出来上がった鍋を前にそれぞれ取り分けて、いただきますと箸を手にしたところで家のチャイムが鳴った。
思わず見つめてしまった先輩も、来訪者に全く心当たりが無いらしい。それでも無視するわけにもいかず、すまんと一言いい置いて玄関に向かう。
「よぉ! 来ちゃった〜」
手持ち無沙汰に耳を澄ませてしまえば、随分と軽やかで明るい声が漏れ聞こえてくる。どうやら何かの勧誘とかセールスではなく、知り合いが訪ねてきたらしい。
部屋のドアに阻まれて先輩の応答する声は聞こえないが、何やら揉めている気配の後、来訪者はどうやら先輩を振り切って上がりこんだようだ。
「おいっ!」
怒鳴るに近い先輩の珍しい声は、開いたドアの先からしっかりと聞こえてきた。それを全く気にする様子がなく、部屋に入ってきた男はニコリと笑ってヒラヒラと手を振ってくる。
「よっ、初めまして〜てかホントめっちゃ可愛いね、君」
先輩の知り合いならこちらも挨拶をと思うのに、続いた言葉に開きかけた口を閉ざして眉を寄せる。なんだこいつ。
「あ、可愛い禁句の子? ごめんごめん。自覚ありって聞いてたけど、自称するのはありでも人から指摘されるのは嫌とかあるよね〜」
「おいこらやめろ。少し落ち着け。お前の勢いに明らかに戸惑ってるだろ」
べらべらと話し続ける相手に圧倒されていると、顔を覗き込む勢いで近づいてきていた相手を、先輩が肩を掴んで引き離してくれた。
「だってこんなのテンション上がりまくりじゃん?」
「煩くするなら帰れ」
「冷たいなぁ。俺とお前の仲なのに〜」
「あの、先輩、そちらはいったい……?」
「ああ、こいつは」
「あ、自己紹介まだだったね」
先輩を遮って語られた自己紹介によると、先輩とは幼馴染の親友で、他大学の学生らしい。ただの腐れ縁だと嫌そうに言いながらも、先輩はちゃんと相手の分の取皿を用意してよそってあげている。
まぁ相手が部屋に入ってきた瞬間にはわかっていたことだけれど、先輩と2人きりのクリスマスデートはここで終了だ。
そんな残念な気持ちに素早く反応したのは来訪者の方だった。
「あ、邪魔者帰れって思ってる?」
「まぁ、ちょっと」
「素直!」
またしても可愛いと言って笑う相手に、こちらを揶揄する気配も値踏みしている様子もないのだけれど、何がそんなに楽しいんだろうとは思う。なぜだか、なかなかに珍しい反応をされている。
というか、つい先程「可愛い禁句の子」と判断されたはずなのに、全く控える様子がないところからして、かなり変な人って感じだ。
ケラケラと笑っている相手を横目に先輩を見つめてしまえば、申し訳無そうにすまんと謝られてしまった。
「二人っきりのお家デート邪魔しちゃってごめんね〜。どうしても君に会ってみたくて押しかけちゃった」
「俺、ですか?」
後輩の男とお家デートなんて話を聞いて、先輩の貞操の危機を救いに来た的な理由だと思っていた。
先輩自身の口から可愛がってる後輩と明言されているし、見た目が可愛い系とも知っていたようだし、大事な親友が可愛い男の子に絆されて、求められるまま応じてヤバい道に進んでしまわないか監視するとか。もしくはこの人自身が先輩に惚れてて、他の男にとられてたまるかと乗り込んできたとか。
そんな方面でしか考えてなかったから、会いたかったなんて言われても意味がわからなすぎる。
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