生きる喜びおすそ分け10

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 いっぱいセックスがしたいなんて言ったからか、こちらの好奇心を刺激するためか、未知のものへ触れた時の興奮を期待してか、ここぞって時の一回だからこそなのか、連れて行かれたのは随分と豪勢な宿だった。なんせ、源泉かけ流しのお風呂が、いわゆる内風呂と部屋からつながったデッキに半露天風呂と庭に露天風呂と、なぜか三つも付いている。ちょっと意味がわからない。
 過去に何人か恋人という関係になった女性がいるけれど、半分くらいはセックス目当てだとしても、当然ながらデート先としてここまでの宿を選んだことはない。さすがに値段を検索したりはしなかったけれど、割り勘だとしても躊躇するだろう値段が付いていそうな気がする。
 それをポンと出して来れるというのが、生きがいを持たない無趣味な男が積み重ねた経済力だ。というのはこれまでの付き合いでヒシヒシと感じていたりもするけれど、そんな大金を掛けるだけの価値が、この交際にあるのかどうか本当に疑問だった。
 隣接した部屋に声が響いてしまったら、なんて心配がないように。という意味で離れのある宿を探したと言われたから、本当にセックスするために用意された部屋なんだと思うと、ラブホとは全然違う広々とした和洋室で、ベッドだってちゃんと二つ用意されているのに、どうにもいかがわしい雰囲気を感じてしまってソワソワする。
 いくら目的がセックスだったとして、相手はこちらの反応を楽しんでいる部分が少なからずあるのだから、もっと盛大に驚いたり感動したり、いっそ部屋の探検でも始めたほうがいいんじゃないかとすら思うのに、気持ちがこの宿を楽しむという方向に集中できない。
 宿の入口を通った辺りが多分最高潮だった興奮は、施設の説明やらを終えた中居さんが下がって、とうとう二人きりになる頃にはすっかり霧散して、残っているのは気まずい緊張ばかりだった。
「そう構えなくても」
 困ったような顔をされてなんだか申し訳ない。
「この宿、楽しめそうにない? 部屋に入った辺りはそれなりに感動してくれてたみたいだったけど、何か、気になる所でも見つけちゃった?」
「あー、いえ、落ち着くほどに、セックス目的なのにこんな豪華な部屋用意されてどうしよう、みたいな気持ちになっちゃって……」
「ああ、うん、それはね。なるべく希望通りセックス漬けにしてあげたいけど、ずっとやり続けられるような精力も体力も絶対ないからさ。お風呂のバリエーションとオーシャンビューな景色と美味しいご飯でごまかされて欲しいなぁ、という保険的な発想も入ってるから」
 部屋に三つもお風呂あるって、わけわかんないというか、なかなか面白いよね。なんて言われて、相手も似たようなことを感じているんだと思って、なんだか笑えてくる。そして笑ったら、緊張も多少は解れたようだった。
「部屋の豪華さって、保険、なんですね」
「そう。今はまだ部屋にまで関心が向いてないみたいだけど、余裕出てきたら、君ならこの部屋も充分に堪能してくれると思ってる。だから取り敢えず、セックスしてみようか」
「ド直球ですね」
「お預け食らってんだからいっぱいセックスして、ってお願いも、なかなか赤裸々だったけど」
「もっかい言いますけど、期待、してますから」
「じゃあ俺ももう一度言うけど、その期待に応えられるかはともかく、善処はするよ。てわけで、この前みたいに準備をしておいで」
 促されて頷き立ち上がった。ただ前回もそうだったけれど、どうしたって体の中を洗うというのは時間が掛かる。
 準備を終えてベッドの置かれたスペースへ向かえば、そこにはどう見たって湯上がりの相手がいて、どうやら自分が使っていた内風呂とは別の、どちらかの露天風呂に入ってきたらしい。

続きました→

内風呂と露天風呂と合わせて3つのお風呂が付いた離れのある宿として、こちらのお宿を参考にさせてもらいました。めっちゃ行ってみたい。→ 伊東遊季亭 川奈別邸

 
 
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