悪い男に付け込まれるよと苦笑いするその顔はどうみたってかなり可愛い女の子で、その顔がまたゆっくりと寄せられてくる。
抵抗はしなかった。
さっきも一度、もう好きにすればいいとヤケクソ気味に思ったのだけれど、それともまた違って、どうすればいいのかがわからないというのが正直な気持ちだった。もっと言うなら、受け入れたくないのに、拒否もしたくない。
好きだと言われたって、付き合いたいと言われたって、友人としてはともかく恋愛感情で好きだと思ったことはないし、やっぱり付き合いたいとまでは思えないのに。汚れきったと自嘲する相手の望みのない願いを、叶えてやりたい気持ちがある。
対象が自分でなければ、きっと、どうにかしてやりたいと協力していたとも思う。
このドレスは似合っているし、間違いなく好みのプリンセスではあるけれど、どちらかというと少し距離を置いたところから眺めていたい対象だ。隣に自分ではない王子が寄り添って、幸せそうに笑ってくれればそれでいい。自分はそれで満足するだろう。
なんで、よりによって自分なんだと、どうしても思ってしまう。彼の隣に並べるような、王子の器なんかじゃないのに。
わずかに離れては再度触れ合う唇。さっきと違って深いものにはならず、互いに相手を窺うみたいに、目も閉じずにただただ何度も繰り返されている。
相手が何を考えていて、このあとどうするのかはわからない。ただきっと、相手が引かなければ受け入れてしまう。何かを恐れるようにおずおずと触れては離れていく唇に、何かを恐れているくせに止まれないと言わんばかりに繰り返されているキスに、拒否はできないという気持ちが膨らんでいるのがわかるからだ。
ああ、もう、本当に困った。
そっと瞼を落とせば、一瞬の躊躇いの後で、相手の舌が口の中に入り込んでくる。
この場合、先へ進む引き金を引いたのは自分、ってことになるんだろうか。なんかもう、それでもいいような気がしていた。あまりに焦れったくこちらの様子を窺うのに、絆されたのかもしれない。
口の中を探られ舐め擦られても、やっぱり嫌悪感はないし気持ちがいい。応じるように差し出した舌を絡め取られ、相手の口に誘いこまれるのに従えば、ぢゅっと吸われて腰が痺れた。
「んんっっ、はぁ、ぁ」
鼻にかかった音とともに触れ合う唇の隙間から荒い息がこぼれて、相手に興奮を知らせてしまう。
さっきはあんなに躊躇いなく触れてきた手は、今度は少し迷っているようで、ゆるっと太ももをなで上げながら熱を持ち始めた中心へと近づいてくる。やっぱり酷く焦れったくて、急かすように腰が揺れてしまって恥ずかしい。
「んっ、ふ、ぅ……」
やっと触れて貰えた安堵と快感とで体がわずかに弛緩する。ずっと塞がれていた口が開放されて、相手が顔を離していく。でも閉じたままの目を開くことはしなかった。
羞恥で相手の顔なんて見られないと思っていたからだ。なのに、確かめるように熱を撫でる手が止まり、顔には相手の視線を強く感じて、耐えきれなかった。
開いた目に飛び込んできたのは、さっきみたいにうっとり笑う笑顔じゃなくて、すぐに酷く後悔する。胸の奥がキュッと絞られて痛い。
「ぁ……」
「ごめん、ね」
困った様子の悲しそうな微笑みに、大事なプリンセスにこんな顔をさせているのは誰だよという怒りと、情けなさがこみ上げる。こんな顔をさせているのは自分だと、わかっているからだ。
「あやまん、な」
自分自身へ向かうべき怒りが、声に乗ってしまった。つまりは八つ当たりで、ますます相手を傷つけた。
「うん。ありがとう」
無理やり笑ってみせたのがありありとわかって、ダメだと思うのに眉間に力がこもってしまう。
「だから、気持ちよくなって、ね」
よりいっそう作られた感の強い笑顔を見せて、相手の手が動き出す。もう躊躇いは捨てたらしい。
既にフロントボタンは外されていて、チャックもわずかに降ろされている。さっきはそこで中断されたからだ。
今度はあっさり全開にされて、さっさと下着の中からも取り出されてしまう。しかも。
「ちょ、ば、なに、を」
じっと見られながら数度扱かれた後、相手の頭がグッと下がっていく。
「あああっっ」
勢いよくパクリと相手の口の中に自身の熱を咥えこまれて嬌声が上がった。
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