馬鹿なこと言ってんなと憤るこちらと、へらへら笑いながらもテンション高く応じる相手とを残して、姉とその友人たちはさっさと帰ってしまった。というか妙な気を使われたのがありありとわかる退散の仕方に、いざ二人きりとなったら妙に気まずい。
なんせ目の前には育った初恋相手が渾身のドレス姿で立ったままなのだから。
双方が初恋相手なのは事実だけれど、それは双方が相手を異性と思っていたからで、今現在は間違いなくただの友人なのに。
けれどふと、あの夏の花火大会の夜、どっちかが女の子じゃなくても付き合いたいと思ってると、途方に暮れた困った顔で告げられたことを思い出してしまう。忘れていいと言われたし、相手もちょいちょい怪しい言動を見せつつもあの件には一切触れなかったし、だからこちらもなるべく思い出さないように気をつけていたけれど、でも、本当に忘れ去るなんてどだい無理な話だ。
これまでもふとした瞬間に何度も思い出してはいたが、今この瞬間には、出来れば思い出さずにいたかった。
そっと視線をそらしながら、深いため息とともに部屋の壁に沿って腰を下ろす。普段なら出ているローテーブルやクッション類は、ドレスを着るのに邪魔だったのか片付けられていて見当たらない。
「あ、クッション出す?」
「いや、別にいいわ」
「てかやっぱ結構意識されてる?」
言いながら近づいてきた相手が、ほぼ真正面にすっと腰を落とすから、そんな指摘をされてもまっすぐに見返すのが難しい。否定の声があげられない。
「ん、っふふ」
そんなこちらに相手が堪えきれなかったらしい笑いをこぼしている。なんとか舌打ちは堪えたけれど、どうしても、口を開く気にはなれなかった。
「前にさ、今の俺がドレス似合っても惚れ直したりしないし、付き合わないって言ったの、覚えてる?」
「今もそう思ってる」
妙にウキウキとした声にイラッとするものの、さすがに黙り続けるのは良くないかと、苦々しい気持ちで口を開く。
「嘘つき」
「お前がそこまで化けたのは想定外だし、姉貴はつくづく俺の好みを良くわかってると思うけど、でも、それでお前と付き合うとかって話にはならないだろ」
「なんで?」
「可愛い服とそれが似合うプリンセスを眺めるのが好きなだけで、別に恋愛したいわけじゃないから。プリンセスが好きだからって、自分が王子になりたいわけじゃない」
「まぁ俺も、本気でお前に王子様になって欲しいわけじゃないけど」
「ならあんまり俺をからかうなよ」
ホッと息を吐き出したけれど、それを咎めるように、そんな簡単に安心しないでよと声が掛かった。
「んなの、安心するに決まってんだろ」
こちらの反応を面白がってからかわれてるだけなら、腹は立つけどそれだけだ。惚れてるだの付き合いたいだの私の王子様だのを本気で言われる方が困るのだから、安心するのは当然だろう。
「王子になって欲しいと思ってないだけで、付き合いたいとは思ってるし、この格好、思った以上に効いてるっぽいなとも思ってるし、今、めちゃくちゃチャンスとも認識してる」
だからこっち向いてよと、甘く誘う。ただし、声が作りきれていないというか、堪えきれなかったらしい笑いが含まれ声が揺れている。
「どこまで本気で言ってんだそれ。声、笑ってんぞ」
「んー、どこまで本気だと思う?」
「おいっ!」
ふざけんのもいい加減にしろよと、そらしていた顔を相手に向けたのは失敗だった。
とろけるみたいに嬉しそうな顔で見つめられていて、とたんに心臓が大きく跳ねてしまう。頭に血が上っていくような気がして、顔も熱くなる。
「かっわいいなぁ。そんな顔されたら、期待するのも仕方無くない?」
何言ってんだと言い放つはずだった口はあっさり塞がれて、しかも開きかけた口の中に相手の舌が容赦なく侵入してくる。口の中をくちゅくちゅと掻き回されて、それが不快どころか気持ちがいいから困ってしまう。
今度はもう、キャーキャー騒ぐ声もスマホのカメラのシャッター音もなく、相手を突き放すタイミングを完全に逸していた。
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