無い物ねだりでままならない7

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「あれ? 違いました?」
「全く違う。欠片もかすってない」
「ええ〜」
「恋愛する気がないんだ。というよりは、諦めてる」
「は? 諦めてる?」
「お前も、サークルの女子たちも、俺が望む恋人には程遠いのがわかっているからな。うまく行かないとわかっている相手と、交際する意味なんてないだろ?」
 寂しそうな声の響きに、じゃあいったい先輩はどんな相手を恋人に望んでいるんだろうと思う。思うままに、口に出す。
「先輩って、どんな恋人を望んでるんですか? あ、俺は、」
「いい。知ってる」
 相手の好みだけ聞くのはどうかと思って自分の好みを伝えようとしたけれど、それはあっさり遮られた。そりゃそうだ。恋愛がらみは基本自分の話ばっかり聞かせていたんだから、先輩が知ってるのは当然だった。
 ちなみに、こちらをちゃんと男として見てくれて、頼ってくれるような子がいい。あとまぁこれは必須ではないけど、できれば自分よりも背が低いと嬉しいとは思う。ただの見栄なのは認めるし、小柄とは言っても女子平均身長よりは数センチ高いのだから、自分よりも小柄な女子が少ないってわけじゃないし、そう無茶な要求でもないはずだ。
 頼って欲しいなら頼りがいがあるところを見せなければ話にならないのだってわかっているが、現状、そこがかなり難しい。だって周りに自分よりもよっぽど頼りがいがある男がいっぱいいるんだもん。先輩なんて間違いなくその筆頭だ。
 憧れてるし、先輩みたいになりたいと多少は振る舞いを真似てみたりはするのだけれど、いかんせん見た目が与える印象が違いすぎて、自分が何かしても先輩のように空気が締まるような事は起きない。というのを既に嫌ってほど実感済みなので、やっぱり見た目と中身が伴っていることの重要さってのはあると思う。
 自分の見た目に流されて日和ってるとこがあるのも自覚はしてるけど、打開策がさっぱりわからないのが現状だ。可愛い系の小柄男性で、ビシッと決めるとこは決めるような男が周りに居たらぜひ弟子入りしたいが、もちろん、そんな男と出会ったことはない。
「俺は、お前のことを羨ましいと思ってる」
「え?」
「お前がコンプレックスに感じている、見た目の可愛さも、小柄さも。冗談でも本気でも、お前なら抱けそうなどと面と向かって言えてしまう気安さも、俺にとっては羨ましい。もちろんそれで苦労しているのを知っているし、お前が本当はどんな男になりたいかも知ってるから、羨ましいなんて言われたら怒りしかわかないかも知れないが、それでも、代われるものなら代わってやりたいくらいに、お前の見た目や置かれた環境に憧れてる」
「は? え? 何を突然……?」
 何の話だ。なんでいきなりこんなことを言われているんだ。羨ましいってなんだ。意味がわからない。
「どんな相手と交際したいのか、って話だろう?」
「あ、はい」
 そうだ。そういう話だった。ただ、それと羨ましいって話の繋がりが未だに見えない。
「俺は、こんな俺のことを、可愛い抱きたい付き合いたいって、大真面目に告白してくれるような男がいいんだ」
「ぅえぇっっ????」
 そう繋がるのか、とは思ったが、納得よりも衝撃が強すぎる。
「驚かせて悪かった。俺はゲイで、あいつは当然それを知ってて、それでも付き合いが続いてるから親友なんだ。お前のことは、あんな男に生まれたかった、みたいな意味で話してたから、その実物が見れるっていうんで来たんだと思う」
「ああ、なるほど」
 そこでようやく、心底納得して「なるほど」が言えたけれど、でも突然のカミングアウトに動揺する気持ちは当然まだ残っていた。
「自分が抱かれたい側だから、お前のことを抱きたいという方向で見ることはないが、散々そういう視線にさらされて嫌気がさしてるのも知ってるから、男を恋愛対象に出来る男が不快なら今日限りにしていい。どうせ、後もう数ヶ月で卒業だし、学内で偶然会ってしまう機会もそうないだろう?」
「そ、れは……えっと、ちょ、ちょっと、考えさせて、下さい」
 情報が多すぎてそんなの即答できない。というか、びっくりはしてるけど、今の所不快に感じてはいない。
「わかった。それで、他に聞きたいことは?」
「ない、です」
「それならもう帰っていいな?」
「はい」
 変な話を聞かせて悪かったの言葉を残して、先輩が帰っていく。
 淡々とした口調だったけれど、先輩だって平然と話していたわけじゃないだろう。出来れば明かしたくないと思っていたから、今まで知らされずに居たんだってことはわかる。
 親友のあの人は今日は先輩の家にお泊まりだと言っていたから、帰ったらここであったことを聞いてもらうんだろうなと思うと、胸の奥がもやりとする。
 愚痴って、慰めてもらうのかな。あの距離の近さなら、よしよし大変な目にあったなって、頭くらいは撫でるだろうか。ハグして、背中をトントンするのかもしれない。
 余計なお世話で下世話な想像だという自覚はあるし、そんな想像に気分が悪くなってもいるのに、先輩が帰宅後に親友と何を話すのかが気になってたまらなかった。気にしたって、わかるはずがないのに。
 そんなことよりも、先輩に聞かされた言葉やこれから自分がどうするかを考えなきゃならない。そうは思うが、冷静にそれを考えられる気が全くしなくて、今日はもうさっさと寝てしまおうと思った。

続きました→

 
 
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