あまりにも珍しい光景に感動を覚えてしまい、胸の内に愛しさが溢れた。けれど申し訳ないことに、それを伝えるよりも早く、小さな笑いがこぼれ落ちて行く。
「ちょっ、もーっ!」
「ごめん。あんまり可愛いから、つい」
「その顔見ればわかるんで、わざわざ言わなくていいですよ」
「そう? 恋人に可愛いって言われるのも、慣れたら意外と嬉しいもんだよ?」
「え、嬉しいんですか!?」
嫌がられてはいないと思っていたけれど、嬉しそうには見えなかったと続いた言葉に、伝わっているようで伝わっていないことも多いのかも知れないと思う。
「さすがにあからさまに喜ぶのはね、まだ抵抗があるかな。でも、本気で言ってるんだろうなってのは伝わってくるから、気恥ずかしいけどなんだかんだやっぱり嬉しいよ。まぁ、可愛いって言って蕩けるみたいに笑うケイくんのが、よっぽど可愛いのにって思ってることも多いけど」
「ううっ、今そんな事言うの、ずるいっ」
「そうだね。好きだよ、ケイくん」
「ほんっと、ずるいっ」
俺だって好きですと張り合うように告げられて、やっぱり愛しさが笑いとなってこぼれ落ちた。
「ね、汚いとも気持ち悪いとも、ちっとも思ってないから、続き、していい?」
「はい。でもだいぶ覚悟も決まってきたんで、ゆっくり慣らすとか不要です。というか、早く、修司さんが欲しいです」
「ん、俺も、早くケイくんが欲しくなってきた」
多少は不安が解消されたのか、それこそ覚悟が決まったのか、ガチガチだった緊張が解けている。様子を見ながら、2本、3本と指の数を増やして行っても、そこまで辛そうな顔を見せはしなかった。
それどころか、戸惑いと躊躇いをたっぷりと混ぜながらも、気持ちが良い場所を知らせるように時折小さく喘いでもくれて、それがまたたまらなく可愛らしい。慣れないながらも必死に応じようとしてくれる様が愛おしい。
そんなのを見せられていたのだから、一瞬だって萎える隙はなかったし、それはケイの目にも明らかだったはずだ。
だからだろうか。指を抜いて足を抱えた時には随分とホッとした様子だったし、無事に体を繋げきり、全部入ったよという申告には感極まったように泣かれてしまって驚いた。泣きそうな顔は見たことがあっても、本当に泣いている姿を見るのは初めてで、内心かなり焦ってもいた。
「え、ちょ、ケイくん!?」
「ご、ごめっなさっ、うれ、嬉しくてっ」
「そ、そっか」
「しゅぅじ、さん」
伸ばされた手を取れば足りないとでも言うように強く引かれ、それと同時に、待てないとばかりに上体を起こそうとする。慌ててその背を支えるように空いた側の手を回し、少し迷ったものの、結局そのまま抱き起こしてしまった。
対面座位で腿の上に乗っているので、当然ケイの顔のほうが上に位置する。軽く見上げた先にあるのは、涙を流してはいるものの、確かに満足げな笑顔だった。
その笑顔が近づいて、何度かチュッチュと唇を啄んでいく。そっと舌を差し出せば、すぐに絡め取られて深いキスになる。
乱暴ではないが、どことなく衝動で貪られているようなキスを黙って受け止める。やっと開放される頃には、その頬を濡らす雫はもうなかった。
「落ち着いた?」
「はい。というかなんか、すみません」
「ちょっとビックリしたけど、嬉しくて感極まっちゃったのは事実なんでしょ?」
「う、はい……」
「初めて体を繋げたってことを、こんなにも喜んでくれる恋人が居て、俺はなんて幸せ者なんだろう。って思ってた」
気にすることはないというつもりで口に出したが、どうやら逆効果だったらしい。
「そう言われちゃうと、なんか申し訳ないような気もしてくるんですけど……」
また少し困ったように顔を曇らせながら言われた言葉の意味は、正直よくわからなかった。
「申し訳ないって、どうして?」
「だって多分俺、修司さんが俺を好きって、きっとどこかでちょっと疑ってたんですよ。修司さん優しいから、俺の好きを受け入れてくれて恋人にしてくれたけど、でも安眠に必要で手放せないからって理由も少しくらいはあるんだろうなって思ってて」
「不安にさせてた?」
「不安、だったのかな? あまり不安だった自覚はなくて、でも、もっともっと必要とされたいって、頑張ってたとこはあります」
ずっと色々と頑張ってくれてたのはもちろん伝わっているけれど、その根底に、もっと必要とされたい気持ちがあったからだなんて、こうして言われるまで考えもしなかったことを恥じる。
「俺が抱かれる側になろうと思ったのだって、元カノに対抗する気持ちが無かったとは言えないし、俺の体で気持ちよくイカせられたら自信が持てそうな気がしてたからで、でも今日、俺が上手く出来なくて、途中から修司さんが変わって俺を抱いてくれて、可愛いって言って貰って、繋がれる場所、汚いとか気持ち悪いとか思わないよって言ってくれて、いっぱい弄ってくれて、その間ずっと俺のこと愛しそうに見てたし、ちっとも萎えないの見てたら、俺、本当に、」
またじわじわと涙が滲んできた目元をそっとぬぐってやりながら。
「俺がどれだけケイくんを愛してるか、実感できた?」
はいと頷かれて、申し訳ないのはこっちの方だと思う。
「ごめんね。言葉も、態度も、足りなすぎたね。ケイくんが男の子で、しかも俺よりよっぽど男前でカッコイイから、俺が受け身で居たほうが扱いやすいのかと思ってた。でもそうじゃないってわかったから、これからは俺ももっと、ケイくんを甘やかすの頑張っていくね」
「でも俺、多分、甘えるの、下手なんで。見た目可愛い系なの自覚あるんですけど、だからこそ可愛いって思われるんじゃなくて、カッコイイとか、頼りになる男目指してたから、甘やかすの頑張られても、きっと上手に甘えられない、です」
むしろ男前でカッコイイって言って貰えたのが嬉しかったとはにかまれたら、ますます頑張らねばと思ってしまうし、我儘な恋人に散々振り回されても全く苦にならないどころかそれが愛しいと思っていたような男が、恋人にどれだけの情を注ぐのか思い知ればいいとも思う。
必要がなさそうだとか、むしろ嫌がられそうだと思っていただけで、相手の機嫌を探って尽くすことも、本来はそう苦手ではない。今日、修司が積極的になったことで、あんなにも可愛らしい姿が色々と見れたのだから、尽くし甲斐もあるだろう。
「あのね、ケイくん。ケイくんが下手くそに甘えてくれるの、絶対に嬉しい自信がある」
「ちょっ、それ、」
ずるいとぼやかれたけれど、狙い通りの反応だ。
「それと、ケイくん自身、その身を持ってわかってると思うんだけど、こうやって喋ってても一切萎えてないくらいには、俺も、男としての欲がはっきりあるんだよね」
「う、あ、それは、はい」
「だからね、俺に愛されることにも、これから否応なく慣れてくはずだし、これから先、ケイくんがちょっとずつ俺に愛されることを覚えていってくれるんだって思うと、楽しみでたまらない」
「ううっ、お手柔らかに、お願いします」
既に結構限界ですと、真っ赤になった顔を隠すように抱きつかれてしまった。
<終>
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