多分、両想いな二人の大晦日

多分、両想いな二人のクリスマス後 の続きですが再度視点が変わってます。

 冬至にもクリスマスにも押しかけてきたのだから、当然、大晦日だって押しかけてくるんだろうと思っていた。もっと言うなら、こちらが正月休みに入ったら連日押しかけてくる可能性だって考えていた。
 人間不信を極めているが、寂しがり屋のお調子者という性質が、そうそう変わるわけでもないんだろう。色々あったあの土地から離れてからは、自宅に籠りっぱなしではなくなったし、バイトまでするようになった。
 いい傾向だと思うし、あの土地から離したのは正解だと思うし、彼の力になれたことを嬉しく思う気持ちもある。
 もっと力になりたいし、もっと頼ってほしいし、もっとこちらに依存してしまえばいい。
 そんな気持ちが湧きそうになるのを極力抑え込んで、友人としての距離をどうにか保っている。多分、保てている。はず。
 だって、いずれはまたたくさんの友人を作って、可愛い彼女を作って、今度こそ幸せな家庭を築くだろう。今はまだ傷が癒えていないから、友人として彼の隣に立てるのが自分しかいない、というだけだ。
 そもそも、同じ中学出身で部活が一緒だった、というだけの縁で細々と繋がっていた友人なのだから、今の自分たちの距離こそが異常と言っていい。
 元から気が合って一緒にいた親友などでは決してなく、どちらかというと彼は憧れの存在だった。自身の性的指向に気づいてからは、まぁ、そういう対象としてオカズしたこともなくはないが、そこまでだ。相手が自分を選ばないことは確定だったし、それ以上を望んだことなんて、少なくともここに越してくるまではなかった。
 今だって、極力そんな願望からは目を背けているし、気をつけてもいるけれど。相手が自分を選ばないのは、今だって同じと信じているのだけれど。
 彼との近しい友人関係を経験してこなかったせいで、今の彼が向けてくる態度やら発言やらが、友人として普通なのかどうかがイマイチ判断つかなかった。いやまぁ、経験してても判別が付いたかは怪しいけれど。
 時々、誤解しそうになる瞬間が、ある。相手の信頼やら好意やらに、恋愛的な意味合いが含まれているのではと、感じてしまう瞬間が。
 でもまぁきっと、気のせいなんだろう。もしくは自身の願望がそう錯覚させているだけだ。
 今までは大勢の友人やら恋人やらが担っていた彼との関わりが、ただ一人残った友人に集中しているのだから、きっと仕方がない。彼の傷が癒えてまた恋人ができたら、誤解しそうになる瞬間やら、恋愛的に好かれているなんて錯覚は、きっと無くなる。
 そう考えたら、大晦日になんの連絡もなく、突然押しかけてくるわけでもない現状は、好転の兆しという可能性もあるだろうか。新しい友人でも出来て、大晦日はそちらと過ごすのかも知れない。
 なんていうのが、現実逃避だってことはわかっていた。
 元々の関係なら、大晦日に誰と過ごそうがお互い知ることなんてなかったけれど、今の関係なら、別の誰かと過ごす場合は何かしら連絡がくるだろう。今現在、彼に一番近しい友人である自覚はあるし、そんな存在を無碍にしない性格なのもわかっている。
 確認した時刻は既に夕方の5時を過ぎていて、外は遠くがうっすら赤みを残しているだけで、随分と暗くなっていた。
”今日は来ないのか?”
 そんな短なメッセージを送れば、返信はすぐに来た。
”行きたいとは思ってんだけど”
”風邪でも引いたか?”
”いや、元気元気”
 体調でも崩したのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
”じゃあ今から行くわ”
「は?」
 こちらが返信する前に追加でそう送られてきて、思わず声が漏れた。
”は?”
 取り敢えず素直な気持ちとして、漏れた声そのままを送ったものの、それに対する返信はない。
 まさかこちらが誘うのを待っていた?
 いやでも来ないのかと聞いただけで、誘ったと言える内容ではないか。だとしたら、もっと遅くに押しかけるつもりが、こちらから連絡したせいで来訪が早くなっただけか。
 その可能性が高そうかな、と思う。一緒に年を越そうとか言って日付が変わる少し前に押しかけてきて、またそのまま泊まっていく気だったのかも知れない。
 そう思ってから、最初から、一緒に年を越すつもりだろうと考えていたことを自覚した。相手がまた泊まっていく想定だった。
 だってそれは、友人としてそうオカシクはない大晦日の過ごし方だろう?
 あまり自信はないけれど。彼以外の誰かと、そんな年越しをした経験もないけれど。
 
 しばらくしてチャイムが鳴った。迎えに出れば、そこには明らかに中身は酒瓶とわかる縦長の袋を持った相手が立っている。
「はいこれ。てか酒は持ってきたけどツマミとかってどうなってる? 夕飯とかどうすんの?」
「お前こそどうしたいんだ。ちなみに買い出しとか行ってないから大したもんはないぞ」
「そうなの? 今日とか何してたわけ?」
「ここ数日は大掃除と仕事」
「仕事!?」
「終わらねぇんだよ」
「なんていうか、家でも作業できる系の仕事、大変だな。呼んでくれれば掃除なり買い出しなり手伝ったのに」
「勝手に来たらこき使ってやろうとは思ってた」
「そりゃ残念」
「どっちの意味で?」
「えっ?」
 こき使えなくて残念だったなというよりは、来ればよかったと言っているように聞こえてしまったから、ついそんなことを口走ってしまったけれど。驚かれて、余計なことを言ってしまったと反省する。
「いや、なんでもない」
「やっぱ年越しそばは食べたいし、今から一緒に買い出し行く?」
「そうだな」
 じゃあここで待ってると言われて、急いで上着やら財布やらを取りに部屋へと戻った。

続きました→

今年も一年間お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
来年も変わらず書き続けそうなので、お付き合いよろしくお願いいたします。

 
 
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多分、両想いな二人のクリスマス後

多分、両想いな二人のクリスマスイブ の続きですが視点が変わっています。

 ベッドの上にごろりと寝転がり、ゆっくりと握った手を開けば、そこには鈍く光る銀色の鍵が1本。しばらく眺めて、再度それを握りしめて、またベッドの上を右に左に何度か転がった。
 頬が緩んでいる自覚はあるし、時折、緩んだ口元からは「うへへ」だとか「ふはは」だとか、客観視したらドン引きしそうな変な笑いが溢れてもいる。
 平日のクリスマスなんてしないと言われていたのに、大量の食べ物持参で押しかけてクリスマスパーティーを強行した結果、とうとう、あいつの家の合鍵を手に入れてしまった。
 前夜雑に片付けただけの惨状にプラスして、寝坊という慌ただしい朝に、ちゃんと片付けしてから帰れよと言い捨てて出社してったってだけだけど。合鍵を貰ったってよりは、預かったってだけにすぎないんだけど。
 それがこんなに嬉しいのはちょっとどうなんだろう。そう冷静に判断する思考もほんの僅かには残っているが、いやもう好きってことでいいんじゃないのと、半ば投げやりな気持ちが大半って気もする。
 男同士ってのも、最近はそこまでタブーってこともないらしいし。全く脈がないってこともないような気がしないこともない。……ような気がするし。
 いやでも憐れみとか同情とかで、付き合い続けてくれてるだけって気もする。なんせ、友人と呼べるような相手は、もう彼しか残っていないので。それを相手も知っているので。
 中学からの友人である彼とは、もう結構長い付き合いになる。
 降って湧いた遺産相続で手にしたそこそこの資産によって、金に困らない幸せな生活を手に入れたはずだった。なのに気づけば友人も恋人も仕事も無くしてしまった。
 人間不信とあれこれのトラウマでまともに働けてないけど、リハビリ兼ねたバイトはなんとか続いているし、手放さずに済んだ資産による不労所得で一応生活は出来ている。
 あいつは、遺産が入る前も、潤沢に金があったときも、それを無くしたあとも、変わらずに接してくれた唯一の人間と言ってもいい。利用したりたかったりすることもなく、見捨てることもなかった。
 そんな彼は、自分にとっては間違いなく特別な唯一人の友人だけど、相手にとって自分がどんな存在でどんな位置づけなのかは知らない。
 寂しいとかしんどいとかで押しかけても、めちゃくちゃ親身になってくれるわけでもない、けど冷たく突き放すでもない態度で受け入れてくれるから、つい甘えて頼ってしまうのだけど。どん底だった時に、呆れたような溜息と一緒に、力になれることがあれば協力は惜しまないと言ってくれたその言葉に、ずっと縋っているんだけど。
 あの土地から少し離れたらと提案してくれたのもあいつで、ご近所ってほど近くはないけど歩いて行き来できなくはない微妙な距離に同時期に越してくれたのもあいつで、つまりは頼り切るのはダメだけどいざって時には頼っていいって、これはそういう距離なんだろうと、勝手に思っているんだけど。
 実のところ、協力は惜しまないと言った自身の言葉に縛られて、相手をしてくれているだけって可能性さえある。だって責任感強めな男だってことも知ってる。
 多分、間違いなく、好きなんだと思う。でも恋愛感情なのかはわからないというか、そもそも男で友人で、本来なら恋愛対象になんかなるはずもない相手だ。
 それでも、もっと一緒にいたいし、なんなら引っ付いてみたいし、抱きしめたり抱きしめられたりしてみたいと思う。今のところ、キスだのセックスだのまでしたいわけじゃないけど、でも抵抗はないというか、絶対無理とかキモいとかって感情は湧きそうにない。
「うーん……」
 妙なことで考え込んでしまって、思わず唸り声が漏れた。
 だって好きを自覚したって、今あるこの関係を変えたいわけじゃない。変わってしまうのは困る。というか怖い。
 唯一の友人を、この感情のせいで失くすのはゴメンだ。絶対に嫌だ。
 再度手を開いて、鍵を見つめる。やっぱりじわじわと嬉しくて、頬が緩んで、ふへへと変な笑いが溢れる。
 ああ、好きだなぁ、と思う。思うと同時に、これは絶対秘密にしなきゃ、と思った。

続きました→

 
 
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多分、両想いな二人のクリスマスイブ

 先日、冬至だと言って南瓜と柚子を抱えて来た友人には、クリスマスは平日だし特に何かをやる気はないと明言していた。つまりは来るなと言ってあった。
 正月休みに入る前に終えなければならない仕事が山積みで、その冬至の日だってろくに相手をせずに自宅でも仕事をしていたのに。そんな状況で定時で帰れるはずがないことなんか、わかりきっていると思っていたのに。
「なんでいるんだ」
 帰宅した自宅ドア前、身を縮めて丸く座り込んでいる男を前に、驚くよりも呆れて溜息がこぼれ落ちる。ただ、呆れてはいるが、想定通りでもあった。
「寒い」
「当たり前だ。というか遅くなるから帰れって送ったろ」
 まだ帰ってこれないの? というメッセージを受け取ったのは1時間ほど前だ。どれくらい待ったあとでそのメッセージを送ってきたのかはわからないが、既に相当待った後だろうことは想像がつく。
 相手が自宅に押しかけていることを知って、もちろん即座に帰れと返信していた。返したが、素直に帰らない可能性が高いともわかっていたから、これでも相当急いで帰宅している。
「だってクリスマスイブだし」
「だってじゃない」
「つかマジ寒いから。早く」
 家に入れろと急かされて、再度、盛大に溜息を吐いてから家の鍵を開けてやれば、勝手知ったるとばかりに家主である自分よりも先にさっさと中へ入っていく。だけでなく、暖房のスイッチを入れ、抱えていた荷物をキッチンに持ち込み、慌ただしくゴソゴソと動き回っている。
 またしても軽い溜息がこぼれ落ちたが好きにしろと諦めて、こちらも普段通り過ごす事にした。普段通りというか、スーツを脱いで風呂場へ向かった。

 シャワーを浴びてリビングへと戻れば、テーブルの上にはフライドチキンやらローストビーフやらピザやら、大変クリスマスらしいメニューが山盛り並んでいて、小ぶりながらも丸いケーキまである。
 彼が持ち込んだ大荷物は見えていたから、ある意味これも予想通りではあるのだけれど。
「重っ」
「え、なに?」
「いやお前、この時間からこれ食うとかマジか」
「この時間になったのはお前が帰ってこなかったからじゃん」
「だから元々、平日ど真ん中のクリスマスなんてやらないって言ってたっつーの」
「あーもー、別に半分くえとか言わねぇし。食える分だけ食ってくれればいいから。とにかく俺に付き合って。クリスマス一人とか寂しいから一緒にメシ食ってお祝いしてってだけだから!」
 口を尖らせて不満を示すものの、すぐに満面の笑みを作って開き直られてしまった。
 まぁ付き合う気がなければ、頑張って帰宅なんてしないし家にも入れないのだけど。でも文句も言わずに甘い顔をして受け入れていたら、どこまでも付け上がっていくんだろうから、取り合えず釘は刺しておこうというだけで。
 はい座って座ってと促されて席につき、平日には極力酒は飲まない主義なのに、注がれるままワインで乾杯して、用意されたご馳走に手を伸ばす。
 まぁ、睡眠時間やら明日の仕事やらを考えなければ、悪くない時間だった。ボリューム満載のご馳走も、結局、雰囲気と酒の力とで思ったより食べれてしまって胃が苦しい。
「んーさすがにこれ以上無理〜」
 カットせずに直接フォークを突き刺して食べていたケーキはまだ半分ほど残っているが、どうやら相手もここでギブアップらしい。
「無理して食うなよ」
「だって持って帰るの面倒だし、置いて帰ったらお前絶対また文句言うし」
「そりゃ言うだろ。っていうか」
 言いながら確認した時計は23時を超えている。帰宅が遅かった上に、大量の料理を前にダラダラと飲み食いしていたせいだ。
 言葉を止めて溜息を吐けば、相手が気まずそうな顔になって、そそくさとテーブルの上を片付け始める。ただその手つきはなんとも怪しい。手つきどころか足元もなんだかふわふわとおぼつかない。
「飲み過ぎだ、バカ」
「んーゴメン」
 素直に謝るくらいには自覚があるらしい。
「ああ、もう、片付けは俺がやるから、お前ちょっとシャワー浴びてこい」
「え? なんで?」
「泊まっていい。が、さすがにそのまま布団を使われるのは抵抗がある。部屋着は貸す」
「え、マジ? いいの?」
「寒い中何時間も外で待たせた上にこんな時間に追い出して、風邪でも引かれたら寝覚めが悪い」
「やった! じゃ行ってくる!」
 こちらの気が変わらないうちにとでも思ったのか、さっきのおぼつかない足取りはなんだったんだと言いたくなるくらい、しっかりとした早足でささっと風呂場へ行ってしまった。
 もしや、相手の酔っ払って帰れないという演技に、まんまと引っかかったんだろうか?
 そんな思考がチラリと掠めたものの、どちらにしろ後の祭りだった。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん5

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 土曜の夕方、バイト上がりに待ち合わせたお隣さんに連れて行かれたのは、駅前の小さな洋菓子店だった。暑いしゼリーとか良いよね、というお隣さんの助言により千円ちょっとの小さな詰め合わせを買って、それを手に次に向かうのは大家さんのお宅だ。
 エアコンが新しくなっただけでなく、免責がどうとかで今月の家賃が5千円も安くなるそうで、大家さんに一言お礼しに行ったほうがいいよと言い出したのも、もちろんこのお隣さんだった。
 言われた最初は当然、なんでわざわざそんなことを、と思った。だってそれが仕事なんじゃないの、みたいな気持ちがあった。
 けれど、近いんだから顔ぐらい知っておいたほうがいいよ、だとか。これからもきっとお世話になるよ、だとか。急いで工事すれば家賃を値引く必要はなかったはずだよ、だとか。
 この5千円は大家さんの厚意から出てるお小遣いみたいなもんだから、まるまる自分のものにするより、少しでいいからお礼の気持ちを形に変えて、感謝を示しておくのが良い。らしい。
 どう考えても大家さんよりこのお隣さんの方にお世話になりまくってるんだけど。もしお礼として何か買って渡さなきゃならないなら、お隣さんが先ではみたいな気持ちが強いんだけど。
 でも、絶対行ったほうがいいと真剣に勧められて断りきれなかった。面倒がって、お礼の気持ちなんて何買えばいいかわからない、とか、大家さんちの場所知らない、とか言って渋ったせいで、一緒に選んで大家さんの家まで付きそうから、とまで言わせてしまったのもある。
 あと、行くって言うまで粘られそうな予感がしたと言うか、うんって言うまで引かないなと察してしまった。
「ここが大家さんのお宅」
 ごくごく普通の一軒家の前で、お隣さんが立ち止まる。
「ね、近いでしょ」
「そっすね」
 確かにアパートからかなり近い。というかアパートが向こうに見えているような距離だ。
「じゃ行っておいで」
「え?」
「ん?」
「一緒に行くんじゃ?」
「場所知らないって言うから連れてきただけだよ。エアコン直って快適です、ありがとうございました。って言うだけでいいんだから一人で行っておいで。別に怖いことないから大丈夫」
 そう背中を押されてしまって、あれ? と思う。
 道中なんだかいつも以上に機嫌がいいと言うか、浮かれたような気配がしてたから、てっきりこの人が大家さんに会いたいのかと思っていたのに。もしかして大家さんに会いに行くダシに使われた可能性、なんてものまでほんのりと考えていたんだけど。
 仕方なく、ここで待ってる、というお隣さんを門前に待たせて玄関扉の前に立った。
 ドアチャイムを押せばすぐに応答があって、名前とアパートの住人であることを伝えれば、しばらくしてドアが開き、暑いから中に入るようにと促される。
 大家さんと思しきその人は、老人と言うにはまだまだ若いけれどそこそこ年齢が行ってそうな、ちょっと恰幅の良い男性だった。というか全く初めて会う人ではなかった。
 そういやお隣さんも、たまにアパートの様子を見に来てるとか言ってたような……
「エアコン工事したとこの、だよね。新しくなって問題はない?」
「あ、はい。でこれ、お礼、です」
 ありがとうございました、と言いながら、手にした袋を差し出せば、うんうんと嬉しそうに頷いて、わざわざありがとうと言いながら受け取ってくれる。
「ところでさ」
 お隣さんの名前を出して、持っていけって言われたの? と聞かれたので、素直にそうですと返せば、やっぱりうんうんと嬉しそうに頷いたあと。
「エアコン直るまで泊めるって聞いてさすがにびっくりしたけど、どう? あの子と上手くやれてるか?」
「まぁ、多分。俺のこと、小学生のくらいの子どもと思ってそうですけど」
 今も外で待ってますしと言えば、過保護だなと大笑いされてしまった。確かにそうかも。
 面倒がって渋ったとは言え、随分あっさり付き添いを申し出てくると思っていたが、大家さんに会いたかったってわけじゃないなら、過保護だからという理由はなかなかしっくり来る。
 やっぱ小学生扱いだよな、という気持ちもますます強くなってしまったけれど。
「今は小学生の子供は居ないからなぁ、あのアパート。まぁ泊めてもらって助かったと思うなら、あの子が今してるように、いつか余裕が出来たときにでも困ってる子供を助けてあげたらいい」
「やっぱアンタか」
「なんだって?」
「あー……大家さんがあの人に、恩返しなら困ってる子助けてあげろって言ってくれたおかげで、今回俺が助かったんだな、と思っただけ、す」
 もう一度ありがとうございましたと頭を下げてから、満足気に笑う大家さんに見送られて玄関を出れば、お隣さんがにこにこ顔で迎えてくれる。その顔にホッとしてしまうのは、褒めてくれているとわかるからだ。多分、一人で大家さんにお礼が出来て偉いぞ、って思ってる。
 この安堵はどれくらい相手に伝わっているんだろう?
 子供扱いだなぁと思う気持ちの中に、この人にそうさせてるのは自分の方かも知れない、と思ってしまう気持ちがある。だって子供の頃に、親に見守られながら何かをこなしたなんて記憶がない。それどころか、誰かのお世話になったあと、お礼を言いに行きましょうと促されたこともない。
 大家さんにお礼を持っていく、なんて発想がそもそもなかったのは、そういう子供時代を過ごしてきたから、というのもかなり大きい気がする。
「お疲れ様。どうだった? 大家さん、怖い人じゃなかったでしょ?」
「そっすね。アンタと上手くやれてるかって聞かれました」
「え、それ、なんて答えたの? 上手くやれてるよね?」
「多分、って答えときました。俺のこと小学生くらいに思ってそうって言ったら笑ってましたけど。あと、今回泊めてもらって助かったと思うなら、いつか余裕が出来たときに困ってる子供を助けてあげたらいいって」
 らしいなぁと相槌を打つお隣さんも、大家さんと同じくらい、満足気に優しい笑顔を湛えている。
「でも俺は、困ってる子供じゃなくて、直接アンタに恩返ししたいって思ってますけど」
 いつかそう出来る日が来るといいなとは思うけど、この人が困る時なんてあるのかな、とも思う。
「それ、わからなくはないなぁ。おれも、恩返ししたいなら困ってる子供に同じようにしてやれって言われた最初はそう思ってた。俺の助けが必要なことなんて、あの人にはないから仕方ないんだけど」
 でも今は言われたとおりにして良かったって思ってるよと続けたあと。
「それにさ、昔のおれと違って、君はもう恩返ししてくれてるんだよね」
 そんなことを言われても、全く思い当たることがなくてビックリしてしまった。
「え、何を?」
「何ってご飯作ってくれてるでしょ」
「それ言ったらこっちは飯代出してもらってんすけど」
「君の分含めてでも、外食するよりは安く済んでるし」
 充分恩返しになってるよと言い切られてしまって、納得はできないのに、嬉しいって気持ちだけは溢れてくる。
 今日は何を作ってくれるのかなと言われて、予定していたメニューを告げれば、楽しみだと笑ってくれるから。やっぱり嬉しくて、本人がそう言ってくれるなら、もうそれで良いのかなって思う事にした。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん4

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 夕飯の後、レシートと残りのお金をまとめて差し出したら、相手は呆気にとられた顔をしたあと、なにこれ? と聞いた。
「何、って預かってた食費の残りとレシートですけど」
 明日の朝の分の食材はもう買ってあるから、これ以上預かったお金が減ることはない。という説明をしたら、相手はなるほどと納得してくれたけど、でも随分と浮かない顔をしている。
「それは、もう作るの嫌になったってこと?」
「は?」
「あ、明日が工事だから? もしかしてここにいる間は作ってあげるよって意味だった?」
「ここにいる間は作ってってことかと……え、違うんすか?」
 お互いに顔を見合わせてしまう。どうやら期間に対して誤解があったらしい。
「あー……これからも作ってくれるなら嬉しいなとは思うけど。でもお世話になってるお礼で頑張ってくれてただけで、負担になってるって言うなら諦めるよ」
 毎日、今日の夕飯はなにかなって楽しみに帰ってきてたから残念、と言った顔が言葉通りにしょんぼりしてて思わず小さく吹き出してしまう。
「いや負担なんか全然」
 だって自分一人だって自炊はする。むしろ食費は掛からないし、預かった金額の多さから普段の自炊より断然良いものを食べていたしで、自分にとってはメリットだらけだった。
「じゃあこれからも作ってくれる?」
 パッと表情が明るくなって、ホント、素直な人だなと思う。小さな頃からこの調子だったなら、周りの大人達が手助けしたくなるのも納得だった。
「作るのはいいですけど。でもホントにいいんすか?」
 だって、こちらの経済事情を察して、助けてくれているだけなんだろうと思ってた。いやまぁ、継続した援助を申し出てくれている、とも考えられなくはないけど。
 でもコロコロと変わる表情が、相手にとってもちゃんとメリットがある申し出なんだと思わせてくれるから、やっぱり胸の中が少し暖かくなって、嬉しい。
「頼んでるのこっちなんだけど」
 一緒に食べてくれる人が居るほうが食事は絶対美味しいし、2人分なのに外食するより全然安そう。と言いながら、相手は机の上に残金を広げている。
「てかお金、あんまり減ってなくない? 一万円、まるまる残ってる」
「あー……一度ももっといい食材使ってとか言われなかったから。米とか調味料はさすがに自宅の使ってたし、あと、工事も早かったんで」
 本当は最初の段階で、2万返却するか迷ったのだ。ただあの時はまだエアコンの工事日が決まってなかったし、相手がどんな食事を希望するのかもわかってなかった。
 でも肉以外の食材に関しても特に拘りはなかったようで、使った食材の産地を確認されることなど一度もなく、ただただ美味しいと言って食べてくれていた。
「なんか凄いね」
 今度はレシートを眺めだした相手がそんなことを言い出して、ちょっと意味がわからない。
「え、凄い?」
「この値段であれやこれやが作れちゃうんだ、みたいな感動?」
 作ってくれたご飯思い出しながらレシート見ると感慨深いよ、などと言われても、やっぱりよくわからなかった。それに、人の金で贅沢してる、とか思いつつ買ってた身としては、遣り繰りを褒められたと素直に思い難い面もある。
「ってか嗜好品が全然ないね」
「嗜好品?」
「お菓子とかジュースとか。好きに買って全然構わなかったのに。って最初に言えばよかったのか。言わなくてごめん」
 気が利かないな、などと言って反省しているが、全く意味がわからない。
「は?」
「買い物から何から全部任せっきりなんだから、これからは自分用のお菓子とかも混ぜて買っていいからね。あとお金足りなくなったらすぐ言ってね。とりあえず1万足しておけば良いかな?」
 返したはずのお金にさらに1万上乗せされて戻されるのを、黙って見つめてしまう。黙ってしまったからか、相手がこちらの様子を伺っているのがわかって、どうにか声を絞り出す。
「あー……カンガエトキマス」
 声が強張ってマズイと思ったけれど、逆にそれで何かを察した相手が、その話題を切り上げてくれた。
 レシートをチェックされて、食べてみたかったお菓子を買ったことと、それを一人で食べてしまったことをめちゃくちゃ怒られた記憶が、閉じた記憶の底から吹き出て苦しい。買い物ついでに自分用のお菓子を買っていいよと言われたことが嬉しくて、なのに、こんなにも苦しいのは、心底その言葉を欲していた幼い自分が居たことに、気付かされてしまったからだ。

続きました→

 
 
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親切なお隣さん3

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 結局、エアコンが新しいものと交換されるまでに5日ほどかかる事になり、お隣さんの合鍵が無ければ結構詰んでた気がする。
 しかも電気代を全く気にしていないお隣さんの部屋の中はかなり快適だ。というか戻った瞬間の部屋の暑さがなく、汗だくになりながら部屋の温度が下がるのを待たなくて良い生活が、こんなに快適だとは思っていなかった。
 いつかは自分も、そんな生活が出来るようになりたい。
 お隣さんは夜が遅いぶん朝が少しゆっくりで、冷蔵庫は大きいのに飲み物くらいしか入ってなくて、基本3食全て外食か中食だと言う。自炊に時間をかけたくないとかなんとか。
 朝はコンビニでパンかおにぎりを買って会社で食べるなんて言うから、初日の朝、泊めてもらった上に合鍵まで借りて、まだ数日はお世話になることが決定しているお礼にと、自宅からなけなしの食材を集めて朝食を振る舞ってしまった。
 それがすべての始まりで、まっすぐ帰宅すればもうちょっと早く帰れるから、朝と夜に食事を作ってくれないかと頼まれた。食費は自分の分も含めて相手持ちでいいと言われたら、そんなの引き受けるに決まってる。
 ただ、さっと差し出された3枚の万札には驚きを隠せなかった。思わず何日分ですかと確認したら、1週間分くらい? と疑問符付きで返されて、自炊をしないから相場が全くわからないらしいと気づく。もしくは、自身の1週間分の朝と夜の食費を、単純に2倍にした可能性。
 一応、夕飯にはビール必須だとか、肉はお安い海外産とか鶏豚禁止で国産牛とかを希望してるのか確認したあと、平日は飲まないし肉への拘りもないと言われて、取り敢えず1枚は返却した。あと、大したものは作れないと念も押しておく。
 外食と中食三昧な人の口に合うものが作れる自信はまったくなかったけれど、ありあわせで作った朝食を食べた後で言い出しているのだから、まぁ、なんとかなるだろう。
 実家にいたころも家族の分を作ることは結構あったし、不味いと言われて残されたことはない。
 そんなこんなで1日2食を共にする生活を5日も続ければ、相手とも大分打ち解けて、口調なんかは相手もかなり砕けてきた気がする。
 ただ、子供の頃もここに住んでいたという相手の昔話を聞くことはあっても、自分の子供時代の話を出すことは出来なかった。胸の中で色んな感情が絡まっていて、人に話せる懐かしい思い出話なんて思いつかない。
 相手も何かを察して聞いてくることはないけれど、でも察しているからこそ、構いたがるんだという事にも気づいてしまった。
 恩返しがしたいから合鍵を受け取れの意味も、もう、わかっていると思う。
 美味しいと言って食べてくれる朝と夜の食事だって、多分、こちらの経済事情をわかっていて助けてくれている分が大きいんだろう。だって本当に凄く助かっている。でも本当は、一緒に食事なんかしなくても、今まで通り外食と中食続きだって、構わないはずだ。
 稼ぎはあるのに好んでここに住んでいる彼は異質で、ここに住んでいるという時点で、基本は経済的に余裕なんてないのだ。母子家庭だった小学生時代の彼も当然そうだったわけで、子どもの彼が周りの大人達のさり気ない気遣いであれこれと助けられていたように、彼自身も困った子供の手助けがしたい。それを恩返しと呼ぶんだろう。
 小学生の子供なんかじゃないんだけど。でも年下で、まだ、学生だから。それで彼の支援対象になっているんだと思う。
 子供じゃないのにいいのかなぁと思う気持ちはあるが、今現在、このアパートに子連れの入居者は居ないし、本当に助かっているし、エアコンの工事が終わるまでは甘えてしまおうと割り切って、快適な日々を享受してしまった。
 部屋が涼しいのも、食費がタダになるのも嬉しいけど、宣言通り本当に大したものは作れていない日々の食事を、美味しいって褒めてくれるのもかなり嬉しい。不味いと言われたことも、残されたこともないけれど、美味しいと褒められた記憶は、そういえば殆どなかった。
 たまにリクエストは貰ったけれど、美味しかったからまた作って欲しい、なんていう頼まれ方はしていない。基本、食べたいから作って、としか言われなかったけど、それでもリクエストを貰うのは嬉しかった。
 それどころか、作ってくれて助かるって言葉すら、最後に聞いたのが何年前か思い出せない。いつの間にか、親が用意できない時は自分で作って当たり前になっていたし、家族の分も一緒に作っておけばちゃんと食べて貰えるってだけになっていたなと思う。
 気づいてちょっと凹んだけれど、だからこそ、大学入学を期にあの家から逃げ出したのは正解だった。親兄弟がなんと言おうと、自分の選択は間違っていない。絶対後悔なんかしない。
 これから先も、そんな正解を見つけては積み上げながら生きていくんだと強く思いながら、最後の夕飯を用意していく。
 明日の日中、自宅のエアコンが新しくなる。

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