クリスマスデートは結局、25日の夜に先輩の家で鍋、ということに決まった。世間一般でいうところのクリスマスデートのイメージとは明らかに違うが、先輩の家にあがったことがないという好奇心に負けて承諾した。
お家デートって言葉もあるし、鍋の具材は一緒に買いに行くし、まぁきっとデートには違いない。
そもそも、先輩が卒業してしまう前にもうちょっと一緒に何かしたい程度の曖昧な誘いだったので、明確に相手と行きたい場所があったわけでもなのだ。もっと言えば、デートという単語を使いはしたが、そこに恋愛要素がないことなんて双方わかりきってもいる。
なお、24日の夜には何があるのかと思ったら、ゼミの彼女なし連中との飲み会だそうで、説明が面倒で回避できなかったと謝られた。
確かに後輩男子とのクリスマスデートを、正しく説明するのは面倒だろう。特に、デートであってデートではない部分とか。
仮にデートだとは言わなかったとしても、恋人なしを公言してる男がクリスマスの集まりを断るだけでも絶対に勘ぐられるだろうし、もし一緒にいるところを誰かに見られた場合は間違いなく誤解されるだろう。言わなくたって、デートだなって思うだろう。
ただ友達と遊びに行っただけをデート呼ばわりされた過去が何度もあるから、そう思わせる何かが自分にはあるようだ。
男女関係なく、人との距離感が近いと言われたこともあって、多分それが主な原因なんだろうけれど。でも改善の仕方がよくわからなくて諦めた。
どうやら、それも女の子に異性として意識して貰えない原因の一つらしい。それを指摘してきたのも先輩だ。
先輩がデートという単語をあまり追求してこなかったのだって、こちらのそういう過去を多少は知っているからで、先輩からすればただの自虐扱いかもしれない。きっと多少はそれもある。デートしようを相手が誤解しない確信があれば、開き直ってわざとそういう言い方をするのも、先輩相手が初めてじゃない。
ただ、可愛いのを自覚する容姿ではあるが、気合を入れて女装めいた真似をすればまだしも、一見して女に間違われることはないから、こちらの好奇心とワガママで先輩にゲイ疑惑などもってのほかだ。クリスマスというイベントが誘いやすかっただけで、クリスマスイブに拘る間柄でもないし、実のところ、約束を反故にされないのなら25日ですらなくてもいいくらいだった。
クリスマスがただの口実でしか無いから、鍋が候補に上がったり、それを笑って受け入れられる。
そんなわけで、25日の夕方に近くのスーパーで待ち合わせて、鍋の具材をあれこれ買った。
場所を提供してもらうのと、飲み物類は重いからと先輩が先に用意してくれていたのもあって、支払いはこちらが全て負担する気でいたのに、サークルの後輩に奢れる機会ももうほぼないからと逆に先輩が出してくれた。とはいえ、たかりたくて誘ったわけではないので、ざっくり半額に飲み物代の色を付けて、遠慮する先輩に押し付け受け取らせたけれど。
だって年明けには初詣デートも承諾されているのだし、こちらのワガママに付き合ってくれるだけで充分で、いくら相手が先輩でも金銭的負担まで強いたくはなかった。
先輩からすれば、せっかくの奢りを断って無理やりお金を押し付ける行為も、こちらのワガママを受け入れてるって認識だったりするだろうか。だとしても、そこはやっぱり譲れないよなと思う。
「せっかく奢ってやるって言ってるのに、可愛くない後輩だって思ってます?」
それでも結局、確認するみたいに聞いてしまう。
「いや。お前にたかり気質がないのは知ってる。ただ、デートだの参考だの言ってたから、一応こっちが出すべきかと思っただけだな」
「あー……デートで相手が彼女だったら奢ってた、と」
「世間一般ではそうなんだろう、程度の認識でしかないぞ」
そもそも彼女がいたことがないんだからと、前にも聞いたセリフを続けた後、恋人が割り勘派ならそれに合わせるとも言われた。
「なるほど。相手次第で臨機応変にって感じっすね」
「恋人に限らずそういうもんじゃないか? まぁ、そういう部分で我を通したいほどの拘りがないだけとも言うが」
だから奢りを断られたくらいで可愛くないなんて感情はわかないなと、再度はっきり言葉にして伝えてくれる。
「俺、そんな不安そうな顔してます?」
「どういう意味だ?」
「可愛くないとか思ってないよって、わざわざ言い直してくれたっぽいから。先輩に可愛くないって思われたかもどーしよーって顔でも晒してんのかと思って」
「そんなことを思ってたのか?」
多少は。という事実をわざわざ伝える気はなくて、えへへと笑ってごまかしておく。
「じゃあ素でわざわざ伝えてくれてんだ。そういうとこ、ホント、モテル男っぽいのに」
「俺は絶対お前のがモテてると思うぞ」
「女の子に?」
「異性として意識されてないだけで、実際、仲良くしてる女子は多い方だろう?」
「男として意識されなきゃ意味ないんです〜」
「じゃあ、まずはお前が異性として意識する相手を、本気で口説いてみればいい」
「ええ〜……」
「女友達を異性として意識してないのはお前も一緒だろう。俺を誘った勢いで女子を誘えば、女子とのデートだって容易にできると思うが?」
「そんなことしたら誤解されて面倒なことに、って、あー……まぁ、言われれば確かに、俺も女の子の友達を異性として意識しないようにしてるとこ、あるのかも?」
「ほら、お前が認識できてないだけでお前は充分女子にモテてる。良かったな」
そうかなぁ。そう言われるとそんな気もするけど、先輩が言うとなんか全部そうっぽい気になるとこもある気がする。
なんてことを考え込んでいる間に、先輩は買ってきた具材で鍋の準備を始めている。余計なことを考えている場合じゃない。
慌てて手伝いますと声をかけて、狭いから邪魔だという先輩を押しのけ、先輩を脇において先輩が指示するままに食材を切る作業はけっこう楽しかった。
ついでに、言う事きいておとなしく待たないのは可愛くないですかと、返答にほぼほぼ確信を持って聞いてみれば、こちらの意図をしっかりわかっているらしい先輩ははっきりと呆れた顔で、充分可愛いと返してくれた。
可愛くないとは思わないから可愛いに昇格したと、わざとらしく喜んで笑えば、つられたように先輩も笑っていたので、そういう他愛ないやり取りが楽しさを倍増させたと思う。
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