理解できない27

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 口を閉じて首を横に振る。言いたくないと態度で伝え、口はそのまま開かなかった。
「ふーん……」
 そんなこちらに対して、相手もどうするべきか悩むような頷き一つを残して黙ってしまう。
 もしかして根比べだろうか。こちらが諦めて次の相談を口に出すまでこのままなんだろうか。気まずい時間が長く続くのは嫌だなと思うが、だとしても負ける気はなかった。
「あー……わっかんねぇなぁ」
 やがてぼそりとそう口にした相手をハッとして見つめてしまえば、真っすぐに見つめ返される。
「降参だ。お前が言うのを躊躇う相談てのが本気で思い浮かばない。そもそも、言われたら困る相談に心当たりがない」
 きっぱりと言い切られて、だから教えてくれと続く。根比べではなく、ずっと、こちらの相談が何か、ということを考えていたらしい。もしくは、根比べに相手が白旗を上げた結果、なのかも知れないけれど。
「望む反応ごと全部話せば、なるべくお前が望む通りの反応をしてやる。って言ってもダメか?」
「このまま俺を放っておいてくれる選択肢は? 欠片もないの?」
「ない。寂しいなら構ってやる、ってのも、あんまり嬉しそうじゃなかったからな。今を逃したらもっと拗れそうだ」
 強い意志を感じて諦めに似たため息を一つ吐き出した。相手が本気でこうと決めたことを、崩せた事がないからだ。
「まだ、望む反応なんか返ってくるはずがないって、思ってるか?」
「どうかな。だって、なるべく、だしね。絶対に、じゃないし」
「絶対に、って言ってやってもいいけど、そう約束したからお前が望む反応を返したんだって思われそうだろ。それはダメだ」
「すっごい自信だよね。なんでそう言い切れるの。困らせるよって言ってるのに」
「相談そのいちが、寂しいのどうすればいい、だったからだ。お前が俺を嫌ったり恨んだりしてて、この世から居なくなれ、みたいな物騒な方向の気持ちを育ててるわけじゃないってのがわかってりゃ、何言われたってそうそう困ることにはならないよ」
 言われて困る相談事に全く心当たりがないんだと繰り返した相手は、ふと何かに思い当たった様子でニヤリと笑ってみせる。
「俺が困ると思うなら、いっそ困らせてみろっての」
「なにそれ。煽ってんの?」
「そうだよ」
 しれっと肯定されて、もう一度深く息を吐いた。
「ねぇ、俺のこと、まだ好き?」
 やっという気になったかと待ち構えていただろう相手は、一瞬呆気にとられた顔をしたけれど、すぐに真剣な顔に戻って、もちろん好きだよと返してくれる。だから安心して相談を口に出していいのだと、背中を押してくれる。
「俺も、好き」
 やっぱり想定外の言葉だったんだろう。驚きに目を瞠った相手を真っ直ぐに見つめ続けるのはなんだかいたたまれなくて、少しだけ視線をそらして言葉を続けていく。
「今はまだ、あなたがくれる好きとは違う好きだと思うけど、それを同じ好きに変えていきたい。あなたが喜んでくれる好きって気持ちを、いつか、あなたに差し出したい。そう言ったら、俺に、協力してくれる?」
「その前に、お前が望む俺の反応は?」
「嬉しいって、笑って欲しい」
 なんだそんなこと、と言わんばかりに安堵の息を吐いてから、相手は嬉しそうに笑ってみせた。

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理解できない26

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 しかしこちらの予想と違って、彼は困り顔というよりはいささかムッとした様子の、不愉快そうな顔を見せる。
「俺が家を出たって、一人じゃどうにも出来ない困りごとが起きたら、今まで通り頼っていいって言ったろ。寂しいから構えとか、遊べとか、どっか連れてけとか、言えばいい。お前からすりゃいきなり俺が家を出てったのは事実だし、気持ちの準備期間が足りなかったって言われりゃ納得だってするし、協力だってする」
「保護者も家族も卒業したって言った相手に、そんな風に甘えて困らせたくない、って話なんだけど」
「別に困りはしないけど」
 ムッとした様子はなくなって、今度は平然と言い募る。
「なんで? 俺が段階を踏んで自立できるように、まずは一番頼りにしていたあなたが物理的に距離を置く、ってことだと思ってたんだけど」
 なのに頼って甘えてしまったら意味がないでしょと言えば、当たってるけど急ぎ過ぎだと返された。
「段階を踏んで、ってところには、俺が家を出て距離が離れたって、お前が困ったら今まで通り助けるって分も含まれてんの。ついでに言うなら、俺が居なくて寂しいって理由はともかく、お前が俺に相談できなくて調子狂う日が来るだろうってのは、実のところ想定内でもある」
「は?」
「お前が自分から頼ってこれないのわかってるから、お前の様子があまりにおかしけりゃ、今回みたいに親から俺に連絡入るようになってんだよ」
「は?」
 なにそれ意味がわからない。呆然とするこちらに、相手は肩を竦めて見せる。
「俺から離れるのにだってそれなりに段階を踏む必要があるだろ。ってのは想定内だから、寂しいから構えってのも、特別困るようなお願いじゃないよって話」
「なにそれ。なんだそれ。そんなの聞いてないし、保護者も家族も卒業って言ったくせに」
「まぁそうは言ったけども、保護者や家族を卒業したって形をとったのはお前を抱くため、って意味合いが一番強いんだよ。三年以上同じ家に住んで面倒見てきた相手を、卒業って言葉とともに放り出す気なんてもともと無いし、俺が居なくなって寂しいって思って貰えるくらい、お前に慕われてた事を嬉しいとも思ってるよ」
 本気で嬉しげに笑われて、なのにこちらに湧くのは怒りと混乱だ。また泣いてしまいそうで、でも再度抱きしめられてあやされるのはもちろん嫌で、ギッと奥歯を噛みしめる。相手のことを睨みつける。
 相手は今度こそ、少しばかり困った顔を見せた。
「寂しいならいくらでも構ってやるよってのは、お前が期待するような返答とは違ったか?」
「わか、ない」
「わかんないってなんだよ」
「どう返されたら満足なのかなんて、考えたことないし」
 ふとした瞬間に、日々のあれこれを聞いて欲しいだとか、彼が一緒ならもっと楽しいだろうとか、そう考えて寂しくなることは多々あった。だから彼の返答はちゃんと的を得ていると言えるだろう。でも、寂しいならいくらでも構ってやると言われても、ちっとも嬉しくなかった。
 どう返されたかったんだろう。どう返されたら満足が行くんだろう。嬉しいと、思ったんだろう。
 けれどそれをじっくり考える時間はない。
「望むような反応が返らないから相談できない、って言ってただろ。てことは、俺に望む反応がはっきりあるって事じゃないのか?」
「それは……」
「そういや、困らせるような相談そのいち、とか言ってたか」
 相談そのには何だと問われたけれど、もちろん、もう一つ抱えている大きな問題を、このまま彼に相談するなんて真似は出来っこなかった。

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理解できない25

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「俺が相談したら、困らせたり、呆れられたり、その、きっと嫌な気持ちにさせる、から……」
 何が怖いのと促す声が穏やかで優しかったから、釣られるように躊躇う理由を話してしまえば、やっぱり優しい声に、構わないよと返された。
 困らせても、呆れさせても、嫌な気持ちにさせてもいい。だから聞かせてと促す声に、けれど首を横に振る。
「俺が、嫌なの」
「不快になっても絶対に怒ったりしない、って約束しても?」
「だって嫌なのは怒られることじゃないし……」
「つまり、俺を困らせたり、呆れさせたり、嫌な気持ちにさせることそのものが、怖くて嫌だって話?」
「話しても、俺が望むような反応、返ってこないのわかってるからヤダって話」
 なるほどと言って、相手は口を閉ざして何かを考えている。でも考えたからって、喜べないだろうことをむりやり喜んで欲しいってわけではないし、どうにもならないと思う。
「あのさ、俺絡みの悩みで、俺に相談したくないってとこから、今からでも一緒に住みたいとか、もう一度抱いて欲しいとか、そういうお願い混じりの相談なんだろうって想像はついてるから言うけど、お前の話次第でそれも検討はする。って言ったら?」
 やがて告げられた言葉に、こんどはこちらがなるほどと思う。さすがに口には出さなかったけれども。
 なるほど。家を出た彼について行きたいとか、もう一度抱いてくれとか、一度はっきり断られた事を諦められていない、と思われていたのか。
「残念だけど、それハズレ」
「ハズレ?」
「そんなとこまで到達してない。出ていかれて寂しい気持ちをどうしたらいいのか、とは思うけど、どうしたら一緒に住めるかを考えたりはしなかった。俺を抱くのは苦しいばっかりだって言われたのに、どうしたらもう一度抱いて貰えるかと考えたりもしてない」
 もう一緒に住めないことも、もう抱いて貰えないことも、納得は出来ている。新しい住所だって知っているけど、納得できているからこそ、一度も押しかけずに済んでいたのだと言えば、相手は眉を寄せて少し険しい顔になる。
「なら他に、お前が俺を困らせると思うような、何かってなんだ」
 それはこちらへの質問というよりは、自身へ問いかける呟きだった。険しい顔も、予想が外れて、他に思い当たる何かを必至で探しているせいらしい。
「ねぇ、出ていかれて寂しい気持ち、どうしたらいい?」
「えっ?」
「困らせるような相談そのいちだよ」
 さきほど既に口に出してしまったから、気づかないなら気づかせてやれと思った。
「そのうち慣れるかなって思ったけど、全然慣れないし、むしろどんどん寂しさが増してる気がするんだけど。俺は、どうしたらこの寂しさから開放されると思う?」
「それは、」
「ちなみに、打ち込める趣味を見つけるとか、寂しさを埋めてくれる誰かを見つけるとか、そういう助言は要らないから。てか既に試したから」
「試したのか!?」
「まぁ一般論として、そういう方法が有効らしいから。でもすぐ無理ってわかったし。というよりも、無理だってことを確かめるために試した感じだし」
 何をしたって、誰と過ごしたって、彼のことがついてまわる。楽しかったことがあれば彼に話して聞かせたいと思ってしまうし、彼と一緒ならもっと楽しめるだろうとも思ってしまう。それに彼が望む想いをどうにか育てよう、なんて思っている身で、寂しさを埋めてくれる他の誰かなんて求められるはずもない。求めたいとも思わない。
 この寂しさを埋められるのは彼しか居ない、と思い知るばかりで、それは寂しさが増していく結果ともなった。でも彼にこの寂しさを埋めてくれと頼む真似は出来ないし、どうすればいいのと相談したら困らせるのだってわかりきっていた。

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理解できない24

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 観念してそっと相手の背を抱き返せば、慰めたいのか宥めたいのか、優しく背を撫でられる。いまさら遅いと思うのは、気持ちが落ち着くどころかますます涙が溢れるせいだ。
 みっともない姿を晒している羞恥と、こんな目に合わせる相手への怒りと、そのくせ嬉しい気持ちがあることに、頭の中が混乱している。色んな気持ちがぐちゃぐちゃに混ざりあって持て余している。
「う゛ぅ……」
 止められない涙に、悔しさのあまり唸った。高校を卒業するまでの三年ちょっとの間にも色々あったけれど、ここまで派手に泣いたことなんてもちろんない。
 背を撫でていた手が首に触れて、頬へと移動しかけた所で、顔を相手の胸に押し付けた。
 泣き顔を覗き込まれるなんて冗談じゃない。今度はこちらからギュウと相手にしがみつけば、頬に触れかけた手がまた背に戻って、あやすみたいに背中をトントン叩かれる。
 そんな中、相手がふふっと笑う気配がして、またしてもぎくりと身を固めてしまう。
「ああ、ごめん。お前可愛すぎて、つい」
 そう謝る声も笑いを含んでいるし、気が済むまで泣いていいからと続く声もなんだかひどく甘ったるい。なんだこれ、と思うと同時に相手を突き放していた。
 背を抱く腕はあっさりと解かれて、ようやく体を離して見上げた相手の顔は、先程までと違って随分と穏やかだ。穏やかで、嬉しそうで、でも困った様子も混じっている。
「な゛にっ」
 なんでそんな顔なの、と思いながらもどうにか声を絞り出し睨みつけてやる。笑われた衝撃と、相手の表情の不可解さに唖然として、どうやら涙はひっこんだらしい。それだけはこの状況に感謝した。
「お前があんまり可愛いから、期待しそうだよ。ってだけ。お前泣いてるのに笑っちゃったのは、ほんと、悪かった」
 悪かったと言いながら、ベッドヘッドに置いてあるティッシュの箱を取りに行く。
 それを差し出してくれる顔は、やっぱりそこまで申し訳無さそうではなかった。だって仕方ないだろとでも思ってそうだ。そこにもきっと、お前が可愛いから、という理由が隠れていそうな所が気にかかる。
 なんだかなぁと思いながら受け取ったティッシュで、涙の跡を拭いて鼻をかんでから、一度大きく息を吸って吐いてみる。気持ちはだいぶ落ち着いていた。
「で、俺が可愛いと、何を期待、するの」
 聞きながらラグの上に腰を下ろせば、ほぼ正面に相手も腰を下ろす。二人の間に折りたたみの小さなテーブルはないけれど、でももうそんなのはどうでも良かった。というよりも、抱きしめられたり泣いたりしてたらどうでも良くなった。
「それより先にお前の今の悩みが聞きたい。職場で何かやっかいな問題でも起きてる?」
「仕事は、まぁまぁ順調、と思う」
「てことは、お前の不調とか悩みとかってのは俺絡みで、だから俺には相談したくなかったってことでいい?」
「そ、れは……」
 一瞬言葉が詰まってしまったけれど、すぐに、今更かなと思う。どうせ相手はもう既に、それを確信しているだろう。
「まぁ、そう」
「俺のことで何を悩んだのか、どうしたいと思ってるのか、自分の口で俺に相談する気はある?」
 言いたくないし、相談したくないし、放って置いて欲しい。そう即答できなかったのは、追い詰められて泣かされたのに、それでも抱きしめてくれる相手の腕が嬉しかったのを自覚しているせいだ。
 でも自分の口からあれこれ言えるのかといえば、それはそれで無理だとしか思えない。だって……
「相談するの、怖いよ」
 相手がどんな反応をするのか、何を思うのか。相手が喜んでくれないとわかっている事を、わかっていながらしているのだと、自ら告げるのはあまりに勇気がいる。

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理解できない23

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 彼の後ろについて入る自室は、まるで他人の部屋のようだ。身の置き所がないまま立ち尽くせば、座ってと促される。
「テーブルは?」
 いつもなら、彼がこの部屋に来たときには折りたたみ式の小さなテーブルを出して、それを挟んで向かい合って座る。お土産だの差し入れだの言いながら、食べ物を持ち込まれることが殆どだからだ。
「必要ないだろ」
 手ぶらであることを示すように相手が両手の平を見せてくるけれど、わざわざそんな真似をしなくたって、今日は何もないことなんてわかっている。目の前であんなに朝食を残してきたのだから、差し入れなんて貰っても困るだけなのに、それでも胸のどこかが小さく痛む。
 以前と同じように相談に乗ってくれるつもりで来たと言うなら、なるべく以前と同じように振る舞うべきだろと思いながら、少しでも以前と同じ状況を作ろうとした。つまりは、テーブルを出したいのだと訴えた。
「でもテーブル無いと、変な感じがする」
 もちろん、このまま間に何も挟まず向かい合って座るのが嫌だ、という気持ちは強い。小さなテーブルでも、何もないよりは数倍マシだろう。
 そうやって少しでも相手と距離を取りたがる自分に、相手は困ったように苦笑する。
「じゃあ出していいよ、って言ってやりたいとこだけど、正直に言えば、今日はテーブルを出されるのは嫌だな」
 だってバリケード代わりだろうと、こちらの思惑なんてお見通しだと言わんばかりに指摘された。わかってるなら譲歩して欲しいし、以前ならこんな指摘をすることもなく、あっさり譲ってくれたんじゃないかとも思う。
「本気で前みたいに相談に乗ってくれる気があるなら、ちょっとは前と同じようにしてよ」
「テーブル出したくらいで、俺に相談する気になんの?」
「ならないけど、テーブル無しで向かい合うほうがもっと無理」
「テーブルがあろうとなかろうと相談する気にならないなら、俺にとってはどっちも一緒で、だったらそんな障害物は無いほうがいい」
 間に何もなければ、手を伸ばせばすぐに捕まえられる。なんてことを言いながら、伸ばされた手に腕を掴まれて引っ張られた。
「ちょっ、なに」
 慌てて身を引こうとするが、あっさり相手の腕の中に収まってしまう。体を動かすのは苦じゃないタイプの、自分より身長も体重も余裕で勝る男相手に力で勝てるわけがない。
 わかっているのに、ぎくりとして動けなかったのは多分ほんの数秒くらいで、状況を飲み込むとともに必至でその腕から逃れようと身を捩った。
「や、やだっ。放して。放してよっ」
 もがけばもがくほど抱える腕の力は強まって、開放してくれる気は欠片もないのだと思い知る。まるで、彼が家を出たことで開いてしまった自分たちの距離を、強引に埋めようとでもするみたいだった。
 なんて身勝手なんだろうと怒りが湧くし、ちっとも敵わない力が悔しい。
 彼にあれこれ問い詰められる覚悟はある程度した上で席を立ったけれど、こんな追い詰められ方をするとは思っていなかった。こんなの、気持ちが持たない。
 悔しくてたまらないし、あまりに酷いと罵ってもやりたいのに、久々に感じる相手の体温を嬉しいと思う気持ちも間違いなくあった。ハグと呼ぶには強すぎる抱擁と乱雑さなのに、その背を抱き返したいと思ってしまう。
 そんな気持ちが自分の中に、無視できないほどに湧いているという事実が、どうしようもなく苦しくて辛い。
 堪えきれなくなった涙がボロボロと溢れ出して、それに気づいた相手がとうとう腕の力を緩めてくれたけれど、その時にはもう、相手を突き飛ばして逃げ出す気力なんて残ってなかった。

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理解できない22

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 何も知られず、正直な気持ちを隠し通す気ならば、このまま強気で平気なふりを貫くしか無いだろう。そうして平然を装いながら、とにかく彼との会話をなるべく早く終わらせることを考える。
「なら用事はもう終わったよね。気が済んだならさっさと帰ったら?」
 これから久々に四人揃っての朝食という場面ではあるし、さすがにこれで席を立つとも思わないが、さっさと帰れと言わずにいられなかった。彼をはっきりと避けた結果がこれだとしても、やはり早く居なくなって欲しい意思表示くらいはしておきたい。
「終わってないしまだ帰れない」
「俺の顔、見たじゃん」
「そんな顔見せられて、帰れるわけないだろって言ってんの」
「そんな顔って……」
 どんな顔と聞く勇気は出なかった。睨んでばかりという自覚はあるが、もしもそれを泣きそうな顔と指摘されでもしたら、これ以上涙を堪えられる自信がない。そんな危険に自ら踏み込む真似はしない方がいい。
「朝メシ食ったらお前の部屋でゆっくり話、するから」
 覚悟しとけとは続かなかったけれど、そんな幻聴を聞いた気がした。怒っているらしいのはわかっているが、この調子で何かを問われるのだとしたら憂鬱で仕方がない。自室で二人きりだなんて、ますます逃げ場がない。
 逃げ出す真似はしたくはないが、逃げ場がない場所でこれ以上追い詰められるのだって、出来れば避けたいと思う。けれどこの様子だと、自室で話し合うのを避けられそうにない。
 幻聴通りに、覚悟を決める必要がありそうだった。
「全く。そんな怖い顔して。これ以上追い詰めるようなこと、しないでよ?」
 相手を咎める柔らかな声は、テーブルの上に朝食を並べていたおばさんのものだ。怖い顔と指摘された相手は、ハッとした様子で少し表情を緩めた後、気まずそうにわかってるよと返している。
「そうだぞ。自分の意思で家を出たんだから、その結果がこの態度だってなら、それはちゃんと受け入れてやれ。八つ当たりはみっともないぞ」
 彼の隣の席に座ってテレビを見ていたはずのおじさんも、会話に参加してくる。どうやら二人とも、こちらの会話が一区切り着くのを待っていてくれたらいい。
「それもわかってるって。あー……その、悪かった。困ってることあるなら、前みたいに相談に乗りたいってだけだから、そんな身構えないでくれよ」
 謝罪から先はこちらへ向けての言葉だ。うん、と短く頷くことはしたけれど、前みたいに心強いと安堵することは出来そうにない。だって今抱えている悩みの殆どは彼に関することで、それを彼本人に相談なんて出来ないと思ったからこそ、今がある。出来る相談なら、とっくにしてた。
「はい、じゃあいただきましょう」
 その言葉にいただきますと返して箸を手にしたものの、気分は既に朝食どころじゃない。もともとない食欲がますます減って、口に入れたものを飲み込むのが難しい。けれど食べ終えたら部屋に戻って彼と話をしなければならないのがわかっていたから、ごちそうさまとも言えずに、ちまちまと口に運び続ける。ただそれも、いい加減限界だった。
「終わりでいい?」
 完全に手を止めてしまえば、少ししてそう声を掛けられた。黙って頷けば、じゃあ行こうかと相手が立ち上がる。相手はもちろん、とっくに全て食べ終えている。
 いつも以上に残してしまったことをおばさんに詫びてから、こちらも覚悟を決めて席を立った。

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