 結婚はこりごりかなと困ったように苦笑したあと、お礼に驕るよと連れ出されたけれど、最初の方の、俺のものになってだとか相手をどれだけ想っているかについては完全にスルーされてしまった。まぁここ数年はこんな感じで流されているので、今更なんだけど。
 優しい人だから、こんな完全スルーを覚えるまでとそれに慣れるまでに結構時間を掛けていて、だからまぁ、この塩対応は応えないどころかちょっと嬉しいまである。というのはどこまで知られているんだろう?
 ニヤニヤしててキモいぞって言われたから、嬉しいのは筒抜けなんだろうけど、でもお礼に連れ出されたことを喜んでると思ってるかも知れない。
 こちらの想いを完全スルーされたのが嬉しい、とか言ったら、ますますキモがられそう。と思ったらクフフと小さな笑いが漏れてしまった。
「俺の離婚、そんなに嬉しいのか?」
「え、あー、まぁ、そりゃあ……」
 あ、そっちだったか。という驚きがバレないように曖昧に同意しておく。確かにそれも嬉しいけど、離婚確定はもっと前に確信してたから、その喜びはとっくに消化済みだった。
 よっしゃーと思いながら一人で祝杯を上げたのはいつだったっけ。
「そろそろ三十路のおっさん相手に、しかもお前の気持ち知りながら他の女選んで結婚して、まんまと失敗してるような男に、お前はなんで好きって言い続けるんだろうな」
 はぁあと大きな溜息が聞こえてきた。
「なんでって、そんなの今更でしかないかな」
「妙な刷り込みで好きって思い続けてるだけじゃないのか。もしくは意地で今更好きを止められないとか」
「なくはないかもだけど、そんなの確かめようがなくない?」
 言ったらじっと見つめられて、わけがわからないのに妙にドキドキする。
「いっそ一度お前のものになったら、あっさり満足して、俺を好きでいるの止めたりすんのかもな」
「え?」
「なってやろうか、お前のものに」
 なんだか自棄っぱちというか投げやりな感じで吐き出されてきた言葉に、驚くより心配になった。
「もしかして離婚、そんなショックだった?」
「離婚そのものは正解だったよ。ただ……」
 そこで言葉を切った相手は、続きを言うか迷っているらしい。
「ただ、なに?」
 促すように聞けば、やっぱりまた大きめの溜息が吐き出されてくる。
「いや、今日はいいわ」
 お礼って言ったんだし離婚祝で楽しく飲もうとはぐらかされて、結局その後は何を聞いても教えてもらえなかったけれど、別れ際、今度ゆっくりお前との今後について話そうなと言われてしまった。
 今までこんなことを言われたことはもちろんなく、いったい何を言われるのかと、今から不安で仕方がない。

 
 
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