人当たりがよくて親切で、オールマイティに何でもこなす友人を、親友だなんだと言ってつるみつつも、内心嫌いで嫌いで仕方がなかった。だってなんだか色々と胡散臭い。
気になる女子はだいたいこいつに惚れていたのもひたすら不快だったし、そのくせどんなに勧めても今はそんな気にならないだとか、男友達と遊んでる方が絶対楽しいだとか言って恋人を作ろうとしないのも不満だった。そのせいで男友達からの妙な信頼を得ていたのもイライラしたし、特定の恋人を作ってくれれば諦めて他の男に目が行く女子だっていたかも知れないのにって気持ちだってあった。
こっちが必死で挑もうとギリギリのところでどうしても敵わないテストの順位だとか、そのくせ一切驕ることなく飄々としているところとか、学校のテストの点だとか成績なんてどうでも良さそうな態度とか、学生時代は本当に腹立たしいことが多かった。
つまりは劣等感が刺激されるとか、嫉妬とか、そういう感情で嫌っていた部分があることも認める。でもそれだけじゃなくて。胡散臭いとしか言いようがない、妙な感覚を相手から感じていたのも嘘じゃない。
そんな聖人君子居るわけ無いだろって疑う気持ちをずっと持っているし、ぜったいどっかで無理をしてるんだと思っているし、いつかその化けの皮が剥がれる日が来ればいいと思っていた。
さすがに就職先は別になってストレス源から開放された日々を満喫しているのに、それでも未だに親友なんてのを続けて、たまに近況報告やらで会っているのだって、その化けの皮が剥がれる瞬間に立ち会いたいから、というのが一番大きい。
二日酔いに似た酩酊感と軽い吐き気で意識が浮上する。相手の前で醜態をさらす真似なんか絶対したくないから、一緒に飲むときの酒量にはかなり気をつけていたはずなのに。どうやら昨夜は酔い潰れたらしい。
「うぅ……っ……」
「あっ、やっと起きた?」
小さく呻けば、すぐ近くからよく知った声が聞こえてくる。随分と機嫌が良さそうだ。
「あ゛ー……悪い、迷惑かけた」
多分間違いなく酔いつぶれたのだろうし、横になって寝ていた状況を考えたら何かしら迷惑をかけたのは明白で、とりあえずで謝っておく。
飲み過ぎたからか、声は少し枯れている。
「全然。てか迷惑かけたのも、これから更に掛けるのも、俺の方なんだよね。まぁ迷惑とはちょっと違うかもだけど」
「は?」
「酔い潰した、っていうかお前に眠剤盛ったの、俺」
「な、んで……」
眠剤、なんていう不穏な単語が聞こえてきて混乱する。発した声は少し震えて、喉に詰まった。
「んー……そろそろいいかな、って思って」
「なに、が?」
「親友ごっこ、いい加減やめてもいいかな、って」
「……は?」
「お前だって、俺のこと親友なんて思ってなかっただろ。というか俺のこと、実は嫌いだよね?」
しかもちょっとじゃなくて相当、なんて言われてしまう。
事実だけれど、さすがに肯定はしなかった。けれど相手はこちらの返答なんか必要としていないようで、ヒョイッとこちらの顔を覗き込んできた相手の表情は、声からもわかっていた通りににこやかだ。
胡散臭さを通り越して気味が悪すぎる。というのが正直な感想だった。
相手はにこやかに笑っているのに、背筋にゾッとするような怖気が走る。
「これなーんだ」
そう言ってこちらの目線の先に掲げられたのはスマホの画面で、何やら動画が再生中だった。
最初は何が移されているのかさっぱりわからず、けれどそこに映ったものが何かを理解すると同時に、血の気が失せていく。
そこに映っていたのは自分だった。昨夜、眠剤とやらを盛られたあと、ここで何が起きたか。というよりは相手に何をされたのかを、如実に映している。
「大っ嫌いな俺に、アンアン言わされた気分はどう?」
「最っっ悪」
「だよね」
嬉しそうに跳ねた声が憎らしい。
「嫌がらせか」
「お前にとってはそうかもね。でも俺にとってはそうじゃないんだな、これが」
まぎれもない愛情表現だよと笑われて、もちろん、意味がわからない。
「意味がわからない」
「だよね」
わかるよと頷かれても困るというか、こちらは一向に理解が進まないし、不気味さだけが増していく。
「俺はね、俺のことが大っ嫌いなのに、俺のことが気になって仕方なくて、俺のことが切れなくて、未だに俺と親友続けてるお前のこと、多分、好きなんだよね」
どんな美女やイケメンに誘われるより、お前が無理やり笑いながら適当に相槌打って、つまんなそうに俺と飲んでる時が一番興奮したよ。なんて、意味がわからないと言うよりは頭がオカシイ。
「イカレテル」
「いいね。そういうの、もっと言ってよ」
「お前とはこれっきりだ。二度と誘わないし誘いに乗らない」
「それは困るな。というかそんなの無理でしょ」
これの存在忘れてる? と言いながらスマホを振られて、どうやら脅迫されているらしい。
「俺を、どうしたいんだ」
「え、この流れなら恋人になる以外なくない?」
「なんでそうなる!?」
「好きって言ったじゃん。多分、ってつけちゃったけど、あれ、ちゃんと本心だからね?」
「俺はお前が嫌いなのに?」
「それがいい、って言ってんだからそこ関係ないよね。でもってお前は俺に逆らえないんだから、今この瞬間から、お前は俺の恋人だよ」
良かったねと笑われて、即答でどこがだとキツく返した。
「だってお前、俺の化けの皮剥がれるとこ、見たかったんだろ? これがお前の見たがってた、俺の素の姿ってやつだよ」
「なんで……」
本人に言ったことがないのはもちろん、共通の友人相手にだって、そんな話はしたことがないはずだ。
「世間は狭いよねぇ。というか長いこと俺の親友やってんだから、自分に近づいてくるやつにもうちょっと警戒したほうがいいんじゃない?」
就職先別れたから油断したんでしょと言われて、そういや、仕事関係で新たに出会った人達相手には、胡散臭い友人の化けの皮がいつか剥がれるのを待ってるって話をしたことがあったなと思い出す。というか結構な頻度でその胡散臭い友人の話をしていた気がする。
「じゃあまぁ自業自得と納得がいったところで、とりあえずもっかいセックスしとく?」
「嫌だ!」
「だから拒否権とかないんだって」
記憶にないだろうけど動画でわかる通り、ちゃんと気持ちよくしてあげるから大丈夫。だなんて、全然大丈夫じゃないことを言いながら、楽しげな顔が近づいてくる。
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