ホラー鑑賞会

 カーテンの隙間から覗く空は青々としていて、意識して耳を澄ませばいくつもの蝉の鳴き声が聞き取れる。きっと外は今日もくそ暑い。
 しかしカーテンを締め切り冷房を強めにきかせた部屋の中は、薄暗くて少し肌寒かった。
 目の前のテレビに映し出されている映像もこの部屋以上に薄暗く、相応におどろおどろしい不気味な音を発していたから、余計に寒く感じるんだろう。
「ひえっ」
 画面の中で血しぶきが飛び、隣の男が身を竦める気配と、いささか情けない声音が漏れてくる。もっと盛大に怖がってくれていいのに、鑑賞会に付き合わせすぎて耐性ができつつあるようだ。残念。
 やがてエンドロールが流れ出し、隣からはあからさまにホッと安堵のため息が盛れた。
「思ったよりエグかったな」
「え、マジすか。どこがですか。全然平気そうに見えましたけど?」
「流血量と誘い出す手口のアホらしさが?」
「流血量はわかりますけど、手口のアホらしさって……」
「あれでノコノコ出向いてまんまと餌食、って辺りがエグいだろ。あんなやつを信じ切って可哀想に」
「先輩がそれ言います?」
「お前はノコノコ付いてきてまんまと食われるタイプだもんな」
「別に後悔はしてないっすけどね」
 興奮しました? と聞かれて、した、と返せば、相変わらず変態ですねと笑われる。
 ホラーを見てるとムラムラする、と教えたことがあるのに、暇だから遊びに行っていいすかだとか、せっかくだから一緒に何か見ましょうだとか、夏だしオススメのホラーありますか、だとか。誘われてるのかと思っても仕方がないと思う。
 まぁ、ホラーでムラムラする、なんて話を全く信じていなかっただけらしいけれど。ホラー好きなことだけはちゃんと伝わっていて、あの発言も一種のネタなんだと思ってたらしいけれど。
 あとまぁ、男もありだなんて思わない、という点に関しては確かにそうだ。あの日より前に、ゲイ寄りのバイだと教えたことはなかった。
 近づいてくる顔に目を閉じて、初っ端から舌を突っ込んでくるようなキスを受け止める。こちらは既に興奮済みなので、さっさとお前もその気になれと、口の中を好き勝手させながらも伸ばした手で相手の股間を撫で擦った。
 初回は勃たせるのにも一苦労だったが、ホラーに耐性ができてきたの同様、鑑賞後のこうした行為にも耐性が出来たのか、あっという間に手の中で相手のペニスが育っていく。
 充分に硬くなった辺りでキスが中断されたのでベッドへと誘った。短な距離を移動しながら互いに服を脱ぎ捨てて、ベッドの上になだれ込めば後はもう、突っ込まれて中を擦られて腹の中に燻る熱を吐き出すだけだった。後ろの準備は彼が来る前に終えていた。
 慣れたもので、こちらが差し出す前に引き出しを開けてゴムを取りだし装着し、こちらが乗らなくても、ペニスに手を添えて導かなくても、気持ちの良いところをグイグイと擦り上げながら入ってきて、容赦なくこちらの弱いところを突きまくって追い詰めてくれる。どんなセックスが好みかなんて、とっくに全部把握されている。
 昨年の夏から一年がかりで、何度も繰り返してきた成果だった。
「っっ……、はぁ……」
「んんっっ」
 射精を終えたペニスがズルリと抜け出ていくのを惜しむように、尻穴が未練がましく収縮している。
 もう少し留まってくれてもいいのにと思っても、それを口に出したことはない。別に恋人でもなんでもないからだ。これ以上を望むつもりはなかった。
「なんか飲み物貰っていいすか?」
「ああ」
 ハッスルしすぎて喉がカラカラだと訴える相手の機嫌はいい。
 射精後にスッキリした顔をしているのは当然で、こっちだって充分に気持ちよくして貰ったし、こんな変態に機嫌よく付き合い続けてくれるのだから、同じようにスッキリさっぱりした顔で感謝の一言でも言えればいいのに。
「どうしました?」
 麦茶のペットボトル片手に戻ってきた相手が、ベッドの端に腰掛けながら問いかけてくる。
「疲れちゃいました?」
「ああ、まぁ」
「夏休みで連日こんなことやってりゃ、そりゃそっか」
 ただれてますねとヘヘッと笑う。それに連日付き合ってるお前はどうなんだと思ったが、言葉にはしなかった。
 無言のまま、相手の手の中にある、中身が半分ほど減ったペットボトルに手を伸ばす。
「おいっ」
 手が届く前にサッと避けられ、指先が空振って相手の腿に落ちた。それを押さえつけるように、相手の手が重なってくる。
「おい?」
「まぁまぁまぁ」
 何がまぁまぁまぁだ。そう思いながらにらみつける先、これみよがしにペットボトルの中身を口に含んだ相手が、頬を膨らませた顔を寄せてくる。
 え、と思っている間に唇が塞がれ、隙間からお茶が流し込まれた。ただ、突然そんなことをされてもうまく飲み込めず、結果酷くむせてしまった。
「わわっ、すみません」
「お、おまっ、何、してっ」
「いやだって、疲れた顔した先輩、妙に色っぽいんですもん」
 でももう一回とか言って困らせたくないし、恋人は大事にしたいじゃないですか。などと続いた言葉に呆気にとられる。
 せいぜいセフレ、のつもりでいたが、どうやら自分たちは恋人だったらしい。

有坂レイへの3つの恋のお題:熱におかされて吐きだしたもの/伸ばした指先は空気を掠めて/薄暗い部屋で二人きりhttps://shindanmaker.com/125562

 
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今更エイプリルフールなんて

 4月1日がエイプリルフールだということはわかっているが、下らない嘘を吐きあって笑えるような人間関係が成立していたのはせいぜい学生時代までで、社会人となってからはそう縁のあるものではなかった。どちらかというと、企業やらが仕込むネタを楽しむ日、程度の認識だ。
 だから、担当という形で一年近く仕事を教えていた昨年の新入社員の男からの、彼女が出来たという報告も、ただただ単純におめでとうと返した。そんなプライベートの報告は別にしなくてもいいのだけれど、浮かれて誰彼かまわず伝えたいのかも知れないし、そんな内容を話せる相手が他にいないのかも知れない。
 たあいない雑談の中で聞いた、休日に友人と遊びに行った話なども覚えてはいるが、その友人とどのような関係かは知らない。恋人どうこう話せるような相手ではないのかも知れないし、もしかしたらその話に出てきた友人が彼女となったのかも知れない。その友人の性別を聞いた記憶はなかった。
「それだけっすか?」
「それだけ、って、おめでとうじゃ不満なのか?」
「そういうわけじゃ……」
「そんな顔で言われてもな。で、なんて言ってほしかったんだよ」
「っていうか、彼女できたなんて嘘おつ、とか、お前が好きなの俺だろ、みたいなのないんすか?」
「は?」
 とっさに、何言ってんだこいつ、という気持ちから疑問符を飛ばしてしまったが、そういや思い当たるフシがないこともないなと思い出す。
「あー……そりゃ好意はちゃんと感じてたけど、ていうか好きとは言われたことあったけど、でもそれ、俺が担当で良かった程度の意味かと思ってたっていうか、恋愛方面絡んでとか思ってなかったし、彼女出来ましたって報告に、お前俺が好きだったろ、とか返すほど自信過剰でもないし」
 というかあれらは本当に恋愛方面込みでの好意なんだろうか。どう思い返しても、担当に恵まれて良かった、という気持ちをノリと勢いで「好き」という単語にしたようにしか思えないのだけれど。
 しかしそれを確かめてしまうのは躊躇われて、そこはグッと言葉を飲み込んだ。
「いやだから、そんなマジに取られても困るというか、そもそも、おめでとうでスルーされると思ってなかったと言うか」
「ん? どういう意味だそれ」
「えー……っと、だからその、今日、なんの日か知ってますよね?」
 今日がなんの日かと言われてようやく、エイプリルフールのネタだったのだと思い至る。
「つまり、彼女が出来たは嘘ってことか」
「そ、です」
 絶対嘘ってわかった上で乗ってくれると思ってたのにと、不満げに口先を尖らせているけれど、会社でエイプリルフールの嘘を振られるのなんて初めてだったのだから無茶を言うなと言いたい。というか言った。
「えー、マジっすか」
「マジだよ。だからな、今日も、来年以降も、エイプリルフールがやりたいなら、相手は学生時代の友達とか家族だけにしとけよ」
「えー」
「えー、じゃない」
「せめて先輩だけでも、来年も相手してくださいよ〜」
「なんでだよ」
「だって嘘ってわかってたら乗ってくれますよね?」
「いや乗らない」
「なんでっすか!?」
「じゃあ例えば俺が、お前俺が好きだったろ、って返したら、お前それになんて返す?」
「先輩が付き合ってくれんなら今すぐ彼女振ってきます!」
「言うと思った。つまり、お前と嘘ネタでやりあうと大事故起こる未来しか見えないからだ」
 それを耳にした誰もが、エイプリルフールの面白ネタと思ってくれるわけじゃない。もしエイプリルフールと気づかれずに本気にされたらどうするんだ。というか多分気づかれない確率のが高い。
「でも俺、先輩とだったら誤解されてもいいっていうか、まじに付き合うことになってもいいんですけど」
「嘘おつ。てかやめろって言ったそばから!」
 少しばかり声を荒げてしまったが、相手は満足げに笑っている。
「そういうとこ、ほんと好きなのに〜」
「わかった。それは信じるから、仕事しろ仕事」
「はーい」
 機嫌よく自分のデスクへ戻っていく相手の背を見送りながら、これは来年も何かしら仕掛けてきそうだと思って、深い溜め息を一つ吐き出した。エイプリルフールなんて、自身にはもう直接関係のないイベントだと思っていたのに。

 
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追いかけて追いかけて(目次)

キャラ名ありません。全31話。
同じ大学の大学院生×新入生(視点の主)。という出会いをした二人ですが、メインになってるのは視点の主が大学院生で相手は社会人な時期。5歳差。視点の主は決して小柄ではないけれど、先輩が高身長のためそこそこ身長差あり。
財布をなくして困っていた時に声を掛けてくれた相手に興味を惹かれるまま、追いかけるように転学部・学科までしてその相手と同じゼミに入った視点の主と、好意を隠すことなくダダ漏れにして自分を追いかけてくるくせに、恋人になるのは嫌だと言って譲らない視点の主を諦め悪く追い詰めて、最終的には恋人になると言わせる先輩の話。
途中、視点の主がさして仲が良いわけでもない別ゼミの後輩に襲われる(挿入は指だけ)展開があります。
作中そこまで明確に書いてはいませんが、先輩は高校時代に彼氏が、大学時代に彼女が居た設定。高校時代の彼氏との関係はタチ寄りのリバで非処女。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 人生を変えた出会い
2話 ゼミ訪問で久々の再会
3話 今後を見据えた交流
4話 院進学と告白
5話 恋人にはなれません
6話 侵入者
7話 ヤバイ相手とわかっていても
8話 逃げ切れない(R-18)
9話 呼んでしまう名前(R-18)
10話 駆けつけてくれた友人(R-18)
11話 知られている
12話 だから会いたくなかった
13話 セフレにだってならないけれど
14話 互いの性体験暴露
15話 強引なキスにそれでも安堵
16話 一緒にシャワーを浴びるか否か
17話 信頼している
18話 自分から伸ばす手
19話 耳へのキス
20話 上書きが欲しいわけじゃない
21話 気持ちの切り替え
22話 シャワーの下で(R-18)
23話 罪悪感につけいって
24話 恋人になって
25話 もしもゲイだったなら
26話 黙って従って
27話 こんなに想われていても
28話 今だけ恋人(R-18)
29話 好きです(R-18)
30話 このまま恋人でいたい(R-18)
31話 ズルい大人

 
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いくつの嘘を吐いたでしょう

 腹が減ったけれど自宅にまともな食材もなく、買い出しついでに何か食べてこようと外に出る。取り敢えず先に腹ごしらえからだと、駅前にある食券制の蕎麦屋に入った。
「あ、財布……」
 食券機の前に立ってから、財布を忘れてきたことに気づいて肩を落とす。これじゃあ何のために家を出たのかわからない。
 何やってんだろうと恥ずかしく思いながら踵を返した所で名前を呼ばれて、恥ずかしさから俯いていた顔を上げた。そこには会社でお世話になっている先輩が、片手を上げながら笑っている。
「あれ? 先輩?」
「なにお前、財布ないの?」
「あ、はい。てかどうしたんですか、こんな所で」
「天気いいから花見でもと思って、ふらっと電車乗って、ふらっと降りた。ら、ここだった」
「ああ、なるほど」
 駅近くにけっこう立派な桜並木が有るので、電車からそれを見つけて降りてきたってことなんだろう。
「おう。で、お前はなんでここ居んの? お前んちってこの辺だった?」
「はい。徒歩10分くらいですかね」
「へー。なら、今から戻って財布とってくんの?」
「あー……それは、」
 往復20分かけて、もう一度食べには来ない気がする。店員さんにさっき財布忘れた人だと思われそうで恥ずかしい。
 買い出し気分で出て来たけれど、再度家を出る気になるかすら怪しかった。ちょっと何かを失敗すると、やる気が一気に削がれてしまうのは良くない傾向だとは思うけれど、帰ったらそのまま引きこもってしまいそうだ。
 食料がないとはいっても、多分カップ麺の1個や2個は残っているはずだから、今日はそれを食べて凌げばいい。
 なんていうこちらの思考を読んだのかはわからないが、財布を手に先輩が立ち上がる。
「奢ってやるよ」
「え?」
「ここで会ったのも何かの縁だろ。で、暇ならちょい花見に付き合って」
「あ、はい。じゃあ、えっと、ゴチになります」
 軽く頭を下げて了承し、蕎麦を食べたあとは近くの桜並木を眺めながら歩いて、とりとめのない話をした。
 財布を忘れなければ、蕎麦を食べた後はスーパーに寄って買い物をする予定だったとは話したが、まさかそのまま一緒にスーパーへ行くことになるとも、自宅アパートへ先輩を連れて帰る事になるとも思ってなくて、我ながらビックリだ。
「なんもない上に狭いすけど、どうぞ」
 丁寧におじゃましますと告げてから、後ろについて上がってきた先輩は、チラッと部屋を見回した後で綺麗な部屋だなという感想をくれた。
「綺麗つーか、物が少ないつーか、なんか、めっちゃお前らしい」
「そーですか? まぁ、適当に座ってて下さい」
 買ってきた冷蔵品を冷蔵庫へしまいながら、同時に買ってきた惣菜を温めたり、箸やグラスを用意していれば、手持ち無沙汰だったらしい先輩が何か手伝うと言いながら寄ってくる。
「じゃあこれ、お願いします」
 言いながら、出していたグラスと箸を渡せば、先輩は機嫌良くそれを受け取り戻って行った。それを数回繰り返して、最後に、最初に冷凍庫に突っ込んだビールの缶を持ってテーブルにつく。
「お待たせしました」
「おう、じゃあ飲みますか」
 最初はこのまま飲みに行かないかという誘いだったはずが、気づけば家飲みしようという話になっていて、買ってきたツマミと酒は先輩の奢りだった。最初に飲む用の2本は冷凍庫へ入れたが、残り4本は冷蔵庫に入れてある。
「あ、待って下さい。先に立替分払います」
 ツマミと酒は奢りでも、それ以外にもあれこれ買っている。飲み始める前にそれらを精算しておくべきだろう。
「あ? あー、いやいいよ。買ったもん全部奢りで」
「へ? なんで?」
「臨時収入あったから? 飲み行こってのも俺の奢りでって言ったろ。それなくなった分。飲み行ってたら絶対もっと掛かるし、場所代てことで」
「え、ならもっと色々買い込んでくればよかった」
「そりゃ残念だったな」
 そうならないように今言ったんだと言って、先輩がやっぱり機嫌良く笑った。もともと愛想の良い人ではあるけれど、今日は会ってからずっとニコニコと笑いっぱなしで、よほど良いことがあったらしい。
「今日、随分機嫌いいですよね。臨時収入って、もしかしてパチとかお馬さんとかそれ系で大勝ちとかっすか?」
 驚いたのか少し目を瞠った後、それからおかしそうに笑って、パチでもお馬さんでもないけど大勝ちで機嫌がいいのは当たりだと言われた。
「宝くじ、競輪、競艇。あ、パチじゃなくてスロットとか」
「違いますー。そういうギャンブルやりませーん。つか今日、何の日かお前わかってる?」
「え?」
「エイプリルフール」
「が、どうかしました?」
「お前に会いに来たんだよ。で、お前呼び出す前にお前と会えて機嫌がいい」
「は? なんすかその嘘」
「うん。実は今日、俺はお前にたくさん嘘ついてるって話」
 だってエイプリルフールなんだもんなどと言って笑っている目の前の男は、既に酔っているようにも見える。まだ飲み始めたばかりなのに。
「さて、俺は今日、いくつお前に嘘を言ったでしょう?」
 どれが嘘だったと思うかなんて聞かれても、正直面倒くさいだけだった。
「そういうの面倒なんでいいです」
 ばっさり切り捨ててしまったけれど、そう言うと思ったと言って、やっぱり先輩は機嫌良さそうに笑っている。
 嘘つく張り合いのなさが良いなどと言われるのはなんとも微妙だったけれど、機嫌の良い相手と飲むタダ酒は美味しかったから、またお前とこんな風に飲みたいという言葉にも頷いた。
「今の、嘘じゃないけど」
「俺は今日、先輩と違って一つも嘘吐いてないんですけど」
 少々ムッとしつつ返せば、先輩は酔っていささか赤い顔をますます赤くして、どこか照れくさそうにヘラリと笑う。
「お前のそういうとこ、割と本気で、好きだなって思うよ」
 可愛いねなんて続ける口調はなんとも嘘っぽくて、でもなぜか、それも嘘ですよねとは聞けなかった。

 
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まるで呪いのような(目次)

キャラ名ありません。1話+19話の全20話。
生まれた時からマンションのお隣さん同士な幼馴染二人の話。中学3年生×高校1年生。
生まれ月の関係により学年が違うせいで、昔から攻め側が受け側にかなりの執着を見せていて、受けはずっと自分たちは両想いだと思っていた。
「はっかの味を舌で転がして」が攻め視点で、受けが高校に入学した春の話。ここで、攻めの気持ちに恋愛感情はなかったと受けが知る。
続編に当たる「まるで呪いのような」は受け視点で、攻めの高校受験が終わった頃の話。
恋愛感情ではなかった攻め相手の片想いが辛くなってた受けが、攻めの激しすぎる執着を自分なりに納得して幸せを見出す話なのですが、受けが何度も泣きます。攻めも一度は泣きます。つまり、どちらかが泣きそうだったり、泣いてしまっている場面がかなり多いです。
今回、あまり激しい性表現はしてないつもりですが、行為中、流血はないものの受けが痛いと喚くような噛み付き表現があります。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

はっかの味を舌でころがして

まるで呪いのような
1話 幼馴染の進学先
2話 合格祝いを持って
3話 恋人をやめたい
4話 もう待てない
5話 修正不能の人生
6話 キモくて怖い執着心
7話 もう逃がす気がないから
8話 謝りたくない
9話 ゴメン
10話 自分の内側
11話 お互い様
12話 春休み初日
13話 妄想の中身
14話 妄想を実現(R-18)
15話 何度も噛まれる
16話 仕切り直す
17話 正常位がいい(R-18)
18話 抱かれる(R-18)
19話 もう両想いを疑わない

 
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フラれたのは自業自得1

フラれた先輩とクリスマスディナーの続き。先輩側。

 尿意で目覚めてトイレを済ませたついでに、シャワーを浴びてさっぱりしようと思い立つ。そうして目を向けた便器横のバススペースを見て、一瞬動きが止まった。
 だいぶ乾いているけれど、ところどころ水滴が残っているし、その他もろもろ、どう考えても誰かが使った形跡がある。誰かというか、そんな事が可能な人物は一人しか居ないのだけれど。
 じゃあ帰りますねと言われて、引き止めたことまではおぼろげながら覚えている。誘うような言葉を吐いて、でも欲しいのはフラれたことを慰めてくれるような優しい同情じゃないのだと、言ったような気がする。しかも、フラれたのはお前のせいだとも、言ってしまった気がする。
 でもそこから先の記憶がなくて、慌てて3点ユニットの小さなバスルームを飛び出した。
 明かりが落とされた暗い部屋でも、目を凝らせば自分が寝ていたスペースの隣に、人一人分の盛り上がりがあるのがはっきりわかる。もしかしたらやらかしたかもしれない不安を抱えてドキドキしながら、ベッドサイドに置かれたランプスイッチのツマミをゆっくりとひねっていく。
 相手の表情が分かる程度の明かりをともしてから、息を詰めつつその顔を覗き込んだ。酷く穏やかな顔で幸せそうに眠る相手を確認し、別の意味でドキドキしながら、再度スイッチを弄って部屋を暗くする。それからそっとまたバスルームへ移動し、扉を閉じてから大きな深呼吸を数回繰り返した。
 大丈夫。あんな顔で寝ていられるなら、酔った勢いで襲ったりはしていない。はず。多分酔ってあっさり寝落ちただけだ。
 それとも、記憶にないだけでもっといろいろ何か会話を重ねたのだろうか?
 そうじゃなきゃ、わざわざ泊まるまでするはずがない。……とは言い切れないような気もするのが、自分の勘違いやうぬぼれの可能性もあって、よくわからない。自分に都合がいいように解釈してしまいそうで混乱する。ついでに、さっき見た可愛らしい寝顔が、チラチラと何度も繰り返し脳内に蘇る。
 くらくらして纏まらない思考に、とにかく一度シャワーを浴びてシャッキリしようと思った。

 ちょっと生意気なところもあるけれど、なんだかんだ慕ってくれているのがわかる後輩を、こいつ可愛いな、と思うのは多分そうオカシナ感情ではないと思う。ただ相手は、中身はともかく見た目だけなら可愛い系とか言うらしいイケメンで、中性的なあのキレイな顔で懐かれ笑われると、なんとも言えない気持ちになる。
 よく皆平気だなと思っていたら、アイツがそこまで露骨に甘えてんのはお前くらいだと指摘されて、ますますなんとも言えない気持ちになった。
 彼は自分の顔の良さを自覚しているし、それを時にあざとく利用してもいる。だからその一端で、どうしたって戸惑いを隠しきれないこちらをからかって楽しんでいるのかと、そう疑う気持ちもあるにはあったが、わざわざ確かめることはしなかった。なんとなく、そこは突き詰めてはいけないような気がしていた。からかって楽しんでるだけなら、もうそれでいいと思う程度に、深入りするのが怖かった。
 そんな何とも言えない気持ちになる瞬間がじわじわと頻度を増していく中、同じ学科の女子から告白されて、思わず飛びついてしまったのは夏前だ。
 サークルには今まで通り顔をだすつもりだが、彼女が出来たから多少はそっちを優先することもあると大々的にサークルメンバーに伝えた時、彼は酷くあっさり良かったですねと笑って、おめでとうございますと続けた。安堵に混じるわずかな落胆に気付いてしまって、内心自分への嫌悪で吐きそうだったのを覚えている。
 まるで逃げるみたいに彼女を作ったことも、こんな試すような真似をしたことも、彼の反応に僅かでもガッカリしてしまったことも、どうしようもなく情けない。なんてみっともない男なんだろう。
 それでも、彼女を作ったことに後悔はなかったし、まるで利用するみたいに告白を受けてしまったからこそ、彼女のことは出来る限り大事にしてきたつもりだった。彼女の存在があるからこそ、自分と彼とは多少距離が近くとも単なるサークルの先輩後輩でいられるのだと、頭の何処かではっきりとわかっていたからだ。
 ただ、気付いてしまわないようにと胸の奥底へ沈めたはずの彼への想いを、暴いて焚き付けたのも、その彼女だった。それなりの頻度で会話にのぼらせてしまう、そのサークルの後輩の細かな情報を、その時の自分の様子を、彼女には抜群の記憶力で覚えられていた。
 お付き合いを開始してからそこそこの期間が経過していながらも自分たちの関係はキス止まりで、今回、クリスマスを機にもう一歩進んだ関係になるつもりだった。23日の土曜に泊りがけでクリスマスを過ごしたいと持ちかけた時、相手は随分と迷う様子を見せたが、それは単に、そろそろ肉体関係を持ちたいと示したこちらへの戸惑いだと思っていたのに。
 一度ははっきりと了承を告げたはずの彼女は、レストランを予約した時間まではのんびりしようとチェックインを済ませた部屋へ入るなり、真剣な顔で大事な話があると言い出した。そして、大事に思ってくれる気持ちは伝わっていたから恋人を続けていたけれど、本気の一番好きをくれない相手とこれ以上深い関係にはなりたくないと、この土壇場できっぱり言い切った彼女の前で、後輩に連絡を取る羽目になった。
 無意識で宿泊先にこのホテルを選んだ意味まで含めて色々暴かれ突きつけられてしまった後だったから、逆らう気なんてとても起きなかったし、後輩もあっさり捕まったけれど、後輩が来ることになって一気に冷静になる。不安になる。
 メッセージのやりとりと、その後一気にテンションを下げた自分を見ていた彼女は、自分たちの雑でそっけないやりとりに苦笑した後、きっと大丈夫だから頑張ってと言い、今までありがとうと柔らかに告げて去っていった。
 フラれたのはお前のせいだなんて、よくも言えたもんだ。こんなの、どう考えたって自業自得だ。
 彼女が言うところの、本気の一番好きを向ける相手とクリスマスを祝えるというのに、彼女が帰ってしまった後も気持ちは沈んでいくばかりだった。頑張ってと言われた所で、むりやり自覚させられたばかりの想いを持て余すだけで、どう頑張ればいいのかなんてわかるはずもない。呼び出しにあっさり応じた後輩だって、どういうつもりで来るのかさっぱりわからない。
 そもそも、今現在自分の中での一番好きが彼に向いているからと言って、後輩と恋人のように付き合いたいのか、もし彼が交際を受け入れたとして、デートしたりキスしたりいずれはそれ以上のことをしたい欲求があるのか、正直自信を持って回答できない。男同士であることへの嫌悪はなくても、そこに躊躇いがないわけじゃない。
 彼と恋人として付き合うことをあっさり受け入れられる精神構造なら、想いを沈める必要も、彼女を作る必要もなく、さっさと彼の本意を確かめていたはずだ。確かめて、もし好きだと返ってしまった場合にそれを受け入れられないと思ったから、彼女を作って自分から先輩後輩のラインをはっきり引いて示したし、彼もそれを受け入れた。
 それを、想いを自覚したからと言って、いきなり翻すのも人としておかしいだろうと思う。それはあまりに自分勝手だ。
 考えれば考えるほど、想いを自覚した所で、今すぐどうこうなんて考えられない。だから今日の所は、せっかくのクリスマスディナーを、一緒に美味しく食べることだけに集中しようと思った。するはずだった。
 なのにアイツが、見たことないレベルの可愛らしい格好をしてくるから。彼女のフリだの代りにだの言うから。フラれたことを喜ぶような素振りをするから。傷心なはずの自分を慰めたがるから。もっと隙を見せろと言うから。
 いや違う。そうじゃないだろう。後輩のせいにしてどうする。

続きました→
気になって続きを書いてしまったのですが、長くなりすぎたので切りました。2話で終わります。続きは明日9時半更新。
イベントネタのため、現在書いてる続き物より優先して上げてます。竜人の続きは28日から再開します。

 
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