ホラー鑑賞会

 カーテンの隙間から覗く空は青々としていて、意識して耳を澄ませばいくつもの蝉の鳴き声が聞き取れる。きっと外は今日もくそ暑い。
 しかしカーテンを締め切り冷房を強めにきかせた部屋の中は、薄暗くて少し肌寒かった。
 目の前のテレビに映し出されている映像もこの部屋以上に薄暗く、相応におどろおどろしい不気味な音を発していたから、余計に寒く感じるんだろう。
「ひえっ」
 画面の中で血しぶきが飛び、隣の男が身を竦める気配と、いささか情けない声音が漏れてくる。もっと盛大に怖がってくれていいのに、鑑賞会に付き合わせすぎて耐性ができつつあるようだ。残念。
 やがてエンドロールが流れ出し、隣からはあからさまにホッと安堵のため息が盛れた。
「思ったよりエグかったな」
「え、マジすか。どこがですか。全然平気そうに見えましたけど?」
「流血量と誘い出す手口のアホらしさが?」
「流血量はわかりますけど、手口のアホらしさって……」
「あれでノコノコ出向いてまんまと餌食、って辺りがエグいだろ。あんなやつを信じ切って可哀想に」
「先輩がそれ言います?」
「お前はノコノコ付いてきてまんまと食われるタイプだもんな」
「別に後悔はしてないっすけどね」
 興奮しました? と聞かれて、した、と返せば、相変わらず変態ですねと笑われる。
 ホラーを見てるとムラムラする、と教えたことがあるのに、暇だから遊びに行っていいすかだとか、せっかくだから一緒に何か見ましょうだとか、夏だしオススメのホラーありますか、だとか。誘われてるのかと思っても仕方がないと思う。
 まぁ、ホラーでムラムラする、なんて話を全く信じていなかっただけらしいけれど。ホラー好きなことだけはちゃんと伝わっていて、あの発言も一種のネタなんだと思ってたらしいけれど。
 あとまぁ、男もありだなんて思わない、という点に関しては確かにそうだ。あの日より前に、ゲイ寄りのバイだと教えたことはなかった。
 近づいてくる顔に目を閉じて、初っ端から舌を突っ込んでくるようなキスを受け止める。こちらは既に興奮済みなので、さっさとお前もその気になれと、口の中を好き勝手させながらも伸ばした手で相手の股間を撫で擦った。
 初回は勃たせるのにも一苦労だったが、ホラーに耐性ができてきたの同様、鑑賞後のこうした行為にも耐性が出来たのか、あっという間に手の中で相手のペニスが育っていく。
 充分に硬くなった辺りでキスが中断されたのでベッドへと誘った。短な距離を移動しながら互いに服を脱ぎ捨てて、ベッドの上になだれ込めば後はもう、突っ込まれて中を擦られて腹の中に燻る熱を吐き出すだけだった。後ろの準備は彼が来る前に終えていた。
 慣れたもので、こちらが差し出す前に引き出しを開けてゴムを取りだし装着し、こちらが乗らなくても、ペニスに手を添えて導かなくても、気持ちの良いところをグイグイと擦り上げながら入ってきて、容赦なくこちらの弱いところを突きまくって追い詰めてくれる。どんなセックスが好みかなんて、とっくに全部把握されている。
 昨年の夏から一年がかりで、何度も繰り返してきた成果だった。
「っっ……、はぁ……」
「んんっっ」
 射精を終えたペニスがズルリと抜け出ていくのを惜しむように、尻穴が未練がましく収縮している。
 もう少し留まってくれてもいいのにと思っても、それを口に出したことはない。別に恋人でもなんでもないからだ。これ以上を望むつもりはなかった。
「なんか飲み物貰っていいすか?」
「ああ」
 ハッスルしすぎて喉がカラカラだと訴える相手の機嫌はいい。
 射精後にスッキリした顔をしているのは当然で、こっちだって充分に気持ちよくして貰ったし、こんな変態に機嫌よく付き合い続けてくれるのだから、同じようにスッキリさっぱりした顔で感謝の一言でも言えればいいのに。
「どうしました?」
 麦茶のペットボトル片手に戻ってきた相手が、ベッドの端に腰掛けながら問いかけてくる。
「疲れちゃいました?」
「ああ、まぁ」
「夏休みで連日こんなことやってりゃ、そりゃそっか」
 ただれてますねとヘヘッと笑う。それに連日付き合ってるお前はどうなんだと思ったが、言葉にはしなかった。
 無言のまま、相手の手の中にある、中身が半分ほど減ったペットボトルに手を伸ばす。
「おいっ」
 手が届く前にサッと避けられ、指先が空振って相手の腿に落ちた。それを押さえつけるように、相手の手が重なってくる。
「おい?」
「まぁまぁまぁ」
 何がまぁまぁまぁだ。そう思いながらにらみつける先、これみよがしにペットボトルの中身を口に含んだ相手が、頬を膨らませた顔を寄せてくる。
 え、と思っている間に唇が塞がれ、隙間からお茶が流し込まれた。ただ、突然そんなことをされてもうまく飲み込めず、結果酷くむせてしまった。
「わわっ、すみません」
「お、おまっ、何、してっ」
「いやだって、疲れた顔した先輩、妙に色っぽいんですもん」
 でももう一回とか言って困らせたくないし、恋人は大事にしたいじゃないですか。などと続いた言葉に呆気にとられる。
 せいぜいセフレ、のつもりでいたが、どうやら自分たちは恋人だったらしい。

有坂レイへの3つの恋のお題:熱におかされて吐きだしたもの/伸ばした指先は空気を掠めて/薄暗い部屋で二人きりhttps://shindanmaker.com/125562

 
 
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