可愛いが好きで何が悪い6

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 送られてきた写真には姉の他にもう一人女性が写っていたし、当然姉の友人も居るだろうとは思っていたが、その人数は思っていたより多かった。姉を含めて5人もの女性の中に、男は自分だけという状況に逃げ帰ろうかと思ったが、もちろんそんなことが許されるはずもない。
 ただすぐに、彼女らの目的は当然自分ではなく、すっかり王子扱いの彼でしかないことを思い知る。
 バイト先だという海の家に顔を出した瞬間から、周りのテンションが一気に上ったからだ。友人である自分への、客に対するものより数段気安い態度がお気に召したらしい。
 どうやら、自分が訪れることで、普段は聞けない話なども聞けるかも的な下心で集まったようだ。ますます馬鹿らしくはなったが、施設利用料や飲食代などは全部彼女らが負担してくれると言うので諦めて一日付き合った。
 なお、本当の狙いは休憩時間などでもっとプライベートな会話を聞けないかと思っていたようだが、その日はすこぶる天気が良かったせいで彼女らの目論見は半分以上外れたと思う。つまり、めちゃくちゃ賑わっていたのもあって、彼はろくな休憩時間が貰えなかった。
 せっかく久々に会ったんだろうから、仕事が終わるまで待って食事でも一緒にと誘えという訴えもあったが、さすがにそこまで付き合う気はない。彼の方も察していたのか、相手からもそんな誘いはなかった。
 帰り際、リベンジを目論む姉とその友人たちとには、二度と付き合わないと宣言しておく。
 5人ものお姉様がたに囲まれてハーレム気分が味わえたでしょう、などとも言われたが、自分なんてほぼほぼ眼中になかったのもわかっている。あそこまであからさまな王子狙いを見せておいて何を言うと鼻で笑って、切り捨てた。
 でもまぁ油断はできないと思ったとおりに、こちらに戻る前から約束していて彼が事前に休みを申請していたその日、当たり前みたいな顔をして姉が付いてこようとする。彼がその日に休みを貰っているという情報は姉も既に握っていたようで、一緒に遊びに行くんでしょと言い当てられてしまった。
「そうだけど、だからってついて来ようとすんのおかしいだろ!」
「ちょっとくらいいいじゃない。お金ならだすよ?」
 あんたの分も王子の分もとまで言い出すので、無茶を言っている自覚は多分あるんだろうとは思う。
「そういう問題じゃ。ってか、またあの4人も合流する気じゃないだろうな」
「するする。てか少しでいいから私達とお茶する時間作ってよ〜」
「ヤダって言ったろ。狙うなとは言わないけど、そういうのは俺抜きでやれってば」
「それはそれとして、やっぱバイト以外での顔も見ておきたいファン心理的なの、あるでしょ?」
「いや知らねぇって。てか待ち合わせに遅れるからもう行く。マジついてくんなよ」
 言い捨てて家を飛び出したが、こちらの言う事など聞きやしないでついてくる。最寄りの駅前というわかりやすい待ち合わせ場所にしてしまったのもあって、結局、相手の前に姉同伴で姿を見せる羽目になってしまった。
 こちらの姿を見て少し驚いたような顔を見せたのは一瞬で、すぐに状況は理解したんだろう。
「ちょっと予想はしてたけど、本当にお姉さんと一緒にくるとは思ってなかった」
 不満があるような顔ではないが、でも姉の前だから気を遣っている可能性もある。
「ごめん」
「まぁ来ちゃったものを追い返すのは可愛そうだし、いいけど」
「受け入れんなよ。お前が邪魔って言ったら帰るかもだぞ」
「それはほら、俺のキャラじゃないっていうか、ね」
「さすが王子!」
 にこっと姉に笑いかけるもんだから、姉がすっかり舞い上がって勝ち誇る。
「このあとどうする? お姉さん一緒で、コースは予定通り?」
「あー、」
「ねぇ、私だけなら、一日一緒に居ても良かったりする?」
 友人らが合流するらしいと言いかけたところで、姉が先に割り込んでくる。
「は? 合流するんじゃないのかよ。私らとお茶する時間作れって言ってたのは?」
「そうだけど、まだどこでとか決めてないし。2人に一緒していいなら、あとでレポート書いて提出すれば多分許される、はず」
「レポート……」
 彼とのプライベートな会話をレポート形式で纏めて友人らに配布する気だろうか。
「まさかと思うけど、レコーダーとか忍ばせてないよな? え、マジ?」
 姉の持つカバンを指さしたら焦った様子を見せたので、本気で引いた。
「てかキモい。だせ。預かる」
 姉のカバンに手を伸ばす自分と、取られまいと逃げる姉とを止めたのは、もちろんその場に居たもう一人だ。しかもなんだか楽しげに。
「笑うなよ」
「いやだって、羨ましくて」
「え、羨ましい? どこが?」
「一緒に海来たのもちょっと驚いたけど、仲いいよなぁって思って」
「あー、まぁ、俺の趣味否定しないどころかむしろ協力的だし。というか俺の趣味に影響与えた一人だしなぁ」
「ああ、そういえば聞いたかも。てかお前はお姉さんみたいに可愛い服着たいとかないの?」
 姉は今日もふわっとした感じの可愛い寄りなワンピースを着ている。夏の海通いですっかり日焼けしたことを気にしてか、せっかく「可愛い」服と言ってもらったのに、なんだか少し恥ずかしそうだ。
「俺が着てどうすんだよ。てか園児でもあの似合わなさだったんだぞ。キモいわ」
「似合うかと着たいかは別じゃない? あと、メイクとか立ち居振る舞いでだいぶ変わるものじゃない?」
「んー、姉貴と違って、俺は別に自分が可愛くなりたいわけじゃないしなぁ。ひらひらドレスとそれが似合うプリンセスが好きってだけで」
「なんだ、そうなのか」
「なんでそこでお前がちょっとがっかりするわけ?」
「そんなの、今のあんたに女装してみて欲しいからでしょ」
 プライベートな会話を盗み聞いてほくそ笑んでるのかと思いきや、姉が口を挟んでくる。しかもその内容が酷い。
「なんでだよ!」
「初恋相手の少女があんただったって聞いてるけど」
「聞いてんのかよ! てかこいつの目、絶対おかしいから!」
「ええ、ホント酷いな」
「てかなんか注目集まってきて辛いんだけど。もうやだ。早く移動したい」
 ただでさえ目立つ男とさえない男が、気合の入った可愛い服を着た女性一人を挟んで何やら言い合っている状況だということに気づいて、いたたまれなくなる。
「取り敢えず電車には乗ろうか。お姉さんの友達呼んでお茶するか、そのまま3人で観光するかは電車の中で決めよう」
 彼と違ってこちらは人の視線に晒されることになど慣れていないと気づいてくれたらしい。本気ですぐにでもこの場を離れたかったので、その提案には即座に頷いた。

続きました→

 
 
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