家に帰ると玄関先に見慣れない男性物の靴があった。客でも来ているのかと思いながら自室へ向かおうと階段を登り始めたら、リビングから顔を出した母が、思いもよらない人物の名前を口にした。更に、あんたの部屋で待っててもらってるから、なんて続いた言葉に血の気が引いていく。
なんで勝手に自室へ通してるんだという、母への怒りはもちろんあったが、それよりも自室を見られたという焦りに階段を駆け上がった。
勢い良く部屋のドアを開けたら、会わなくなって久しい年上の幼馴染が机の椅子に腰掛けた状態から、顔だけ振り向いて久しぶりだなと笑った。そしてその手の中には、CDラックにタイトルがわからないよう逆向きに入れていたはずの、BLCDのケースが握られている。彼が出演している作品の最新作だ。
「ちょっ、何やってんの!?」
何年ぶりかわからないくらい久々の相手への、第一声がそれだった。あまりの衝撃に、会っていなかった間の時間なんて、軽く吹っ飛んだ気がした。
「んー、お前が俺のファンらしいって聞いたから、ファンサービスしにきてみた? みたいな?」
こんなのまで全部聞いてくれてんのと、椅子をガタガタ動かして体の向きまで変えた相手が、手の中のケースを振ってみせる。
「ファン、って……え、誰に聞いたのそれ」
「おふくろ。ちなみに、当然お前の母親経由の情報な」
いつのまにかオタク趣味に走った息子の目的が、目の前にいる幼馴染の声だとは知られていないと思っていたのに。母親というのはなかなかに侮りがたい存在のようだ。というか、BLCDの存在やその内容まで把握されていたらどうしよう……
「思うに、俺が出た作品、かなり昔のまで揃えてない?」
「お、幼馴染の応援くらい、してたっていいだろ」
うんそうだ。これだ。それを聞きながらオナニーしてるなんて事実は隠し通せばいい。もし母親に探りを入れられても、それで押し通そうと心のなかで決める。
「非難したわけじゃねぇよ。ちょっとビックリしたってだけ」
感謝してると続けて、相手は嬉しそうに笑った。多分、本心から喜んでくれているみたいで、少しだけ後ろめたい。
「てか、なんでこっち帰ってきたの? 仕事は?」
「たまに実家に顔出すくらいのことはしますよ、俺だって。今回は久々にお前の話聞いたから、ちょっと寄ってみただけ」
「ああ、そうなんだ……」
「俺のファンならファンって、もっと早く言っといてくれりゃいいのに」
「言ったら何かいいことあるの?」
「あー……じゃあ、サインとか要る?」
これに書こうか? なんて手の中のケースをまた振っているから、いい加減それを手放せと思ってしまった。
つかつかと歩み寄って、CDケースを取り上げる。
「作品は聞いてるけど、別にサインとかまで要らない。応援とは言ったけど、こんなのただの、自己満足で買ってるだけ」
「でも買ったら聞いてもくれてるんだろ? どれもちゃんと封開いてるし」
俺の声、好き? なんて聞かれて思わず硬直した。距離が縮まったこともあるが、それよりむしろ、相手の声が明らかに変化したのを感じたからだ。
「これなんかもさ、けっこう際どいシーンあるけど、そういうの聞いて、お前、どんなこと思うの?」
にやっと悪戯っぽく笑った相手に、ぐいっと腕を引かれてバランスを崩す。椅子に座る相手にぶつかる勢いで倒れこんだら、体は相手が支えてくれたけれど、思いっきり耳が相手の口元に寄る形になっていた。
「もしかして俺の声で抜いたり、しちゃう?」
「ちょっ……!!??」
「あ、図星? じゃあ、生声で喘いであげよっか?」
ファンサービスと笑った声は、語尾にハートマークでもついてそうな軽さと色っぽさが混じっていて、それだけで体温が上がってしまう。
「い、要らない要らない要らない!!」
彼の前で、彼の声で勃ってしまう、なんて醜態を晒すのだけは嫌で、思いっきり抵抗したが、耳元でまぁまぁまぁと宥める声を出されるとそれだけで足の力が抜けかけた。後、単純に、思ってたより相手の力が強かった。
CDの中で可愛く喘いでたって、相手も普通に成人男性だ。そういや高校時代は何か武道系の部活に入ってた気もする。
「まぁまぁそう言わずに」
ふふっと笑う声さえわざとらしい上に腰にクるからヤバイとしか言いようが無い。
「んっ、あ……っ、そこっ、ああっ、いぃっ、…はぁ、はぁっ、ん、うん、きもちぃ。あ、あっ、もっと触ってぇ、てかむしろ触ってやろうか?」
唐突に演技から素に戻った挙句、勃ってるけどなんて指摘をしてくる相手に、ああ、そうだこういう人だったと思い出す。面倒見の好い優しいお兄さんな時ももちろんあったけれど、基本的にはぐいぐいと人を引っ張り回しつつ新たな遊びを考えだすようなタイプだったし、色々な悪さなんかもそれなりに教わってきたのだ。
可愛い役柄が多いせいか、なんだかすっかり忘れ去っていた。
「こっちもすっかり大人になっちゃて」
なんて言いながら股間を握られて、さすがに慌てて暴れれば、そこまで本気ではなかったのか掴まれていた腕ごと解放された。
「ちょ、っと! 悪ふざけすぎだろっ」
「いやなんか、久々に会ったお前、可愛くって」
自分の中での相手が、中学くらいまでのイメージが強いように、相手からすれば、こちらは小学生時代の悪がきイメージが強いのだろうことはわかる。わかるけれど、こんなことを昔と同じ感覚で仕掛けられたら、心臓が持ちそうにない。
「もー、やだぁ……」
俯いて小さく呟けば、さすがに相手も焦ったらしい。もちろん本気ではないのだが、相手が昔の感覚を思い出しているなら、相手のお兄さん部分を刺激するのがてっとり早いと思ってしまった。
「ごめん。確かにふざけすぎたよな。でも、お前が俺の出てる作品、追ってくれてるの凄く嬉しかったのは本当だから。変なサービスしてゴメンな」
彼が椅子から立ち上がったのは、こちらが立っていたからで、相変わらず本気でなだめてくる時は視線の位置を合わせるのだなと思った。
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分かりすぎるほどわかりますー。
声って感情が出やすいアイテムですもんね。
この先仲良くなれても、うっかり電話もできないだろうなぁ。。腐腐腐っ。
つい、テレフォン○○、まで連想してしまいました。 そしてお兄さん、どうする??
mさん、コメント有難うございます~
実は、この二人のお兄さん側の話が書きたい気持ちがちょっと湧いてて、取り敢えずで書いてみた続きでした。
電話使ってってのは全く考えてませんでしたが、なるほど、声がメインなんだから電話越しに聞く(聞かせる)ってのもありですね。
書きたい気持ちはまだぼんやりなので、本当に形になるかはわかりませんが、その辺も考えつつネタを練ってみたいなと思います(^^♪