無い物ねだりでままならない2

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 月曜2限を学食の片隅で先輩と過ごすのは楽しい。
 4年になるとゼミや就活で参加が難しくなるから、サークルでの活動は3年までがメインになるのは仕方がなく、先輩も同様に、最近はもう滅多にサークルには顔を出さなくなっている。先輩も自分も自宅外通学で大学近くにアパートを借りている身なので、今までもサークル帰りに皆で夕飯をという事は多かったのだが、それも昨年までの話だ。
 だから思いがけず、先輩と一緒に食事する時間が定期的に持てるようになったのは嬉しかった。
 他のサークルメンバーがおらず、2人きりというのもいい。相手の視線が自分にだけ向かっているという緊張もなくはないが、憧れと言って差し支えない相手を独り占めにして、サシで話ができる喜びのが断然大きい。
 先輩は自分にないものをたくさん持っている。
 大柄でちょっと人見知りっぽいところがあるせいか、一見近寄りがたい雰囲気があるものの、慣れてしまえば結構簡単に笑顔をみせてくれるし、なにより落ち着いて穏やかな所作のおかげか、一緒にいるとなんだかとても安心感がある。しょうもない話でも楽しげに相槌を打ってくれる聞き上手なとことか、困り事があったときの的確な助言とか、頼りになる男って感じがする。
 絶対モテそうって思うのに、どうやら彼女は居ないらしい。学部はともかくサークルの男女比はほぼ半分で、先輩狙いっぽい女子にも心当たりがないわけじゃないんだけど。
 ほんと、もったいない。
 自身の恋バナはちょっと苦手っぽくて、なんで恋人を作らないのか明確な理由は知らないけど、その気になればすぐ相手が見つかる的な余裕があるのかも知れない。
 羨ましいって言ったら、そっちこそモテるだろと言われたことがあるけれど、とんでもない誤解だ。女の子は自分とそう背の変わらない可愛い男を恋愛対象にしない。そこそこ仲良くなれるし、男としての意見を求められることはあるのに、異性として恋愛対象にならない矛盾を抱えている。
 男にもてても嬉しくないんすよと不貞腐れついでに、下心のある男の視線や態度の不躾さを愚痴ったら、そういうところが女子に共感されて異性として見てもらえない原因じゃないのかと指摘されたけど。そうかもって思っちゃったけど。
 しかし先輩との貴重なランチタイムは残り少ない。というか今日が最後と言っていい。
 今日が年内最後の講義がある週で、あとはもう冬休みとテストしかないし、先輩は春には卒業してしまう。
「どうした? 今日は元気がないな」
 残念だなという気持ちがだだ漏れているのか、顔を合わせるなり心配されてしまった。
「いやだって、先輩とランチするの今日で最後って思ったら……」
「ああ、そうか。もう講義ラストになるのか」
「ですよ」
「可愛がってる後輩に、元気がなくなるほど惜しまれてる、ってのは素直に嬉しいな」
 ほんのりとはにかんで笑う先輩に、ズルいと思って口を尖らせる。そこそこ可愛がられてる部類な自覚はあったけど、先輩の口から直接言われたのは初めてだ。
 先輩からはこちらの容姿に対する下心を感じないからか、可愛がられても、可愛がってるって言われても、むしろ嬉しいのだけれど、嬉しい自覚があるからこそなんだか恥ずかしい。
「じゃあ、その可愛い後輩に、もっと思い出くださいよ〜」
「思い出?」
「クリスマスデートとか、初詣デートとか。てか先輩、年末年始って実家帰ります?」
「さすがに帰る。てかデートって言ったか?」
「言いましたね」
「俺は男だが?」
「先輩は俺のことそういう目で見ないから、デートも全然ありですね。てかいつか彼女ができたときの参考にでもしようかと」
「参考にならないだろ」
 彼女が居たこともないのにと続いた言葉に、まぁいいじゃないすかと適当に濁しておく。だって別に本気で参考にしようなんてことは思ってない。
 先輩が卒業してしまう前にどっか2人で出かけたいな、という欲をかいてみただけの話で、先輩が可愛がってるだの素直に嬉しいだの言わなければ、こんなこときっと言い出してない。
「ダメですか?」
「ダメ、ではないが……」
「ではないが?」
「男にもてても嬉しくないとか言っておいて、自分で誘うのはありなのか?」
「だって先輩、俺のこと抱けるとか抱きたいとか、一度でも思ったことあります?」
「ないな」
「そういうとこですって。俺をそういう目で見ない男は貴重なんで、先輩のこと逃したくない気になりました」
「お前こそ、そういうところだぞ」
「先輩には通じないと思ってるんでオッケーです」
「いまので充分煽られたが、本気で言ってるなら、どっちがいいんだ」
「どっちも、って言ったら?」
 押せばいける気配の中、最後と思ってわがまま放題言ってみたら、呆れた顔をされたものの、結局両方承諾された。

続きました→

 
 
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無い物ねだりでままならない1

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 月曜2限は空きコマで、時間をつぶすのはもっぱら学食の片隅だ。
「よぉ。一人なのは珍しいな」
 声をかけられて手元のスマホからそちらへ顔をあげれば、サークルの先輩が昼食が乗っているのだろうトレーを手にして立っていた。
 相席の申し出にもちろん構わないと返して、相手が向かいの席につくのを待つ。本日の先輩の昼食は、どうやら生姜焼き定食だ。
「美味そうっすね」
 チラッと時計を確認して、少し早いが自分も昼を食べてしまおうかと思う。
「俺も昼飯買ってきていいですか?」
「おぅ」
「じゃちょっと行ってくるんで、荷物よろしくおねがいします」
 財布だけ握って、気持ち急ぎながら注文しに行く。昼休み前でまだ空いているので、同じく生姜焼き定食の乗ったトレーを手に戻るまでにそう時間は掛からなかったと思うけれど、どうやら先輩はこちらが戻ってくるのを待っていてくれたらしい。
「お待たせしました。てか食べてても良かったのに」
「いやだって、慌てて買いに行くの見たら、一緒に食べるかって思うだろ」
 こちらのトレーに同じ定食が乗っているのを見た先輩が、可笑しそうに笑う。つられて買いに走ったのが明白すぎて、ごまかすようにこちらも笑った。
「へへ。ありがとうございます」
「じゃ、いただきます」
「はい、いただきます」
 応じるように告げて箸を持つ。
 今日は一人で昼ごはんと思っていたから、余計に美味しく感じる気がする。声をかけて貰えてよかった。
「先輩って、いつもこの時間に昼飯なんですか?」
 先輩は4年生で、すでに講義はほとんどないらしい。だいたいは所属のゼミ室にいると聞いたことがある。時間に融通がききやすいようだから、混む昼休みを避けて学食を利用しているのかもしれない。
「今日はちょっと遅いくらいかな。俺、朝食わないから」
「へぇ」
「で、そっちは? いつもこの時間には見かけてたけど、でも先週までは誰かしら一緒だったろ?」
「あー……月曜1限とか来るのだるいっすよね。必修じゃないなら尚更」
「つまり、脱落した?」
「みたいです」
「お前は?」
「もう半分過ぎてるから、俺は今更捨てるの、なんか悔しくて。俺こう見えて真面目なんで、ここまでしっかりフルで出てるんですよね、ってのも大きいかも」
「なるほどね。じゃ来週も、てかこっから先の月曜2限は一人ってこと?」
「多分そうなりますね」
「じゃ、また見かけたら声かけていいか?」
「もちろんいいっすよ。てか今までだって、見かけてたんなら声かけてくれても良かったのに」
「それはまぁ、友達と楽しそうにしてたし、邪魔したくないし、そっちが気づいてないならいいかと」
「あー、俺のほうこそ、今まで気づかなくてすみませんってやつだコレ!」
「いやそんなのは別に全然いいんだが」
 その後も昼休みが始まるギリギリまで、軽い雑談がメインとは言え話が途切れることはなく、昼休み開始とともに、じゃあまた来週と言って先輩は食堂を出ていった。
 そうなると、同じく昼食を終えている状態でここに居座るのは気が引けてしまう。こちらはまだゼミ室などというものがないので、追加でドリンクでも買ってくるか、場所を移動するかしかない。
 迷って結局、次の講義で使う教室へ早々と移動することにした。

続きました→

 
 
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