まるで呪いのような3

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 改めて、恋人やめたいんだけど、と口に出す。恋人という関係だけ解消して親友に戻りたい、というのであれば、相手の執着心を刺激しにくいのではと考えた、姑息な言い回しであることは認める。
「なぁこれ、どうやって使えばお前的に満足なの?」
 なのに相手は、こちらの恋人止めたいって言葉をまるっと無視した言葉を吐いた。
「は?」
「捨てないし、引き出しにも入れないし、使う。けど使い方わかんねぇから教えて」
「捨てろよ」
「ヤダ」
 どうやらこちらの言葉を無視したわけじゃなかったらしい。恋人云々に触れずとも、恋人関係をやめる気はないという彼の意思が、嫌というほど伝わってくる。
「貰ってもたいして嬉しくもないようなもの、むりやり使おうとする必要ないだろ。あと、恋人やめたいとは言ったけど、お前の親友やめたいとまでは言ってないからな」
「でも親友やめたいって言われてるのとほぼ同じだから、むりやりだって使う必要はあんだよ。あと、一応言っておくけど、嬉しくないとは言ってないから」
 熱のない声だった。
 勉強机の椅子を引いて、向き合って話せるよう横向きに腰掛けて話していた相手が、ケースを手に立ち上がり、そのままベッドに腰掛けているこちらへ向かって歩いてくる。
 つり上がった眉も、キュっと引き結ばれた口も、まるで苛立ちを押さえ込んでいるようだった。だからこの後彼に何を言われたとしても、みっともなく泣いたりしないように、相手の怒りを受け止める覚悟を決めるしかない。
 相手はベッドヘッドの棚に置かれた目覚まし時計の隣にケースを置いた後、今にも肌が触れ合いそうなほどの近さで隣に腰を下ろした。
「使うってのとは違うかもだけど、取り敢えず、あそこ置いときゃ毎朝目に入る。中身は後で筆箱入れる」
 やっぱり何かを酷く押さえ込んだような声ではあったけれど、いきなり別れを切り出したこちらを、糾弾してくる気はまだないらしい。
「で?」
「で、って?」
「恋人やめたいってのは、好きって言ったりキスしたりだけじゃ不満だってことだろ? で、何したら恋人って満足すんの、って聞いてる」
 察しろとか無理っぽいんだけどと零しながら、相手は少し身を乗り出して、こちらの顔を覗き込んでくる。何かを探るような冷たい視線が痛くて、何かを見透かされてしまうのが怖くて、逃げるようにそっと顔を背けてしまう。
「キス以上のこと、すりゃいいの?」
「は?」
 驚いて背けた顔を戻した先、相手は真剣な目でこちらを見つめていた。冗談でも何でも無く、本気で言っているらしい。
「男同士でもセックス、できんだろ?」
「待て待て待て。するわけないだろ」
「なんで? 付き合ってからの期間考えたら、むしろ遅い方じゃね?」
 突っ込んだり突っ込まれたりは無理にしても、取り敢えず抜き合いくらいなら今すぐ出来そうだけどと言った相手は、いきなり股間に手を伸ばしてくる。
「ひぇっ」
 驚きすぎて妙な声を上げてしまえば、フッと息を吐くように笑れて、けれどそれによって相手の纏う空気が、ようやく少しばかり緩んだ気がした。
「や、ちょ、なっ、」
 もちろん握られた最初は全く反応なんてしていなかったけれど、確かめるようにグニグニ揉まれて、焦っているうちにそれはあっさり形を変えていく。
「出来そうだな。で、どうすんだよ」
「どうするって、何、が」
「このまましていいの? てか気持ち良くイカせてやったら、恋人やめるっての、撤回する気ある?」
「撤回、は、しない」
「なら、どうして欲しいのか、何したら満足すんのか、教える気になったら言って」
 それまで取り敢えず続きしとくと言いながら、股間に置いた手が再度動き出すから、慌ててその手首を押さえるように握った。
「やめろって」
「俺のポンコツな察し能力が、取り敢えず続けろって言ってる。ていうか、ホント、何していいかわかんねぇんだって。だから言えよ。なるべく、叶えてやるから」
「だから!」
 思わず叫んだ。
 違う。そうじゃない。何かをねだって、それを叶えて貰えば、満足できるって話じゃない。
 胸が軋んで痛い。怒りをぶつけられてるわけじゃないのに、結局、みっともなく泣いてしまいそうだった。

続きました→

 
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