無い物ねだりでままならない11

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「それでですね、話戻して確認したいんですけど、これって先輩が一人で使ってたヤツですか? それとも、先輩を抱いた男と今も付き合いが続いてて、そいつと使った残りとか言います?」
「うっ……」
 せっかくの柔らかな笑顔が固まってしまうのは惜しいが、どうしてもどうしてもどうしても、そこは確認せずに居られない。
「心狭いと言われようと、嫉妬深いと言われようと、独占欲強いと言われようと構わないんで。もし他の男と使った残りだって言うなら、俺、今からちょっと自宅戻って、先輩と使うためだけに買った新品取ってくるんで。だから正直に、教えて下さい」
 目の前で、先輩の頭がガクリと落ちた。畳の上に両手をついて、俯くというよりは項垂れてしまった先輩の目元は見えないが、耳は先どころか全体がはっきりと赤色に染まっている。
「せ、先輩!?」
「最後に抱かれたのは2年は前の話で、場所も、この部屋じゃない。というかこの部屋を使うのは、お前が初めてだ」
 慌ててしまったこちらと違って、先輩の声は思いの外落ち着いてはっきりとしていた。
「って、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが、俺は一体、何を言わされてるんだ?」
 恨みがましい、低く唸るような声が聞こえてきて、でもちっとも恐くもなければ、申し訳ないことをしたという気持ちもわかなかった。申し訳ないと思わないことが、少しだけ、申し訳ない気もするけれど。
 真っ赤になった耳が可愛くて、顔見せてくれないかな、なんてことばかりが頭の中を占めている。
「あー……羞恥プレイは苦手な感じですかね?」
「そういうのとは違うだろう?」
「そうですか? 先輩可愛くて、ちょっと目覚めそうなんですけど」
「勘弁してくれ」
「じゃあ、俺の懸念が晴れたところで、そろそろ始めていいですか? それとも先輩も、何か聞いておきたいこととか確かめておきたいこと、あります? あ、ご存知だと思いますが、俺は恋人居ない歴がそのまま童貞歴なんですけど、主導権って俺が貰っていいんですかね? 先輩がリードしてくれるなら、それはそれで興味なくはないんですけど」
 いつものノリでペラペラと話してしまっているが、先輩は頭を下げたままなので、どう始めていいかも実のところよくわからなかった。開封済みのローションやゴムの箱にこだわって、ムードどころじゃない状況にしてしまったのは、間違いなく自分自身なのだけど。
 困ったなと思いながら一度口を閉ざせば、それを待っていたかのように先輩が口を開いた。
「確かめたいことが一つある」
「あ、はい。どうぞ」
「まだ、俺と恋人になりたい気持ちはあるのか?」
「え?」
「抱いた後、付き合ってくださいと大真面目にお願いする予定だと、言っていただろう?」
「言いましたね。もちろんそのつもりですが。というよりは、先輩を抱けることが証明できたら、付き合って貰えるんだと思ってるんですけど」
 違うんですかと問えば、そうなればいいと思っていたが、などと不穏な言葉が返って焦る。
「それって……」
 ようやく落ちていた頭を上げた先輩はなんだか泣きそうな顔をしていたから、どういう意味ですかと続けるはずだった言葉が、音にならずに口の中で消えてしまった。
「俺の初めての相手が、出会い系で知り合った男だと言ったら? しかも出会い系でそういう関係を持った相手は一人じゃないと言ったら?」
 そんな男だと知ってもまだ、恋人になりたいと言えるのか。とは続かなかったけれど、間違いなく、そういう意味の問いかけだろう。
「確かに先輩に抱いてたイメージからは想像つかない過去ですね。てか言わなきゃ先輩の過去のアレコレなんか探らないのに、なんで正直に話しちゃうんですか。辛い恋をして、恋人にはなれなかったけど抱いてもらうことは出来たんだ、とか言っとけば、絶対騙されたのに」
「お前がまっすぐで綺麗だから、抱かれたい側のゲイだなんて教えて、お前を惑わせたことを後悔してる。抱きたい可愛い恋人になりたいと、大真面目に言ってくれたことで俺はもう救われたから、お前の初めては俺なんかのために捨てないで、今はまだ取っておくといい」
「まさかそれ、セックスするのなしって言ってます?」
「そうだ」
「俺の恋人に、なってくれないんですか?」
「なれない」
 嘘だろと愕然とする。ここまできてこんな掌返しを食らうとは思わなかった。しかも、過去に出会い系で遊んでたから、なんていう理由で。

続きました→

 
 
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