まるで呪いのような16

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 彼が自分の前で泣くのは何年ぶりだろう。恋人止めたいって持ちかけた先日だって、みっともなくグズグズ泣いていたのは自分だけで、何度か泣きそうだとか泣いてるみたいだと思うような顔は見たけれど、結局彼が本当に涙を流すことはなかった。
 どうにもならない学年差に不機嫌な様子はよく見せたけれど、子供の癇癪で怒って泣き叫ぶような姿を見せていたのはせいぜい小学校低学年くらいまでな気がする。その後も時折、悔し泣きのような姿は見てきたけれど、辛いとか苦しいとか悲しいとか、そんな感情が漏れてくるような泣き姿は見た記憶がない。こんな風に泣く彼を、今日、初めて知った。
 あの日はゴメンって言われても、放さないからなって宣言されてるみたいな感じで、縋られてるような気にはならなかったけれど、これは確かに、放さないでくれと必死に縋られているようにしか感じない。
 じゃあ彼は、こんな風に何度もゴメンと繰り返しこちらをがんじがらめに捕まえながら、次の手とやらを考えているんだろうか?
 だったらいいな。なんて思っている自分がおかしくて、ついついクフッと笑いを漏らしてしまったら、腕の中の体がビクついた。なんだかますます愉快な気分になって、クスクスと笑い続けてしまう。
「お゛い゛っ」
 耳の横で唸るように響いた不機嫌丸出しの酷い声に、また少し笑ってしまった。
「お前さ、こういうの、もっと見せなよ」
「な゛、んでっ」
「お前が泣いて謝りながら、お願いだから放さないでって縋られるの、悪くない。執着されてるってより、必要とされてるみたいでちょっと嬉しい。で、ゴメンの言葉で俺を縛り付けて、その間にお前は次のどんな手考えてんの?」
「おまえっ、ほんっと、もう、クッソ悔しいぃぃっっ」
 抱きしめる腕を跳ね除けるようにガバリと起き上がった相手は、袖口で涙をゴシゴシ拭った後、すっかり強気な顔で仕切り直すと宣言した。泣いた目だけは真っ赤なままだったけれど。
「仕切り直すって、何を?」
「セックス」
「は?」
「まさかお前があんなネタで抜いてるとか思ってなかったってのもあるけど、お前に噛み付くの止められない自分にもビックリした。から、優しくする努力も甘やかす努力もするし、お前にいっぱい好きって言って色んなとこキスして抱きしめるから、笑わすの無理で泣かすと思うけど、抱かせて」
「え、ちょ、なんで」
 今までこちらがして欲しいこと優先みたいな態度を一切崩さず、求められてる気がちっともしないと思わせてきた彼の口から、まさか抱かせてなんて言葉が出てくるとは思わず驚いた。
「だから、お前に噛み付くの止められなかったから」
「なぁ、お前が俺に噛み付く理由って、結局なんだったわけ? お前、妄想の中でも俺に噛み付いてんの? で、噛みつかれる俺はそれに感じたりしてたの?」
 もっと強く噛んで泣かしてもいいよって言ってああなったんだから、きっと妄想の中でも泣かされてはいないだろう。
「噛み付いてるし感じてるけど」
「マジかよ。ムリだろ、普通に考えて」
「ただの妄想なんで」
「だよな。つか、だったら痛がってるだけなんだからヤメロ……って、ああ、止められないのか……」
 優しいのと甘ったるいのの中に噛まれて痛いのが混ざるの、ホント気が散るどころじゃないから、出来れば止めて欲しいんだけど。でも、止められないならそれも受け入れてくしかないのかもしれない。慣れるようなものかはわからないけど、彼は自分を噛みたいんだって思えば、まぁ耐えられなくもないだろう。
 なんてこちらは噛まれる前提での覚悟を固めようとしているのに、相手はだから抱かせてって言ってんだろと言ってくる。そういうのは、もう少しわかりやすく理由も一緒に言って欲しい。
「俺を抱いたら、噛まなくなるようなもんなの?」
「多分」
「なんで?」
「お前に優しくしたいし感じさせたいし気持ち良くなって欲しいのに、ぜんぜんそうならないどころかお前どんどん冷めてくし、お前がもう止めて欲しいって思ってるから、だったらこのまま犯してやろうかって思っちまうことがあって、まぁ、つまり、俺は思ったよりずっとお前を抱きたいみたいだった」
「待て待て待て。サラッと犯すとか言ったぞ、今」
「な、ホント、噛むだけで済んで良かったよな」
「なんだそれっ」
 この後も彼との微妙に噛み合わない会話を続けた結果というか、多分あまりはっきりと言いたくなかったらしい彼の気持ちを根気よく引きずり出した結果、ようやく、彼があんなにガブガブやってたのは犯したいって衝動を堪えるためだったことと、噛むだけで済まずに本気で襲ってしまう前に抱かせて欲しいって話なんだと理解した。

続きました→

 
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