可愛いが好きで何が悪い2

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 全く意味がわからないまま、散々、酷いとか夢がどうとか男だなんて聞いてないと言われまくったあと、ようやく気が済んだらしい相手が、気まずそうな顔をして「あのときはありがとう」と言った。ずっとお礼が言えなかったことを気にしていたらしい。
「てか、何の話?」
「ちょっ……だからぁ、これ、俺なんだけど!?」
 再度スマホの中の写真を突きつけられて、引き寄せられるように凝視する。ほんと、可愛い。まじプリンセス。
 どうせなら全身見えるショットが見たかったと思いながら、他にもないのと聞いてみる。
「他?」
「他の写真、ない? できれば全身写ってるやつ見たい」
「あー……」
 呆れたような声を出しながらもスマホを弄った相手が、まさに望んでいた通りの画像を差し出してくる。
「これでいい?」
「うっわ、かっわいい」
「だっろ」
 あの日出会ったリトルプリンセスそのままの姿に思わず感嘆の声が漏れれば、自慢気に同意されてしまった。
「てかこれがお前とか絶対ウソ」
「おい、失礼だな。俺は今でも充分に美形だぞ」
 別にそれは否定しないけど、でもそういうことじゃなく。というかナルシストっぷりが酷いな。
「いやだって、これがこう成長するとか詐欺じゃん。てか髪の色違うし。目の色もちょっと違う気がする」
「成長したら全体的に色素濃くなったんだよ。でも面影あるだろ。目元とか、口元とか、耳とか鼻の形とか!」
 よく見ろと顔を寄せられて、慌ててのけぞって逃げた。
「必死か!」
「いやだって、これが俺って認められなかったら、話進まないし」
「あー、うん、じゃあ取り敢えずそのテイでいいから話すすめて」
「すげぇ引っかかる言い方なんだけど」
「そりゃ信じたくないし」
「はぁ、もういいわ。じゃあ話進めるけど、この格好した昔の俺のこと、助けてくれたよな?」
「夢の国で?」
「そう」
 昨日迷子の女の子に声を掛けていたのを、どうやら見ていたらしい。そして躊躇いなく助けに走った姿に、もしかしてと思ったようだ。
「やっぱ俺、助けてた?」
「やっぱってなに」
「俺はプリンセスを助けたつもりだったけど、周りからすると、俺は突然知らない男に蹴りいれたクソガキで、あのあとしこたま怒られたんだよな。助けたはずのプリンセス、男がコケて俺に怒鳴ってる間に居なくなってたし、男もそんな女の子知らないとか言いやがったし」
 遠い記憶にあるのは、泣きそうにうろつくめちゃくちゃ可愛い小さなプリンセスと、それに声を掛けたおっさんと、嫌そうに手を振りほどこうとする女の子を助けようととっさに飛び蹴りをかました自分だ。でも衝撃で転んだ男が何しやがると喚いている間にそのプリンセスは消えていて、男自身もそんな子は知らないと言ったので、自分が悪者になったという残念過ぎる結果になった。
 それが嫌な思い出としてではなく、未だにそこそこはっきりと記憶に残っているのは、その助けたはずのプリンセスに思いっきり気持ちを持っていかれていたせいだ。初恋で、ひらひらドレスのプリンセスを大好きになったきっかけも、間違いなく彼女だった。
「だから俺、もしかしたらこの子は実在してないかもって思ってた。実は、園に居着いてる幽霊とかなら、また会えないかなとかも思ってた。そっか、実在してたのか」
「その、あのときは逃げて、ごめん」
「なんで逃げたの?」
「びっくりしたのと、怖かったから。変なのに声かけられたら、とにかくすき見て逃げろ離れろって教わってたのもあって。でも、あとになって、俺の代わりにあの子がひどい目にあったかもってずっと逃げたの後悔してた。助けてくれたの女の子だと思ってたし、俺は本当は男なのに、女の子身代わりにして逃げたんだって。まさか、俺同様の女装っ子とは思ってなかったし。あ、でも、自分が女装してなかったら、あの勇ましい女の子が実は男の子だった可能性には気づかなかったかも」
 やっぱり親に無理やり着せられてた系かと聞かれて、それは曖昧に濁しておいた。いわゆるコスプレ可能日で、提案してきたのは確かに親だが、嬉々としてひらひらドレスを纏ったのは自分の意志だ。
「まぁ助けてくれたのが男の子だったとしても、逃げていい場面じゃなかったよな」
 それはどうかな。とにかくすき見て逃げろ離れろと教えた周りは正解だったんじゃないかとも思う。だって一目惚れを体験させてくれたほどの可愛さだし、変なのに目をつけられる機会もきっと多かったに違いない。
 でもそれを言ったらまたドヤられそうな気がしてやめておく。自慢気に過去の可愛さを誇られるのはなんだか腹立たしいからだ。
 なので話題を変えてしまう。
「なぁ、逃げて悪かったって思ってんなら、この写真俺にも頂戴」
「え?」
「ダメか?」
「うーん……まぁ、悪用しない、なら」
「悪用って?」
「ネットに流したり、あとはほら、オカズにしたりとか?」
 ネットになんか流さないから安心しろと言う前に、続いた言葉にギョッとする。
「するかよ馬鹿っ! 俺のプリンセスを汚すんじゃねぇ」
「ちょ、俺のプリンセスって何!?」
「この子、俺の初恋だった。今、思いっきり砕け散ったけど」
 あの日の話がすんなり通じていることを思えば、目の前の男があの子の成長した姿だってのは嘘ではないんだろう。
 たとえ初恋の可愛いあの子が想像通りに成長していたって、その子と恋愛したいだとかを思っていたわけじゃないから、失恋したとは言わないけれど。でも淡い初恋の思い出が、確実にヒビ割れたとは思う。
「え、え、じゃあ、俺にもあの日のお前の写真くれたりすんの?」
「なんでだよ!」
 食い気味に写真を欲しがられて、なぜそうなるという気持ちのままに声を荒げた。
「だって俺も、多分、あの女の子が初恋だから」
「はぁ!? 目ぇ腐ってんじゃねぇの」
「ひっど! てかなんで?」
「だってあれが本当にお前だってなら、俺なんかより、鏡に映った自分のがよっぽど可愛いだろ?」
「そりゃ見た目で言えば俺のが絶対可愛いけど、でもあの子、俺のヒーローだし」
 こちらから言いだしたことだし、ただの事実だし、自分の美貌に自信があって何よりだとは思うが、でもやっぱり微妙に腹が立つなと思う。ただ、反応したのは最後の部分だった。
「ヒーロー……?」
「あー……俺が正義感強い活発な女の子がタイプなの、絶対お前のせいだから」
「だったら俺は、お前のせいでひらひらドレスのプリンセスが大好きなんだけど?」
「ああ、一人で遊びに行っちゃうほど?」
「年パス買った」
「なるほど重症」
「うるせぇ。あ、あんま言いふらすなよ。てか昨日一緒にいたのって学科同じ奴ら?」
「いや、高校からの友人。持ち上がりだから大学一緒だけど学科は違う」
「そっか」
 あれが学科の連中なら、一人で遊びに行ってるイタイ奴扱いになるかと思っていたが、ひとまずそれは回避できただろうか。
「で、写真の話に戻るけどさ、そっちの写真くれるなら俺の写真も渡すことにする」
「悪かったと思ってるなら写真くれ、って話だったはずだけど」
「お詫びは何が別のもの考える」
 写真は絶対欲しいから譲れないと言い張るので、物好きだなと思いながらも仕方なく了承する。親に言えば、あの日の自分の写真は手に入るだろう。

続きました→

 
 
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「可愛いが好きで何が悪い2」への2件のフィードバック

  1. 前回の冒頭部、受けくんが迷子の女の子を助けるシーンのスマートさに一目惚れしてしまいました。不審者からさくっと女の子を助けるあたり、ただ者じゃないな…と思ってたら、彼はちっちゃい頃からヒーローやってたんですね。プロというか、筋金入りですね(笑)。

    女装子×女装子というのも新鮮……! 私は人の顔を認識するのが苦手なので(髪型が変わっただけでわからない……笑)、攻めくん、よく気づいたなぁ! となりました。それだけ受けくんの表情やら態度やらがくっきり印象に残っていたんですね。名前で呼び止めるあたり、以前から気になっていたのかな?

    なかなかコメントできずにおりますが、いつも楽しみに拝見しています(最近はまとめて読ませていただくことのほうが多くなっていますが…)。
    「雷が怖いので」今も大好きで定期的に読み返しております。
    今回のお話の続きも楽しみにしています〜〜!

  2. お久しぶりです!
    お忙しい中、それでも読みに来てくださってるようでありがとうございます。
    コメントはいただければもちろん嬉しいですし、好き作品を読み返してると言われると本当にありがたいなと思うのですが、コメントを送らなきゃなどと思う必要はないので、あまり気になさらずに少しでも楽しんでいっていただければと思います☺️

    今回の話は昔迷子助けた側と助けられた側でというところからスタートしてて、最初は雑談で、初恋は昔助けた迷子だと話してたら似たような経験を逆側で体験してた相手がいて、そこからお互いが初恋相手だって気づくみたいな展開になるはずだったんですが、女装攻め要素を足した結果、園内でばったりという始まりになりました。
    多分次回触れると思うんですけど、受けは面影残して成長してて、攻めは元々気にしつつ、姉か妹がいたりしないかなぁと思ってたんじゃないかと思います。
    名前もしっかり知ってたし、絶対、元々気になる存在だったんだろうなと。それが園内で迷子助けてるのをみて、本人の可能性に気づいてしまって、しかもそれが当たりでショック受けてます。
    初恋プリンセスと恋人になりたいとまでは思ってなかった受けと違って、自分の容姿その他に自信ありな攻めは、初恋相手見つけたら恋人に立候補する気満々だったはずなので。笑。

    いつもどおりぼやっとした設定しかないままいきあたりばったり創作なので、今後の展開がどうなるかは私自身わかってませんが、一応H済み恋人エンドまで持っていく気持ちだけはあるので、今回もどうぞよろしくお付き合いください。

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