連続していくつもの花火が上がったあと、終了のアナウンスが流れてくる。別に急いではいないし少し人が引けるのを待つかと話しあっていたら、女性二人組に声を掛けられた。
どうやらこちらの会話が聞こえていたようで、急いでないならどこかでお茶でも的なお誘いだ。逆ナンって本当にあるんだなぁという気持ちの中に、でもきっと彼はこんなの慣れっこなんだろうなぁという気持ちがある。
どうせ彼女らの目的は彼だろうから、対応は任せたというつもりでチラッと隣の男に視線を流す。わかってると言わんばかりに一つ頷いた相手が、こちらの肩に腕を回しながらグッと頭を寄せてくる。
「ゴメン、俺たち今デート中だから」
なんで寄ってくるんだと思った矢先にそんな言葉が耳の近くで発されて、とっさに真横にある相手の頭に自らの頭を打ち付けた。
「痛って!」
ガンと鈍い音がして相手が痛みに声を上げたが、もちろんこちらだって相応の衝撃を受けている。ただ、そんな痛みはとりあえず後回しだ。
「ちょ、何言ってんだお前」
「いやいやいやそんな照れなくても」
「照れてるとかじゃなくて、断るにしてももっとマシな言い訳あったろ」
てっきり、下半身がだらしないと言われたのが悔しいから、暫く女の子のお誘いは受けるつもりが無い的な話をするんだと思っていた。
「えー、だって、さっきデート否定しなかったじゃん。お姉様方からのデート費用カンパ受け取ったじゃん」
「バイト代だろ、あんなの」
「え、酷い。俺はデートって信じてたのに」
大げさに嘆いて見せる姿が数時間前のファミレスでのやり取りを思い出させる。なんだかとても演技っぽい。
ただそれを指摘はしなかった。というよりは、彼とのやりとりがどうでも良くなった。
「わりぃ、見つけた。ちょっと行ってくる」
「え、え、ちょっ」
置いてかないでよの声を無視して、目的の場所へと急ぐ。といってもそう距離はなかったので、あっという間に迷子らしき兄妹の元へ辿り着いた。
「迷子か?」
「だったらなんだよ」
声をかければ兄らしき少年が背中に妹を庇うようにして睨んでくる。
「そう警戒すんな。迷子センターまで連れてってやるだけだ」
相手の警戒が少しでも解けるようにと、しっかりと腰を落として相手を軽く見上げた。
「迷子センター……」
「それとも迷子になったときはどうするか、親と既に決めてるか? 待ち合わせ場所とか」
聞けば首を横に振る。
「なら闇雲に探すより、迷子センターで待ってる方がいいと思うぞ」
「そうそう。このお兄ちゃん迷子ハンターだから安心して送ってもらうといいよ」
すっと隣に人がしゃがむ気配がして、追いかけてきたらしい連れの男が話に割り込んでくる。
「なんだ来たのか」
「置いてくなんて酷いよね。俺にもヒーローやらせてって言ったのに」
「ヒーローなの?」
反応したのは兄の背中に庇われていた幼女だった。ちょこっと顔を覗かせながらも視線は隣の男に釘付けだ。
「うーん、どっちかというと、ヒーローになりたい男、かなぁ。ね、俺に助けられて、俺をヒーローにしてくれる?」
「する! したい!」
イケメンのにっこり笑顔に陥落する幼女というものを目の当たりにしてしまい、内心複雑ではあったが、妹を守らなければと気張る少年相手に少々手こずるかとも思っていたので、妹をその気にさせてくれたのはありがたい。
「ね、おにーちゃん、いいでしょ?」
「マジかよ。てか本当に信じていいんだな? って、おいっ」
兄の方は未だ警戒気味だけれど、妹はすっかり警戒を解いていて、兄の背から出て隣の男に駆け寄っている。これはちょっとお兄ちゃんに同情しそうだ。
「なんだあいつ」
「ごめんな。ヒーローになれそうで浮かれるだけだから、あんまり気にしないでやってくれると嬉しい。妹ちゃんに変なことは絶対させないから」
「本当だな?」
「ああ。約束する」
「わかった。信じる」
兄の方の了承も取れたので、立ち上がって手を差し出した。
「はぐれないように、お兄ちゃんは俺と手ぇ繋いどこう」
「え、でも……」
「妹ちゃんもこいつと手ぇ繋いで歩くから。2人のすぐ後ろ歩いてれば、見失わないし、こいつが変なことしそうになってもすぐ止められるし、安心だろ?」
「ねぇ、さっきっから俺に対する発言が酷くない? 変なことって何? 俺、そんなヤバい男じゃないんだけど?」
「それはいいから。てかお前、迷子センター、迷わず行けるよな? 俺たちが後ろ歩いて見張ってても大丈夫だよな?」
「それは任せて!」
力強く頷いた後、同じように立ち上がって幼女へ手を差し出す。幼女は嬉しそうに、すぐさまその手を取った。
2人が手を繋いで歩き出すそのすぐ後ろを、こちらは渋々と握られた手を引き付いていく。
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