「というか、好きだって言ったのに、両想いだねって喜んだのに、次があることに喜ばれて泣かれるこっちの落胆とかさぁ、バカって言いたくも……って、やっぱ納得できてない?」
ぶつぶつと不平を漏らしていた相手も、こちらの浮かない顔に気付いたらしい。
「いや、納得は、してる」
「それ絶対ウソでしょ。で、何が気になってるの」
正直に言ってよと請われたが、どう説明すればいいのかわからなかった。いや、本当はちゃんとわかってて、ただ一言、抱かれた経験がないと、そう言えばいいだけなんだろう。敏い相手のことだから、その一言でも、きっと色々察してくれる。それに、言えば喜んでくれそうだって気持ちも、さっきよりもずっと強くなっている。
なのにそれでも、その一言が言えそうにない。
「覚悟して、なんて言ったから、俺に何されるのか警戒してる?」
こちらが口を開かないので、焦れた相手が先に口を開く。可能性の高い順に、思いつくものを上げていけば、いつかは正解にたどり着くだろうとでも思っているんだろう。無理だけど。
「で、何する気だよ?」
正解ではないが、何をされるのか聞いて置きたい気持ちはもちろんあって、取り敢えず話に乗ってみた。
正直に未経験を晒すかは、もう少し考えたかった。だって今の段階で、すっかり自分たちのバランスは崩れていて、ちっとも対等じゃない。
今の状態が不快なわけじゃないけれど、相手の優しさやら甘やかしやらに触れられるのは喜びでもあるけれど、今後ずっとこんな状態が続くのか、それを自分が受け入れられるのか、わからなかった。というよりは、自信がない。
関係を変えるつもりで誘ったわけじゃないから、想定と大きく変わってしまった現状に、未だ気持ちが定まらない。
「優しくしてくれって散々言われてんだから、そりゃ、優しくするでしょ。目一杯」
どろどろに甘やかしてあげるつもりだけど、なんてことを平然と口に出すから、聞かされるこちらが恥ずかしい。
「あ、覚悟して、じゃなくて、期待して、とか言ったほうが良かった?」
「変わんねぇよ。どっちにしろ怖ぇよ」
「そう? 望み通りうんと甘やかしてあげるよ、って言うのの、どの辺が怖いと思ってる?」
「どのへん、って、だって、お前、加減しなそう、っつーか、うんと甘やかすっつー羞恥プレイ的な意地悪とか、してきそう」
言いながら、これは本当にやられそうだなと思う。
相手の持つ、強かな腹黒さを知っている。同じ目的を持って動くとき、それはなかなか心強くもあるんだけれど、それが真っ向から自分に向けられるのは普通に怖いとも思う。
望み通り優しくされて、どろどろに甘やかされて、終わる頃にはすっかり体まで相手の虜になっている、なんて状態にされてしまったら、どうしていいかわからない。しかも相手は多分それを狙っている。ついでに言うなら、そう出来るだけの経験なりテクニックなりを持っても居るんだろう。
経験がないと知られるのが嫌なのも、多少これに関係していそうだった。あまりに不利が多すぎる。だったら、こちらにもそれなりの経験があると誤解されたまま、居もしない誰かに嫉妬しててくれた方がマシに思えた。
「それは、ちょっと、否定しづらいような」
「ほらみろ」
「で、それが不安の原因?」
だけじゃない。というか、どちらかというとこれは、話してて新たに認識した不安にも思える。
「まだ何か、ありそうだね」
困ったなと、本気で困った顔をする相手が、どういうつもりでこちらの不安や気掛かりを、そこまで気にするのかがわからない。
「というか、まさかお前、俺の不安を全部引きずり出して解決するまで、突っ込む気ないとか言う気?」
思わず視線を相手の股間に向けてしまったけれど、こんな色気も何もないような会話を続けていても、そこまで萎えては居ないらしい。とっくに萎えきっていて、それで仕方なく、先にこちらの不安を解消しておこうと思っているわけではないようだ。
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