可愛いが好きで何が悪い19

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 その格好で言うのはズルい、という気持ちは正直言えばある。今その話を持ち出すのかよと身構える気持ちもだ。
「その彼女のこと、抱いた?」
 けれどそんなこちらの警戒にはどうやら気づいていないらしい。もしくは、気づいていての続行だろうか。
「なんでそんなのお前に教える必要があるんだよ」
「てかはぐらかされたけど、さっきのキスがマジでファーストキスだったりする?」
「んなわけあるか」
「じゃあやっぱ非童貞?」
「ノーコメントで。つかさっき自分が何言ったか覚えてねぇの?」
「さっき? ってどれ?」
「俺と間接セックスするために寝取るのが有りってやつ」
「あー……お前に抱かれたことある過去の彼女探し出して、間接セックス?」
「そう」
 高校時代にいた彼女の話は当然姉から情報だろう。何度か家に呼んだから姉とも面識があって、確か、初彼女を姉が面白がって連絡先を交換していたような記憶がある。
 こいつがその気になれば、相手の特定はそう難しくもないだろう。
「それは、別れても元カノは大事、ってこと?」
「俺のせいでお前の毒牙に掛かるのは阻止したい、って程度にはな」
 別に啀み合って別れたわけじゃないのだから当然だ。受験やらですれ違いが増えたところに進学先が物理的にそこそこ離れたのが主な原因で、別れを言いだしたのは相手側ではあったが、進学後は夢の国通いが出来ると浮かれていたから、こちらとしても渡りに船だった。
「なら、嘘でも童貞だって言っとけば良かったんじゃないの。本気で相手のこと、守りたいって思うならさ」
「一生隠し通せる嘘以外はつかない。がモットーだから」
 まぁそれも嘘ではないんだけど、どちらかというと、経験がないと言ったら相手が喜びそうだからという理由のが大きい。
 そんな嘘で喜ばせた後、嘘だと知られる方がヤバい気がする。ヤバいと言うか、そんなことで落胆させたくはない。
 そう思う程度には、目の前の相手のことだって大事に思っている。
「らしい、とか思っちゃうのがなんか悔しいな。あと、童貞なら俺で童貞卒業しない? って誘おうと思ってたのに、残念」
「は? お前、俺に抱かれたい側?」
「いや、抱きたい側だけど」
 てっきり逆だと思っていた。と思ったら、即座に否定されて意味がわからない。
「童貞卒業させるって、お前が抱かれる側になるって意味じゃないのか?」
「本当に童貞なら、童貞貰うために一回は抱かれてもいい。くらいの気持ちかな。正直、抱かれる側で気持ちよくさせてあげられる自信がないっていうか、俺が抱く側やったほうが気持ちよくしてあげれそう」
 嫌な自信だ。と思ったまま口に出せば、過去はどうしたって変えられないからねと返ってくる。
「貞操守り通してまっさら未経験のピュアっピュアな体だったら、初恋効果でワンチャン男でも恋愛対象になれてたかもとは思うけど、再会前に汚れきっちゃったからさ。じゃあもう、その経験を活かしていい思いしてもらうしかないなって思って」
 へらりと笑った顔は自虐気味ではあるものの、もう、泣きそうではなかった。なのに今度はこちらが泣きそうだ。
 そんな顔をさせたくなかった。汚れきったなんて言って欲しくなかった。
「お前にはお前の事情があったろ。今はもう、下半身だらしないなんて思ってない。お前自身がさっき、今は全部断れてるって、言ってただろうが」
「でも、俺に事情があれば、過去のあれこれがチャラになるわけでも、お前の恋愛対象になれるわけでもないじゃん。てか地味目で真面目な子がタイプなんでしょ?」
 元カノの情報を得ているなら、その子がどんな子だったかだって、知っていても不思議はない。
 そこそこの人数で遊びに行った際に迷子を保護してしまって、自分だけ抜けて迷子を送ろうとしたら一緒に行くと言って付き添ってくれた、委員長タイプの女子だった。子供が好きだそうで、迷子を保護する手際を褒められたし、交際のきっかけは間違いなくそれだ。
 地味だと思ったことはないが、確かにふわふわドレスが似合いそうだと思ったこともない。でも頼りになるところもある落ち着いた性格は、間違いなく好きだった。
 さすがに可愛いものやプリンセスが好きだという趣味は教えていなかったのだけれど、もしこの趣味を許容すると言われていたら、あっさり別れを受け入れるのではなく、もうちょっと続けるための模索や努力をしたかも知れない。
 そんな元カノと目の前の彼とでは、見た目も中身もだいぶ違う。
「どう頑張っても全然当てはまらないんだから、お前好みになれるように頑張るより、いっそ過去の経験を武器にするくらいのがまだチャンスありそうじゃない?」
 別に自分を卑下してるわけでも過去を後悔してるわけでもなくて、前向きに考えた結果なんだけどと言いながら、相手の手が頭の上に伸びてくる。
「そんな顔しないでよ」
 いったいどんな顔をしてるっていうんだ。
 ゆるっと頭を撫でられたが、それを聞く気にはなれなかった。

続きました→

 
 
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