無い物ねだりでままならない13

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 何度か唇を触れ合わせた後、伸ばした舌先で唇の隙間を突付けば、迎え入れるように口が開く。遠慮なく突っ込んだ舌で、相手の口の中を探る。
 相手の舌は最初戸惑うように縮こまっていたが、構わずに歯列をなぞって口蓋を舌先でくすぐっていたら、やがて応じるように伸びてきた。多分、しつこく口蓋を擦られるのが嫌だったんだろうと思う。そこが弱いというか、感じるらしいのは相手の反応からわかっていたから惜しい気もしたが、相手の舌を絡め取って舌先同士を擦り合わせるのも充分に楽しくて興奮する。だから、すぐにそちらに夢中になった。
 恋人居ない歴を重ねた童貞ではあるが、唇を触れ合わせる程度のキス経験ならある。けれどいわゆるディープキスは初めてだった。口の中を探る行為そのものも、相手の反応がしっかり返るのも、相手の粘膜と擦れる物理的な快感も、思っていたよりかなり善い。キスだけでもこんなに感じるんだ、という感動すらある。
 自分の体のことはもちろんわかっているが、相手はどうだろうか。小さな震えとか漏れる息とそれに交じる僅かな音から気持ちがいいのだろうことはわかるが、同じようにちゃんと勃起してくれているだろうか。
「んんっっ」
 確かめるように下肢へと伸ばした手で触れた股間の膨らみは、張り詰めて充分な硬さがある。良かった。
「ん……んぅっ、ふ、……ぁ……ぁっ、ま、……てっ」
 意識が分散して舌の動きは鈍ってしまったが、唇は未だ合わせたまま、服の上から軽く握って何度も擦り上げれば、とうとう相手の手が肩を掴んで引き剥がされてしまった。
 体格差があるので力で抑え込めるわけがないのはわかっている。なので、力が掛かるままに覆いかぶさっていた体を持ち上げた。
 見下ろす先、さっきよりもずっと目元を赤くした先輩が熱に潤んだ瞳で見上げてくるので、可愛いと思いながらニコリと笑っておく。
「キスって、こんな気持ぃんですね」
 先輩も気持ちよさそうで良かったと言いながら、引き剥がされる時に離してしまったペニスにまた手を伸ばそうとしたが、その手は先輩の手に捕まってしまって目的の場所までたどり着けなかった。
「ちんこ触られるの、嫌でした?」
「いや、っていうか……」
「あ、先輩も俺の、触ります?」
 先輩の視線がこちらの股間に向かっていたので、こちらの手を掴んでいる手を逆の手で掴み直して、自分の股間へと導いた。先輩と違ってこちらは素っ裸で剥き出しだけど、さっき触っても萎えないか確かめたいと言っていたのだから、直接触ることに抵抗なんて無いだろう。
 さっきと違って今はもう、触られても萎えない自信がある。
「ははっ、先輩の手、気持ちぃ。ね、ほら、ちっとも萎えない」
 あっさりこちらの手を離して、先輩は誘導されるままその大きな手でこちらの勃起ペニスをそっと握り込む。自分の手とは全然違う感触も、自分の意志を無視して勝手に与えられる刺激も、腰の奥が重くしびれるような気持ちよさだった。
「んっ、ふふ、手付きえっろ。それ、ヤバい、す。めちゃ気持ちぃ。ね、……」
 俺も先輩の直接触ってもいいですか、と続けるはずだったが、先輩の喉がコクリと上下したのが見えてしまって続く言葉を飲み込んだ。
 先輩の手は、快感に溢れる先走りを先端からすくい取って鬼頭にくるくると伸ばしていて、その目はその指先と、快感に震えて小さく開閉する先端の穴やそこからとめどなく溢れてくる透明な雫に釘付けで、こちらの視線には気づいてないらしい。
 何かを言おうと躊躇ってか、口元をモゴモゴと動かす先輩の唇に手を伸ばして指先で触れた。
「ぁ……」
 ビックリした様子で慌てて視線をこちらに向けた先輩の顔は気まずそうだ。ペニスを凝視しすぎていた自覚があるんだろう。そんなの、気にしなくっていいのに。
「舐めて、くれるんです?」
「そ、んな……」
「違いました?」
 再度驚いた様子で目を見張った先輩の顎を軽く掴んで顔を寄せる。深くはせずにチュッと軽い音を立てるように一度吸い付いた後、顔を寄せたまま、舐めたいって言いたくて言えないみたいな顔だったんですけどと言ってみれば、掴んだ顎の手を振り切って、嫌がるように顔を背けられてしまった。
 嫌がるというか、多分、指摘が恥ずかしかっただけなんだろうけど。ただ、顔を背けた先輩は口を閉ざしたまま、なんだか緊張をはらんだ様子で身を固くしている。
 抱かれた経験があると言う割に、なんでこんなに余裕がないんだろう。童貞の自分の方こそもっと余裕をなくして、先輩に翻弄されるセックスになるかと思ってたんだけど。
「舐めたいって言い出せない先輩可愛い、って思ってたんですけど。俺の勘違いだったならごめんなさい」
 怒ってないのはわかっていたけれど、怒らないでと言いながらそっと頭をなでれば、観念した様子で先輩がこちらに向き直り口を開いた。
「勘違いじゃ、ない」
「うん。言っていいのに、躊躇っちゃうの可愛いですね。俺が嫌がるかもって思いました?」
 嬉しいだけですよと、なるべく優しい声になるように気をつけながら告げる。
「して、くれます?」
「うまく、出来る自信が、ない」
「え、そんな理由で躊躇ってたんです? 先輩がフェラ下手くそだったら、俺はむしろ嬉しいんですけど」
「嬉しい?」
「だって上手だったら誰に教わったんだろって嫉妬しそうですもん。俺、どうやらめちゃくちゃ独占欲強くて嫉妬深いんですよ。これ、先輩のおかげで最近知ったんですけどね。だからこの口で、気持ちよくしてあげた男なんて、少ないほうが、断然、嬉しいんです」
 断然を強調して告げた後、呆れてもいいですよと笑ってやれば、先輩も釣られたように少し笑った。どうやら緊張はほぐれたみたいだ。

続きました→

 
 
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