CHAT NOVEL(@CHATNOVEL)さんで公開された「無表情トレーナーは変態でした」(リンク先は試し読みのWeb版で3章まで読めます)がアプリで読めなくなったので全文公開します。
1章 そうだ!ジムに入ろう
【オフィスの一角】
田中課長:山瀬くん、ちょっといいかな
山瀬:はい、なんでしょう?
呼ばれて課長の元へ向かえば場所を移動しようと提案される。
向かったのは小さな会議室だった。
田中課長:新入社員の佐々木さんのことなんだけど
山瀬:(佐々木さんって言うとあの子か)
:(少し融通が利かない感じの子だから)
:(主張が曲げられなくて誰かと揉めたか?)
:彼女がなにか?
田中課長:あー……
:その、な
山瀬:言いにくいような事ですか?
:誰かと揉めました?
:(こんな場所で話をとなると)
:(厄介な相手ってことだろうか)
田中課長:山瀬くんは今、
:新入社員の教育担当で彼女とも接する機会が多いだろう?
山瀬:そうですね
田中課長:それでだ
:あー……
:大変言いにくいんだが
山瀬:はい
:(やたらと勿体ぶるのはなんなんだ?)
田中課長:彼女がその、デ、いや
:ふくよかな体型をしている人をだね
山瀬:(今確実にデブって言おうとしたな)
田中課長:生理的に受け付けられないと言っていて
山瀬:はぁ……
:生理的に受け付けないですか
田中課長:だからその、君のことがだね
山瀬:ああ、なるほど
:(厄介な相手って俺自身か)
:え、つまり、私を教育担当から降ろすって話ですか?
田中課長:いやいやいや
:そんな話にはなってないよ
:というかまだ本人から苦情と言うか
:どうにかならないかと言われただけの段階というか
山瀬:どうにか、と言われましても
田中課長:そうだよね
:体型なんてすぐにどうこうできる話じゃないよね
山瀬:まぁ、そうですね
田中課長:君の評判は昨年かなり良かったし
:今年も彼女以外とは上手くやれているんだろう?
山瀬:ありがとうございます
:自分では上手くやれてると思ってますが
:実際の所はどうでしょう?
:(なんせ全く気づいてなかったからな)
:(佐々木さんとも問題なくやれてると思ってたわ)
田中課長:正直、担当を降りられたら困るんだけど
:かといって彼女に耐えろとも言い難くて
:君の方で何か対策立てれないかな?
山瀬:対策、ですか……
:でも生理的な嫌悪って言いましたよね
:痩せろったって今日明日になんて無理ですよ?
:(まぁ痩せようと思った所で)
:(ダイエット成功したことないんだけどさ)
田中課長:それはわかってる
:ただ彼女が言うには
:太っているというのは自身の体型コントロールが出来ない
:自制心がない人間の象徴だから
:そんな男に隣に立たれるのが不快でたまらないらしくてさ
山瀬:自制心がない、ですか
:まぁ、太っていると出世できない制度
:なんてのも聞いたことはありますが
:確かそれも、自己管理が出来ていないという理由だったはず
田中課長:うんうん
:うちの社には今の所そんな制度はないけども
:それはそれとして
:なんかこう、ちゃんと自制心があるところを示すとか
:彼女が納得しそうな何かをだね
山瀬:(つまり何も思いつかないから)
:(当事者の俺に丸投げしたいってことか)
:あー、じゃあ
:何か考えてみます
田中課長:うん、頼んだよ
随分とホッとした様子で課長は部屋を出ていった。
【夜の駅前】
退社後、駅へ向かって歩いている。
山瀬:(そういや昼間の課長の話)
:(あれ、どうしたらいいんだろうな)
:(太ってる相手に生理的嫌悪かぁ)
:(今までそんな反応されたことなかったけど)
:(でも佐々木さんのことも気づいてなかったし)
:(言われないだけで不快だって人は多いんだろうか)
:はぁ……
:(美味しいもの食べるの好きだし)
:(太ってモテなかろうと)
:(俺自身が問題にしてなければ)
:(体型なんて気にしなくていいって思ってたわ)
:痩せること
:ちょっと真面目に考えるか?
:(そろそろ30になるわけだし)
:(健康面考えたって)
:(痩せてたほうが良さそうだしな)
あれこれ考えていると不意にジムの看板が目に入った。
どうやらこの時間も営業しているようだ。
山瀬:あ……
:(こんなとこにジムがあったのか)
:(普段全く気にしてなかったけど)
:(タイミング的にもこれはやっぱり)
:よし、行くか
【翌日オフィス内】
課題を提出しに来た佐々木の様子を窺う。
山瀬:(言われてみればなるほど)
:(緊張してるのかと思ってたけど)
:(不快感を抑えてると見えなくもないな)
:昨日、田中課長から話を聞いたんだけどね
佐々木:は、はい
山瀬:ああ、そんな身構えなくていいよ
:ジムに入会決めたってのを
:一応報告しておこうと思っただけだから
佐々木:は?え?
:ジム、ですか?
山瀬:そう
:駅前にあるんだけど24時間営業なんだって
:そこに今日から通うことにしたからさ
佐々木:それって……
:私のせい、ですよね
山瀬:佐々木さんのせいと言うか
:佐々木さんのおかげ?
佐々木:おかげ?
山瀬:ダイエットの必要性について
:ちょっと真面目に考えるいい機会だった
軽く笑いかけてみるが、あまり納得出来ていない顔をしている。
山瀬:それでまぁ
:どれくらいで効果が出るのかわからないけど
:一応ちゃんと続けるつもりだってのと
:距離も今以上に気をつけるからさ
:暫くそれで様子見てくれないかな
佐々木:様子見、ですか?
山瀬:そう
:教育期間が終わるまでまだ数ヶ月あるけど
:やっぱり耐えられないってなったら言ってよ
佐々木:山瀬さんに直接、ですか?
山瀬:出来れば
:無理なら田中課長でも良いけどね
佐々木:わかりました
山瀬:うん、よろしくね
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