可愛いが好きで何が悪い5

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 親から帰省を促す連絡が来るより先に、姉から大量のメッセージと1枚の画像が届いた。画像は彼のバイト先と思われる海の家を背景に、水着姿の彼の両脇に、同じく水着姿の姉とその友人らしき女性が腕を絡めるようにくっついていて、3人とも笑顔にピースで随分と楽しげだ。
 メッセージの内容はこんな王子と友達になったなんて知らなかったというもので、イケメンだの美形だのの単語を使わず、躊躇いなく王子と書き込んでいる辺りなんとも姉らしい。とは思うものの、全体的に随分とテンションが高い上にあれこれと非難めいてもいて、思わずため息がこぼれた。
 いわく、あんたが余計なことを言ってなければ私にもワンチャンあったかも、だそうで、状況はこちらが危惧していたのとは真逆の様相を呈している。そもそも、姉が友人らと遊びに行った先で見つけた王子だったそうで、どうやら出会いそのものは偶然だったようだ。
 ただ、声を掛けたのは彼の方からで、しかも、初っ端からこちらの名前を出して、もしかしてお姉さんじゃないかと聞いたというのだから、あいつの目はやはり何か特殊だと思う。男の自分は当然のことながら、姉だって、あの写真に並んでいた少女とはすぐに結びつかない程度の成長はしているはずだ。
 昔から知っている親戚やら近所のおばちゃんやらには、たしかに何度か似た姉弟と言われたことがあるけれど、今の自分を基準に姉と判断したとも思いにくい。今でも隣に並んで姉弟なんですと言えば血の繋がりくらいは感じられるかも知れないが、似てるなんて言われていたのは中学に入って背が伸びだす前くらいまでだったはずだ。
 一通り姉のメッセージを読んだあと、姉ではなく、彼に当てて短なメッセージを送る。
『下半身だらしないなんて言って悪かった』
 姉からの情報によると、友人にそう言われて反省したから、夏バイト中の誘惑には乗らないことにしているらしい。マジかよと思う気持ちと、本当に気にしているなら勢いで酷いことを言ってしまったという気持ちとが胸の中で混ざり合って、取り敢えず謝罪はしておこうという結論に達したからだ。
 彼にメッセージを送ったあと、姉にはあまり友人困らせるようなことはしないでくれと言うのと、昔話などでこっちの情報を相手に与えないでくれという2点を返したけれど、書きながらこれは多分意味がないお願いだと思ったとおりに、すぐさま、もう色々話しちゃったと悪びれもないメッセージが戻ってきた。ですよね。
 彼からは夜になって、女の子のお誘い断るのにいい口実になってるというメッセージと、にこにこ笑って親指を立てている猫っぽい動物のスタンプが送られてきた。やっぱりね。
 そのあと、お姉さんから色々お前の話聞けて凄く楽しかったと、やっぱりにこにこ笑ってバンザイする、同じ猫っぽい動物のスタンプが続いていたから、親指を下に向けた凶暴そうな顔つきの、なんだかよくわからないキャラのスタンプだけ返しておいた。

 そんな事前のやり取りがあったせいで、正直、あまり実家に戻りたくはなかった。けれど親どころか姉や彼からも帰省を促すメッセージが届いて、仕方なく、8月の半ばに実家へ向かった。
 姉はどうやら彼のバイトする海の家にそこそこの頻度で遊びに行っているらしく、送られてきた画像に比べて随分と肌が焼けている。健康的でいいじゃんと思ったが、本人的には結構気にしているらしい。まぁ、姉は今でもひらひらふわふわした可愛い服が好きなので、日焼けを気にするのもわからなくはないのだけど。
 でも、王子の誘惑には敵わなくてと続いた言葉にげんなりする。文字だけではなく音としても「王子」の単語を聞くとは思わなかった。
「なぁ、まさか本人相手にも王子とか呼んでんの?」
「呼んでる呼んでる。なんかね、最初は思わずって感じで言っちゃっただけなんだけど、向こうも面白がってというか気に入ってて? 最近は結構みんなから王子って呼ばれてるよ」
「嘘だろ」
「ホントほんと。てかあんたも海の家には遊びに行くんでしょ? だったらそう呼ばれてるとこ見れるんじゃない?」
「うわ〜行きたくない」
 友達がいがないだのと姉に批判されたけれど、王子と呼ばれてキラキラ笑顔を振りまいている彼を見たいとは、やはり欠片も思えない。
 しかし、翌日にはウキウキで誘ってくる姉に半ば引きずられるようにして、彼のバイト先へ向かうことになってしまった。

続きました→

 
 
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